白魔導師、駆け抜ける(下)
◇
「ふぅ……」
隠蔽魔法を発動しながら、ため息をつく。
もう、空にモンスターの姿は見えない。
それに地上のモンスターの数も残り少なくなった。
次でラストと言ったところだろう。
あとは、イシュタル周辺のモンスターを森へと帰すだけだ。
少し遠くでは、ユイ達がモンスターと戦っているのが見える。
「はぁ……さすがにきついな」
クレハを背負ったまま木に座り、マナポーションを飲み干した。
俺とクレハでかなりの数のマナポーションを使ってしまった。残りマナポーションは1本だけ。
魔力譲渡を使いながら、動き続けるのは思った以上にきつく、想像以上に魔力の消費が激しかった。
「クレハ、体調の方は大丈夫か?」
「はい……まだ、いけます」
後ろでマナポーションを飲んでいるクレハをちらりと見た。
正直、大丈夫そうには見えない。
不味いな……
心配に思った俺は、クレハに「フレッシュ」をかけた。
体力を回復するヒールなどとは違い、精神的疲労などを回復する魔法だ。
俺はよく魔法を研究していて、疲れた時なんかに使ったりしている。
少しは効果があるはずだ。
「どうだ? 少しは楽になったか?」
「はい……ありがとうございます」
やはり、クレハはこのことに責任を感じているのだろう。
明らかに無理をしている。
経緯はどうであれ、この状況を作ってしまったのがクレハの魔法であることに代わりはない。
もっとも、誰もクレハを責めたりはしないのだろうが……
「無理はするなよ。別に、クレハのせいじゃないんだからな」
「でも……私の魔法のせいで」
「悪いのは魔族だ。それにクレハは被害者だろ」
「ですが……」
クレハの表情が暗くなる。
元々、出会ってから一度たりとも笑ったことはなかったが、ここまで暗くなるのも初めてだ。
この感じ、俺が何を言っても意味は無いだろう。
下手に励まそうとすると、逆効果になるかもしれない。
「とにかく、無理だけはするな」
「はい……」
クレハから空のマナポーションを受けとり、それを収納魔法でしまう。
ガラスを森に捨てるのはよくないだろうし、それにガラス瓶は再利用出来る。
捨てるのはもったいない。
「よし、次で決めるぞ」
「はい」
隠蔽魔法を解く。
厄介なモンスターはほとんど対処済みだ。
もう、そこまで体力を使うことはないはず……
たまに下からの攻撃が来るが、適当に動き回っておけば大丈夫だろう。
そう思い、木から飛ぼうとした。
次の瞬間。
俺の頬を炎の矢がかすめる。
「っ……」
頬に熱さを感じた俺、は急いで後ろに飛び退いた。
目の前を数本の炎の矢が通過していく。
「何だ!?」
次々と飛んでくる炎の矢を、ギリギリのところでかわしていく。
しかし、避けきることが出来ず、数発食らってしまった。
「熱っ......」
炎の矢が掠めた場所に火傷の痕が出来ていた。
くそ……
油断していた。
もしあの時、あのまま飛んでいたら間違いなく致命傷を負っていただろう。
防御力上昇をかけているため、このファイヤーアローの威力では死ぬことはないだろうが……
「失敗したな」
まさか、残り魔力量を考えて、探知魔法の範囲を狭めたのが仇になってしまうとは……
「モンスターでしょうか?」
「いや、違うな」
クレハの問いに俺は即答した。
確かに魔法を使うモンスターは存在する。
魔法を使うモンスターは少ないが、この森にだっていないことはない。魔法を使うモンスターの中にはドラゴンのような伝説級のモンスターもいれば、コカトリスのようなちょっと珍しいだけのモンスターだっている。
まぁ、ドラゴンみたいな伝説級のモンスターはこの森にはいないだろうがな。
もっとも、そんなモンスターが操られるとも考えにくいし……
「って、そんなことはどうでもいい……それよりも」
ファイヤーアローを使うモンスターなんて聞いたことがない。
もともと、かなり高度な魔法だ。
しかも、探知魔法に掛かっていないと言うことは、かなり遠くから射ってきている。
この森にすむモンスターに出来るようなものではないだろう。
もしかして……
とある考えに至った俺は探知魔法の範囲を広げた。
「魔族か……」
やはり、そう簡単に見逃してはくれないか……
少し離れたところから、魔族が俺のことを狙っていた。
未だ、炎の矢を打とうと構えている。
しかし、近づいてくる様子はない。
イシュタルの近くだからか?
「まぁいい」
先程とは違い、魔族から射たれると分かった以上避けることが出来る。
それにファイヤーアローを受けた後、自動再生を発動するためにユイ達にかけた強化魔法を解いてしまった。
というか、解けてしまった。
まぁ、ユイ達なら俺なんかの強化魔法がなくても大丈夫だと思うが……
それでも急いだ方がいいだろう。
俺は残りの魔力を消費し、自分とクレハに強化魔法をかけ直す。
「っ……」
魔力を消費しすぎたか……
とてつもない、浮遊感が俺を襲う。
今にも意識を失いそうだ。
だが、ここで倒れるわけにはいかない。
その後、クレハの魔法が成功するのを信じ、俺はモンスターと魔族の攻撃を避けることだけに専念した。




