白魔導師、潜入する
小屋の中には、雨風に打たれボロボロになった家具や、ガラス片などが大量に散らばっていた。
歩く度に床がギシギシと言う音を立てる。
補強こそされているが、これではどこからどう見ても廃墟だと思うだろう。
確かにこの小屋は、身を隠すのにはぴったりな場所だ。
誰もこの下に、空間があるとは思うまい。
「何処かに、地下へとつながる何かがあるはずなんだが……」
ユイと手を繋ぎながら小屋の中を漁った。
部屋の中にあるものは、片っ端から確認していく。
そして、俺は人の背丈ほどの高さの棚の前で足を止めた。
「ここか……」
一見、そこらに転がっているボロボロの家具と変わらないように見える棚だが、触ったときに僅かだが魔力を感じられた。
「これをどければいいの?」
ユイが俺の触っている棚を、指差しながら尋ねてくる。
「あぁ……そうだが……」
「よし! なら、私に任せて」
ユイはそう言うと、片手で棚を退かせようとした。
しかし、棚はびくとも動かない。
何らかの手段で固定されているのだろう。
棚のあちこちに手を宛ながら、何かないか探っていく。
すると、ちょうど下から二段目の引き出しの取っ手に触れた際に、今まで以上に大きな魔力を感じた。
「そうか。なるほどな……」
この木の棚……。
おそらく、ただの棚に見せかけた魔道具なんだろう。魔力により起動する特殊な道具だ。
そりゃ、ユイがいくら頑張っても動くはずがない。
ある程度上位の魔法で固定されている。
「ユイ……少し退いてくれないか?」
「えっ……まぁ、いいけど……」
俺はユイが退いた後、空いている方の手で、下から二段目の引き出しの取っ手に触れた。
そして魔力を流し込んでみる。
「やはり、このタイプか……」
もしこの棚が、個人の魔力に反応する魔道具だったら、俺にはどうしようもなかったが……。
たぶん、そうではないだろうと予想はしていた。
個人の魔力に反応するタイプの魔道具は、複数人で使用するには向いていない。
同じ魔道具を七人で使っていたとして、その内の一人の魔力にしか反応しないなんて、この状況においては不便すぎるからな。
「ねぇ、ロイド。大丈夫なの? それって魔道具なんでしょ? そんな簡単に開けれるもんなの?」
「あぁ……このタイプの魔道具ならどうにでもなる」
この程度ならたいしたことはない。おそらく、決められた量の魔力を流し込むことで起動する仕組みだろう。
魔力量を調整し、魔道具に流し込めばいいだけだ。
「こんなもんか……」
魔力量を微調整し、それを棚へと流し込む。
すると、棚が少し浮かび、ゆっくり横にスライドした。
棚のあった場所からはまっすぐ下へと梯子が伸びている。
地下へと繋がっているのだろう。
「よし、下へ降りるぞ」
「え、えぇ……でも、これじゃ降りれないわよ?」
ユイはそう言うと、繋いだ手に視線を向けた。
幅は問題ないが、さすがにこの梯子を手を繋いだまま降りることは出来ない。
とは言え、手を離せば気配隠蔽が解けてしまう。
しかもこの魔法……連発が出来ないからな。
仕方ない。
俺は、ユイの身体をひょいっと持ち上げた。
「ひゃ……ろ、ロイド!? ななな、何をしてるの!?」
「いや、こうしないと降りれないだろうと思って……」
「で、でもだからって……別にお姫様抱っこじゃなくても……」
ユイが小声で呟く。
後半部分に関しては小さすぎて、何を言っているのかまったく聞き取れなかった。
「何か言ったか?」
「べ、別になんでもないわよ!」
「そ、そうか? ならいいんだが……」
「いいから! さっさと降りなさいよ!」
ユイに急かされ、俺は地下へと飛び降りた。
かなりの高さがあったせいか、着地と同時に、足に鈍い痛みが走る。
「ねぇ……もう下ろしてもいいんじゃない?」
ユイが顔を赤らめながらこちらを見てくる。
確かに、これ以上抱っこし続ける必要はないな。
俺はユイを下ろし、辺りを見渡した。
当然、手は繋いだままである。
「意外と広いな……」
「えぇ……そうね」
小屋の地下には、想像していたよりも遥かに大きな空間が広がっていた。
部屋の中央には丸く大きな机が置かれており、それを囲むように七人の魔族が座っている。
「あれが、魔族……」
ユイがごくりと唾を飲み込む。
あれが、魔族なのか。やや浅黒い肌だが、まぁ、人間でもあのくらいならいるだろう。決定的な差はやはりその魔力の性質だ。人間とも獣人とも違う。
俺も実物を見たのは初めてだ。そしてそれはユイも同じようで、握った手からは緊張が伝わってくる。
「ん? あれは……」
俺は部屋の端へと視線を向けた。
そこには一人の獣人の女が鎖に繋がれており、ぐったりとしていた。
身体中にアザや傷があることから、魔族に暴行されていたことが分かる。
「ひ、酷いわ……」
酷い有様の獣人を見つけたユイが呟いた。
「そうだな……」
ここに来て、明確になった事があった。
魔族たちは彼女の魔法を使い、モンスターを操っていたのだろう。
獣人の女性からは、あの黒い石と同じ魔力が感じられた。
あの黒い石に比べると、かなり弱々しいのが気になるが……。
「残りの魔力がつきかけているのか?」
最低限の食糧しか与えられていないようだし、長いことあの状態なのか、かなり衰弱しているようだった。
呼吸も弱々しい。
今にも意識を失いそうな……そんな感じだ。
不味い……彼女に倒れられては困る。
この状況を打開するには、彼女の力が必要不可欠だ。
「ユイ、彼女を助けるぞ」
俺の言葉を聞いたユイは静かに頷いた。
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