夜明けの門6 天界の門へと至る船
王様です。
海に不審な物が有るとの事で天色に背負われてやって海岸にやって来ました。
天色はお姫様抱っこをして僕を運ぼうとしましたが恥ずかしいので必死に遠慮しました。
海上にあり得ない物を見た。
まるで昼の様に明るい光の柱。
まるで昼間を切り取って来たかのような明るさ。
どう見てもあり得ない光景。
少なくとも僕の今迄の人生の中で見たり聞いたりした事の無い物だった。
「わたしが言ったのは本当だったって信じてくれたかにゃ?」
「これを見せられたら信じない訳にはいかないよ」
「あそこに王様がいかないといけないにゃ。あそこにいけばてんごくにいる神様にあえるにゃ」
あそことは沖合に見える柱。
沖合と言っても見える距離。
たぶんこの海岸から2~3キロメートル位の距離だ。
筏でも作れば簡単に辿り着けるだろう。
早速、皆の手を借りて筏の制作に取り掛かる。
筏自体は簡単に出来た。
10センチぐらいの太さのまっすぐな棒をツタのロープで結わえるだけ。
それに乗って木の棒から作ったオールで漕ぐだけだ。
この浜辺に打ち寄せる波は穏やかなので受けさえすれば辿り着けるはず。
ボートの類には今迄乗った事が無いけど、たぶん光の柱に迄は辿り着けるはず。
僕の傷が癒えた三日後に出発する事になった。
にゃん娘達に見送られて光の柱へと旅立つ。
この海岸は川が流れ込んでいるので離岸流が発生していて潮の流れがかなり複雑だ。
潮の流れには沖へ向かう流れと、浜に向かう流れがある。
離岸流とはこの沖へ向かう潮の流れの激しい物で、それに乗れば簡単に沖合まで簡単に出ることが出来る。
僕はこの浜の潮の流れを事前に調べておいた。
沖へ向かう流れの離岸流に乗り浜を離れた。
これでオールを漕がなくとも沖への距離がかなり稼げるはずだ。
浜へ戻る潮の流れに変わる所で、オールを漕いで沖へと向かう。
それから30分ぐらい進むと嫌な物を見つけた。
うず潮だ。
海流と海流がぶつかり合い、全ての物を海底へと引き摺り込む渦。
僕はうず潮を避けて進むが、まるで吸い寄せられるかのように筏は飲まれバラバラに分解。
うず潮に飲み込まれた僕は気を失い、気が付くと浜へと打ち上げられていた。
倒れたままの僕に夕焼けが覗き込んでくる。
「だいじょうぶかにゃ?」
「ああ、死んではないみたいだ。うず潮に飲み込まれて筏がバラバラになってしまった」
「そう言えば神様が言ってたにゃ。船で来いって。だから筏だとダメにゃのかもしれない」
「船ってどんな船だったんだ?」
たぶん、湖の貸しボートみたいなのだな。
漁船レベルの大きな船という事はあるまい。
「その船には白い布は立っていましたか?」
月夜が夕焼けに聞く。
月夜が言ってるのは船の帆の事だろう。
「あったにゃ」
「船には帆が必要なようですね。きっと風でうず潮を乗り切るんでしょう」
「帆が必要なのか。でも帆なんて布が作れないから今作るのは無理だろうな」
「布でなくとも風を受けられれば帆になりますよ」
「帆をどう作るかか」
いつものツタで編めるならそれが一番早いけど、ツタで編んだ網だと目が粗いから帆としてはあまり役に立たないだろうな。
僕が悩んでいると月夜が誰かを連れて来た。
「紅葉さんが帆の事は任せろと言っています」
「任せていいのか?」
「はい」
そして持って来た素材は昆布。
昆布で帆を作るだと?
昆布はどう見ても船の材料じゃねーし。
「昆布で帆を作るのか? それはちょっと無茶苦茶だろう」
『沖に出るまでならこれで十分。それに水に濡れてるうちは意外と頑丈だよ』
普通に考えると非常識で無茶苦茶な素材だけど、やりもしないで否定する事も無いな。
帆は紅葉に任せて船を作り始める。
カンナやノコギリ無しで船を作るのは難しい。
船を作る以前に真っ直ぐな材木を作るとこからして無理ゲーレベルだ。
すると稲穂からいいアイデアが出た。
『材木を組み合わせて船を作るのが困難ならば、大きな木から削り出して船を作ってみたらどうでしょうか?』
無茶苦茶な発想だったけど石斧しか持たない今の僕らが出来る現実性のあるアイデアだった。
確かカヌーの原型となるポリネシアの船がそんな感じで作ってたはずだ。
実際に作ってみると、木を削るのは石斧だけでは大変な作業だった。
だが仕上がった物は予想以上いい感じに作れた。
一つのカヌーではとてもじゃ無いが僕には乗りこなす事が出来ず、結局二つのカヌーに筏を連結させる方式で船に仕上げ帆も付けた。
幅広の船になったので多少の波では転覆する事が無くなる。
結局作り上げるのに一ヶ月も掛けたがかなりいい感じに仕上がったと思う。
それまで天からの光は消える事無く在り続けた。
「ほな王様。ウチらが一生懸命作り上げた船で、神様の元に行ってきいや」
紅葉が大阪弁で話すとは意外だった。
紅葉も稲穂も月夜の猛特訓のお陰で普通に話せるようになっていた。
季節は既に初夏を迎えていた。
「いってきます!」
僕は真っ青な空の元、眩しい朝日を浴びながら天の柱へと向かって船を滑らせるように走り出させた。




