神との対話2 にゃん娘と作る文明開化
王様です。
あれから5万年も経ってるとか、いくら何でも時間軸がおかしいと思います。
「この世界は5万年後の地球だと? あれからそんなに時間が経ってる訳無いだろ! 死んでから転生するまで5万年もかかったのか? そんな事ある訳無いだろ! 僕はどうなる? もう地球に、いや日本に帰れないって事じゃ無いか!」
「当然、次の疑問はそうなるのよね。でも、ここが5万年後の地球って事は本当だよ」
「じゃあ何でわざわざ5万年後に転生させた? 訳わかんないんだけど! いつの日かロケットでも作って日本に帰る事を夢見てたのに……。いや待てよ? ここが地球だというのなら、どこかに大きい街があるんだろ? いや日本も有るはずだ。船で日本に行けばいいだけの話じゃないか!」
「さっきも言った様に人類は滅びたからどこに行っても人間なんていない。それにもし日本に辿り着いて人間が生きていたとしても、その姿じゃ人間とは思われないと思うよ」
そうだった。
今の僕の見た目は猫人間だった。
目の前にいる猫の神様と同じ姿だ。
しっぽが生え、頭の上に耳が立っている。
自分が言うのも何だけど、どう見ても人間じゃない。
もう日本の日常には戻れないという事実を実感する。
「なんで5万年後の世界に転生させたんだよ?」
「ごめん、転生自体が嘘。正確に言うと転生じゃない。キミ、いやキミ達は僕の手によって作られたんだよ」
「作られただと? この僕が?」
「そう、私が作った。ラビリンスから発掘したコールドカプセルに入って事切れていた人間からDNAを取り出し、欠損部分には私たちフェラインのDNAを継ぎ足して作り出した。猫の姿をしているのはそのせいさ」
「いや、ちょっと待って! 僕には日本での記憶がある。子供の頃から育ち、中学、高校を経て大学にも入学し、バイトもしていた。その僕が作られた存在だというのか?」
「それなら最初に白い部屋で会った時も話したよね。記憶なんて簡単に作れると」
「嘘だろ? 嘘と言ってくれよ。この僕の人生がいや存在が作られた記憶で幻だったのか?」
「本当の事だよ。私たちフェラインは基本的に嘘は吐かないから。キミが生命として存在をし始めたのは夕焼けと会ったあの丘に降り立った時だよ。生命体として存在し始めた言うのならば、もう少し早くて2日前の自我と記憶を作成し始めた時点だね。今までキミに嘘を吐いていた事が心苦しくって……ごめんなさい」
僕って人間ですらなかったのか。
人間として生きてきた記憶があるので受け入れがたい事実だった。
「謝られても……ちょっと待ってくれよ。いきなり僕が作られた存在とか言われても何の事かさっぱり解らないし。第一何の目的で作ったんだよ? それにどうやって作ったんだよ?」
「順番に話していくね。まずは何の為に作られたか……。それはさっき入り口で見た島の全体図が表示されていた機器が有ったよね?」
「ホログラムの事ですよね?」
「ええ。あれは地球シミュレータと呼ばれるものでラビリンスから発掘された物なの。あの機械を使って人間の住む住環境を再現して人間の観察をしていたのよ」
「人間の研究だと? じゃあ、あなたは神様ではなく研究者だというんですか?」
「そうね、人間の研究者。正確に言うと大学の学生よ」
「学生が何で僕らを作ったんだ?」
「あなたたちの世界で言う、夏休みの自由研究ね」
「学生の夏休みの自由研究だと? 自由研究で作られたのかよ? 冗談だろ?」
「本当よ。研究者ならこんなこんな危険な研究はしないわ。むしろ学生だからこそこんな研究が出来るの」
「じゃあ、僕らは実験動物という事になるのか?」
「申し訳ないけど、そういう事になるわね」
「信じられない……。何のための研究なんだよ?」
「人間が絶滅する5千年前、西暦で言うと紀元前1000年前に猿と変わらなかった人類が突如あり得ない速度で物を作り始めるの。日進月歩と言うの? 本当にありえない速度で人間たちは新たな発明をし続けて物を作り続けた。20万年前からずっと石斧を振り回して猿と変わりない生活をしていた人類が突如目覚め、都市を築き、道を作り、馬車を作り、馬車から鋼鉄の乗用車を作り出し、車はやがて飛行機となり空を飛び、飛行機は宇宙まで飛ぶ宙船となって宇宙を飛び回るようになったわ。たった3000年の短期間によ? 私たちフェラインは5万年掛かっても何一つ作れなかったのによ? 確かにラビリンスの発掘が行われる様になったこの1000年間は人間の技術を利用して、私たちの生活は激的に進化したわ。でもそれは、あくまでも人間の技術を利用しているだけ。何一つ私たちフェラインは新しい物を作れないの。そこで人間の遺伝子を継ぐキミたち人間を観察して発明の過程を見て見たかったの」
「その為の実験なのですか……」
「一年目の去年の夏の実験は大失敗。全く知識を与えていなかったせいか地球シミュレーターにセットしても何も作りださない上に、2グループ目もセットしたら出会った途端に殺し合って全滅し、実験は終わったわ。3回ほど同じ実験を繰り返してもすべて失敗で終わる。人間の遺伝子には発明する力は無く殺戮する本能しか無いと断定したわ」
「いや、なんでわざわざ2グループに分けて地球シミュレーターに投入したんだよ? 1グループなら戦って滅びる事も無かっただろう?」
「それは私が入れたかったから入れた」
キーボードを叩いていたもう一人の研究員が言った。
「現実の人類発祥の時点で多くのグループが存在する中で文明開化が行われたなら、それに倣うべきだとシャフォンに提案したのよ」
シャフォンと呼ばれた元猫の神様の猫娘が過去を思い出したような遠い目をする。
「サシテが主張するのももっともだと思って2グループにしたんだけど、去年の惨状を見てそれは失敗だと悟ったわ。どう見ても文明開化を始める前の野蛮な類人猿の行動だったわ。それで去年の轍を踏まない様に今年は1グループで始めたのよ。しかも絶対に戦闘が起こらない様に一人で始めたの」
「それはもしかして夕焼けの事か?」
「そうよ。でも一人では何も行動を起こさなかった」
「夕焼けは一人では何も出来ずに泣いて暮らしてたって言ってたな」
サシテと呼ばれた猫娘キーボードを叩きながら得意げな顔をする。
「ほら、やっぱりライバルグループを投入しないと何も起こらないのよ」
「起こるって言っても戦いじゃ意味が無いの! 殺し合いが起こって全滅する未来しか待ってないから敵対グループは入れたくなかったの!」
半泣きになるシャフォン。
「さすがにこれでは実験にならないと思って力のあるもう一人の人間を送り込んだのよ。今度は力を持った人間。その力で今まで出来無い事も出来る筈だった」
「それが天色か」
「でも力を手に入れても魚を取って食べるだけでそれ以上の事は一切せずに何も作り出そうとしなかった」
野生児の夕焼けと天色じゃなぁ……。
あの高スペックの二人じゃ食べるのに困る事は無いから何も作る必要ないしな。
「そこで今までのすべての知識を与えた人間を送る事にしたの。島の地形データから、今までの人間の歴史に技術、このプロジェクトの去年の実験データの記憶も持たせた生きるデーターベース的な人間『ライブラリアン』をね」
「それはもしかして月夜なのか? それで月夜はなんでも知ってたんだな」
「そう。でも彼女はかしこ過ぎた。地球シミュレータに送る寸前に言ったわ。私が送り込まれても知識から物を再現するだけ。それは『車輪の再発明』となり発明にはならないと」
「確かにそうなるわね。なんでギリギリまで気が付かないのよ、うっかり過ぎでしょシャフォン」
「そこでプロジェクトの情報は一切与えず、人間の技術や知識も全てを与えず、西暦2021年相当の知識だけを与えた一般人として送り込む事にしたの。それが創造者『クリエーター』よ。当時流行っていたライトノベルに倣って異世界転生と思いこませて地球シミュレーターに送り込む事にしたの」
「それが僕か」
「そう、それがキミなのよ。実験は大成功だったわ。次々に物を作り始めたの。籠やナイフや魚の干物もね。そして火の入手も出来そうなところで邪魔が入ったのよ」
「紅葉と稲穂のグループだな」
「そう、それも火打石の入手の旅に出る日にね……。私は夕焼けに新たなグループがやって来る事を警告したの。新たなグループと早いうちに出会わせてキミたちのグループに合流させて一グループにして戦いになるのを防ごうとしたんだけど、すでにキミたちのグループは旅に出掛けてしまい合流は失敗してしまったのよ」
キーボードを叩いていたサシテという猫娘が得意げな顔をする。
「私の作戦勝ちね。シャフォンのやり方は甘いのよ。あのやり方では肝心な要素が抜けてるのよ。人類の凶暴性よ! それで私はナイフを持たせて、ゲームという記憶の中で戦闘経験を積ませた上で、キミと同じ現代日本の知識を持たせたグループを送り込んでみたの。シャフォンが知識が有れば戦いが怒らないと主張してたからね。しかも言葉はわたしたちが使う言葉とは違う、当時日本で使われてた言葉を覚えさえ、コミュニケーションを取れないようにしたの。キミたちを襲わせるためにね。その目論見は大成功だったわ」
「それで紅葉グループはナイフを持っていたのか」
「でも、キミと違って初期説明を一切なしに世界シミュレーターに送り込んだのに、色々と物作りを始めたのは興味深い行動だったわ」
「でもね。キミは戦いを好まなかった。2回の襲撃を受けて相手を殺せる状況だったのに殺さなかった。知識と人格が人類の遺伝子に組み込まれた凶暴性を抑える興味深い実験結果だったわ」
「もしあそこで僕が反撃してたらどうなった?」
「少なくともここで私達と会う事は無く、キミたちは何も知らずに実験終了と共に死ぬ事になった」
「死ぬだと? 僕らが死ぬのか?」
「この地球シミュレーターは私たちの物では無いわ。夏の長期休暇中に教授たちが使っていない機器を借りているだけなの。だからこの長期休暇が終わり地球シミュレーターの電源を落としたら、あなた達は漆黒の闇に飲み込まれていずれ死ぬことになるわ」
「夏休みが終わると僕らは死ぬのか?」
「そうよ」
「それはいつなんだ?」
「夏休みの終わる三日前、期間にしてあと一週間」
「なんだと! 一週間でみんな死ぬのか? ちょっと待てよ! 冗談じゃないよ! やめてくれよ!」
「でもキミは今迄の実験動物とは全く違う気がするのよ、とっても優しくて頑張り屋さん。そんなキミが私は本気で好きになったわ。自己を持っている一つの個人としてね。消してしまうには惜しい存在だと思ったの。そこで生き延びる唯一の道を教えるわ」
「教えてくれ! 皆を助けたい!」
「フェラインは新たな物を作る事が出来ない。それは以前も言ったわね。それは多分遺伝子由来の性だと思うの。でも新たな物を作り出せる者に対しては最大限の敬意を示すわ。それが人間であろうが、実験動物であろうが……」
その時、月夜の不可解な行動が解った。
月夜は僕に何も教えてくれなかったが、知識を持っていながら出し渋っていたのではない。
僕が車輪の再開発をせずに新たな発明をする事を導こうとしてたんだと。
きっと頭のいい月夜の事だ。
月夜は考える事で僕らが生き残るための方法を模索し唯一の道に辿り着いたんだろう。
僕らの終末を知り、僕に発明をさせ、月夜なりに最悪の結末を回避しようとしてた結果だという事が。
月夜は好き好んで僕らにつらく当たってたわけじゃ無いんだ。
僕は月夜一人に全てを背負わせてしまっていたんだ。
目頭が熱くなり、涙がこぼれた。
「僕が新たな発明をすればみんなが死なずに助かるって事なのか?」
「そうよ。『車輪の再発明』では無い新たな発明が出来れば知性体として認定されて、キミたちは存命できるのよ。当然地球シミュレーターの電源も切られる事は無くなるわ」
「みんなが助かるって事だな?」
「ええ。フェラインは嘘は言わないわ」
「わかった。頑張ってみる。でも一週間じゃ時間がキツ過ぎる……もう少しどうにかならないのか?」
「それならば大丈夫よ。一週間と言うのはあくまでもこの世界での時間。地球シミュレーターの中では時間の進み方が違うから、今から3回目の冬を越えた後の秋がタイムリミットだわ」
「それなら何とかなるかもしれない」
「じゃあ頑張るのよ」
「はい。何とかやってみせます」
僕は人間では無かった。
人間だった者の遺伝子の断片にフェラインの遺伝子を補完して作られた実験動物。
現代知識を持っていた日本人だと思っていたら全く違った。
大学、アパート、バイト、そして最後に拾った黒い子猫。
あれ程、現実感が有ったのにな。
すべてが偽りだった。
でも僕は生きている。
にゃん娘たちも生きている。
でも別れの時は迫っている。
別れたくない。
ならば全力で物を作るしかない。
「もう僕は元の日本には戻れない。あの黒猫も抱くことが出来ない。でも僕は現状と今の世界を受け入れ死ぬ気で頑張りたいと思う」
「頑張りなさいよ。お土産代わりにひとついい事を教えてあげる。あの時の黒猫はあなたをずっと見守っているわ」
「猫なんてにゃん娘以外見た事無いけど……死後の世界とか僕の心の中で見守っているようなスピリチュアルな話?」
「違うわよ。キミの仲間に現代日本の知識を持ってる子が居たでしょ?」
「それってまさか!」
「早く戻ってあげなさい。島の中ではかなりの時間が経ってる筈だからみんな心配してるわよ」
「わかりました。すぐに戻ります」
「あっちょっと待って。これからキミも夕焼けと同じ様に私と交信できるようにしてあげるから。本当に困った事が有ったなら言いなさいよ。少なくとも私はあなたの味方であり、あなたの神様だから」
クリップボードに何かを書き込むシャフォン。
「サービスでお腹に傷も治しておいたわ。もう傷跡は目立たないはずよ」
「ありがとうございます」
僕は船に乗って島へと戻った。
初夏だった季節はいつの間にか秋になっていた。
事前に神さまから聞いていたのか、浜ににゃん娘たちが集まっていた。
「王様! 王様! おかえりにゃ!」
「王様やっと戻って来たな! 全然帰ってこないから波に飲み込まれて死んだと思ったぞ。どうだった?」
「神様に会って色々と話を聞いてきた」
「神様に会えたんにゃ。いいにゃー!」
「いいだろ?」
さすがに何も発明出来なければ皆が死ぬ事になる絶望的な状況は話せなかった。
遠慮がちに月夜と天色の後ろで立っていた月夜を抱きしめる。
「全て聞いてきた。今まで一人だけで頑張らせて済まなかった。今からは月夜も一緒にやっていこう」
「もういいのですか? 隠さなくてもいいのですか?」
僕の胸の中で涙ぐむ月夜。
「僕は地球に残して来た黒猫の事がずっと気になってたんだけど、あの子猫は月夜だったんだな」
「王様の事が大好きなのに言い出せなくて辛かったんです」
「これからはその気持ちを隠す事も無いぞ。2人、いやみんなでタイムリミットに向けて頑張ってやっていくんだからな」
「はい。頑張って生き延びましょう」
「おうよ!」
僕とにゃん娘の文明開化は今始まった。
僕らの輝かしい未来を手に入れる為に!
これで「にゃん娘と作る文明開化」の第一部終了です。
途中の中断や改稿含めて足掛け四年、今迄読んで下さって感想と評価を付けて下さった皆さん、お付き合いくださいましてありがとうございます。
よろしければ評価欄の方から評価と、感想欄から感想をお願いします。
第二部は他の仕掛作品が終わってからになりますので、かなり後になると思います。
では、またどこかで。




