神との対話1 人類
王様です。
神様が目の前に現れました。
神様はお空の上にいると思ったら、扉から出てくるんですね。
猫の神様は僕をドアの中へと招く。
ドアの中は薄暗く、部屋の中では様々な機器が淡い光を放ちながら動いていた。
その中で一番大きく、そして目を引くものが有った。
3メートル四方の巨大なテーブルだ。
そのテーブルの中にホログラムの様な物で表示されている島。
その島には見覚えが有った。
米粒ぐらいに小さいが僕らが漁で使う大岩と、これまた小さいが村の様な物が見えた。
僕らの住んでいる島だ。
どうやら島の全体を映し出したマップの様な物だ。
それが赤や青や緑のドットで表されていた。
まるでSF映画のワンシーンを見てる感じだ。
僕の目が釘付けになっていると、神様が僕の顔を覗き込む。
「やっぱりこれが気になるよね。見たくなくてもこの大きさじゃ嫌でも目に入っちゃうもんね」
「これは僕らの村の模型みたいな物ですよね?」
「うん。これは村のある島のホログラムだね」
「これで僕らの事を見ていたんですよね?」
「そうだよ。これを使って君たちの様子を観察していたんだ」
「天国にはこんなすごい物が有るんですね」
「それもこれから説明しようと思ってここに呼んだんだけど、どこから話すのがいいのかな? 暗くて話しにくいから部屋の電気を点けるよ」
クリップボードに何かを書き込む神様。
僕が日本から神様の元の白い部屋へと送られた時に見たあのクリップボードだ。
書き終えるとすぐに部屋が明るくなり白を基調とした部屋になった。
部屋が明るくなった事でホログラムの表示が部屋の明るさに負けて結構見難くなる。
これのせいで部屋を暗くしていたんだな。
神様は部屋の奥にあるソファーテーブルに向かう。
ソファーに向かう途中、もう一人の猫娘がいて僕と目が合った。
キーボードを叩きながら僕に会釈したのでつられて頭を下げる。
きっと神様なんだろうけどキーボードを叩いている姿は作業員の様で、その姿に神様としての荘厳さは無かった。
「さてと、どこから話そうかな? 時間はたっぷり有るから全部を話すつもりなんだけど……とりあえず人類の歴史から話そうかな?」
「人類の歴史ですか?」
「人類の歴史。どうやって人類が滅んだか聞きたいだろ? 説明をするね」
「人類は滅んだんですか? 僕がこの世界に来てからすぐですか?」
「キミが生きていた時代から2000年後の話だから安心して」
「2000年後って……なんでそんな未来の事がわかるんですか?」
「起こった事だからね」
「起こった事って、どういう意味ですか?」
「それも後で説明するから……でもキミならば絶対に理解出来るはずだから安心して」
そうは言われたものの、人間が滅びたことを理解したくないな。
でも、どんな原因で滅びたのかは気になる。
「人類が滅びたのはいつなんですか?」
「さっきも言った様にキミが生きていた時代から2000年後の西暦で言うと3958年だよ。当時はの地球は環境破壊で地上には住めず酸の雨と風が吹き荒れていた荒れた土地だったんだ。そのせいで地球には住めなくなっていたの。みんな地上の遥か上の、成層圏の遥か上に作られた空中庭園に住んでいたのよ」
「ははあ」
「こんな話は退屈?」
「正直実感がわかないというかなんというか……僕に関係の無い遥か未来の人類の話をされても全く実感が湧きません」
「興味が無いとは思うけど、大切な事だから我慢してでも聞いて欲しいの」
「はい」
そういうと神様は話をつづけた。
「どうして人類が滅びたか教えるわね。最初は何でもない事故だったの。小さな隕石が空中庭園に衝突したと伝えられてるわ。オートリカバリーでどうにでもなる事故だったの。でもね、事故にミスが重なって、不運な事に事故に対する対応も遅れて、それで空中庭園が爆発し墜落する事故が起きたの。するとね、その破片が密集していた空中庭園を次々に襲いだしたの。すると襲われた空中庭園は爆発し墜落し更に破片を放出。連鎖が連鎖を呼んで空中庭園は酸の吹き荒れる地上に全て落ちたわ」
「スペースデブリの拡散によるケスラーシンドロームですね」
「詳しいのね」
「軽く聞きかじった程度です」
大学の図書館で呼んだ科学本の知識が役立った。
「そして人類は2つの選択を迫られたの。もう空中庭園を建てられなくなったので一つは地球を放棄して新たなる新天地を探す宙船を作って旅に出る事。これはお金を持ってる人が取った選択だわ。そして地球を出れなかった人はもう一つの選択肢を取る事にしたの。環境破壊が浄化されるまで地球の地下に住むという選択。でも両方の選択とも人類が生き残る事が出来なかったの。新たな新天地を求めて宙船で旅立った人たちは、いつまでも終わらぬ長旅に耐えられず絶望し次々に宇宙の藻屑となって消えたわ。旅に出られなかった人類は地下で過ごしたけど、汚染した空気を吸って生きながらえる事は難しく1000年程で滅びたわ。滅びる直前、最後の望みを賭けて人類は文明を再生させる為の科学機器と共に長い時間眠り続け汚染が自然浄化された世界で蘇る事を考えたのよ」
「コールドスリープだな」
「そうとも呼ばれてたわ。人類が眠る揺り籠はラビリンスと呼ばれて長い間地下で沈黙を続けていたけど、予想を遥かに超えるあまりにも長い浄化期間に耐えられなくなった人類は全て朽ちて機器だけを残して滅びたの」
「なるほど。それで人類は滅びたのですね」
「そうなの。でも地球上で全ての生き物が死に絶えた訳では無かったの。地下で人間と共に暮らしていた生物の中で生き残った者がいたのよ。それが私達『フェライン』猫の末裔の猫族よ。元々は猫という4本足で歩く生物だったんだけど、進化と適応を繰り返し地球上の生物の頂点に立ったわ」
「人類は完全に滅んでしまったんですね」
「ええ。人類は滅びました」
「先ほどフェラインが地球上の生物の頂点に立ったと言ってましたが、もしかするとこの地は地球なのですか?」
「ええ、ここは事故から5万年後の地球です」
猫の神様は僕の聞きたく無い事を言い放った。




