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にゃん娘と作る文明開化  作者: かわち乃梵天丸
第三章 にゃん娘と始める文明開化
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夜明けの門3 雨の降る暗いあの夜

 寒い。

 寒すぎる。

 あまりに寒すぎて震える事さえ出来ない。

 まるで僕が死んだあの日の様に。


 僕は死ぬんだろうか?

 あの冷たい雨の降る、僕の死んだ夜の様に……。


 *

 

 雨の中、僕は全速力で自転車を漕いでいた。

 きっと警官がその場に居たら確実に止められる位のスピードだったに違いない。

 なぜそんなにも急いでたかと言うと氷のように冷たい雨が僕の背中を目掛けて降り注いでいたからだ。

 もう五月になろうかという時期だけど夜の気温はまだまだ低くて肌寒い。

 雨に降られたことも有って鳥肌が立つほどだ。

 雨は僕の頭にも降り注ぎ雫が滝のように流れ目に入る。

 その冷たさも相まって僅かな痛みを伴った。


「うっひゃー! 冷めたー! 春なのにこんなに冷たい雨が降るなんて……風邪ひいちゃうよ!」


 僕は誰に聞かせる訳でもなく、まるでネットの実況動画の配信者の奇声のようなぼやき声を上げながら自転車で走る。

 バイト終わりの夜。

 街灯が疎らな暗い夜道を一人ママチャリを必死に漕ぎ家へと向かう。

 僕が向かうのは一人暮らしをしているワンルームマンション。

 家賃も自分のバイト代から工面している正真正銘僕の城だ。

 ワンルームと名前が付いているので聞こえはいいが、それは名前だけで実態は昭和の雰囲気が漂う古臭いボロアパートだ。


『メゾン・草凪荘』


 全く似つかわしくない名前がこのボロアパートの名前だ。

 トイレとシャワーとキッチンが各部屋に有るものの取って付けた様な形だけのもので、かび臭いモルタルの壁と湿り気を常に含みブヨブヨに柔らかくなった腐りかけの畳敷きの床の四畳半一間のアパート。

 今時珍しい昭和の名残のボロアパートである。

 日中は周りの建物に遮られて殆ど日が差さない。

 常に薄暗くお化けが住んでいてもおかしくないと思える様な、まるで廃屋寸前の築五〇年のボロアパートである。

 普通の学生ならこんな汚らしいとこは確実に避けるだろうな。

 何で大学生の僕がこんなボロいアパートに住んでるかと言えばべらぼうに家賃が安いからだ。

 水道光熱費込み家賃四万円。

 この近所のアパートの家賃の相場の二分の一、いや三分の一ぐらいの家賃だ。

 事故物件でも無ければ、東京都内二十三区ではありえない値段の家賃。

 それが理由で僕はこのボロアパートに住んでいる。


 親の猛反対を押し切って上京してきた大学進学の為の東京一人暮らし。

 僕の親からは反対していると言う事も有って入学金と学費以外の補助は一切出なかった。

 一人で生活するのが無理ならば東京なんてとこに行かないで地元で進学すればいい。

 それが両親二人の一致した意見だった。

 当然、他の地方出身の学生が親から貰っている仕送りと言う名の生活費の援助は一切貰えない。

 仕方がないので僕は大学に通いながら本屋のアルバイトをしつつ家賃と食費を稼ぎ暮らしているのだ。

 本屋のアルバイトの給料ではこのボロアパートの家賃しか払えなかったのでここに住む以外の選択肢は無かった。

 これだけのボロアパートなので住んでる人は少ないかと思いきや、この辺りの平均を大きく下回る安い家賃のせいか貧乏学生と生活保護で暮らしている人や年金で暮らしているお年寄りでほぼ満室。

 後は日雇いの建築作業員やパチンコ屋の店員や風俗関係の店員など、他の物件では家主の審査が通らないような不安定な収入の職業に就く人が住んでいる。

 バイト先から一五分ほど、雨の中を自転車を漕ぎ続けて息を切らしながらアパートに辿り着いた頃には、長袖のシャツとズボンは雨でびっしょりと冷たく濡れて体に纏わり付いていた。

 自転車から降りて駐輪場でスタンドを掛けていると思わず背筋に寒気が走り鳥肌が立つ。

 寒さがしみるとはこの事だ。

 

「うーさぶっ! 早く部屋に戻って熱っいシャワーでも浴びないと冗談抜きで風邪をひくな」

 

 僕はまた独り言を言いながら自転車のスタンドを立て駐輪場から立ち去ろうとする。

 一人暮らしを始めてから独り言が増えた気がする。

 だって話す相手なんて居ないもんな。

 その時、駐輪場の奥の暗がりの地面でギラリと光る緑色の物に気が付いた。

 

「なんだ?」

 

 僕はじっとそれを見つめていると、暗がりに目が慣れてきたのかその正体が解った。

 黒猫だ。

 闇の中に溶け込んだ黒いシルエットが浮かんできた。

 黒い子猫だ。

 真っ黒な毛並みを持つ子猫。

 毛色が完全に真黒なので闇に溶け込み姿を認識できるようになるまで時間が掛かった。

 しかもすごく小さい子猫だ。

 さらに言うと僕と同じく雨に濡れて寒さで震えている。

 その大きさから考えると今年の春に生まれたらしい片手で持てそうなぐらいの小さな小さな子猫だ。

 子猫は雨でびしょ濡れになった体をうずくまりながら丸くなって寒さをしのいでいる。

 だが丸くなったぐらいではこの寒さに打ち勝つことなんて出来るわけもない。

 しかも身体が濡れているのだ。

 あまりの寒さで子猫は丸まりながらブルブルと小刻みに震えていた。

 

「大丈夫か?」

 

 声を掛けても子猫は震えてるだけで何も答えなかった。

 

「寒いのか?」

 

 僕が近づいても、子猫は逃げようとせず力無さ気に震えてるだけだ。

 どうやらこの寒さのせいで声もちゃんと出せないぐらいにまで体力が消耗してるようだ。

 

「このまま置いておいたら、朝には死んじゃうよな……」

 

 僕は咄嗟とっさに子猫を抱えあげると部屋に連れて行く事を決断した。

 子猫は衰弱しているのか人懐っこいのか解らないが野良猫なのに抱かれても逃げようともせず、飼い猫の様に僕の胸の中でおとなしく抱かれていた。

 

「このアパート、本当は猫とかのペットを飼うのはダメなんだけど今日だけだぞ」

 

 壁が薄いせいで鳴き声が騒音の原因となるペットの持ち込みはご法度である。

 当然ペットを持ち込んだのを家主に告げ口されたら部屋から追い出される事になる。

 実際、去年の暮れに白い小犬のマルチーズを飼っていたおばあさんがアパートから追い出されるのを見たことが有る。

 別に鳴いてるところを聞いた事は無かったんだがそれでも追い出された。

 通報者がうるさかったんだろう。

 僕はバレない様に子猫を隠すように抱えると、ワンルームの住民に見つからないようにアパートの階段を駆け上り二階の自室前まで走って戻った。

 いつもだと階段ですれ違うタバコ吸いのおじいさんが居る時間だが、今日は雨で寒かったせいか居なかったので言い訳をする手間が省けてほっとした。

 ペット禁止のワンルームにペットを持ち込むと言う罪悪感のせいか僅かに手が震える。

 少し汗ばみそして少し震える手で自室の扉の鍵を開け逃げ込むように部屋の中に飛び込む。

 僕は真っ暗な部屋に入ると廊下の照明を点けた。

 蛍光灯電球が時間を掛けて明るくなると少し染みの付いた壁紙の張られた見慣れた廊下が目に入る。

 どうにか他の住人に見つからずに自室に戻れたようだ。

 

「ふー、上手くここまでこれたな」

「にゃーん」

 

 僕が無事に部屋まで辿り着けて安心して子猫に声をかけると子猫も安心したのか返事をしてくれた。

 風呂場の脱衣所を兼ねる廊下で脱衣かごの下にしまってあるタオルを取り出し子猫を拭いてやると白いタオルが薄黒く汚れる。

 水気を取っただけでかなり汚れているのがわかった。

 やはりこの子猫は野良猫だったようだ。


「こりゃ思ったよりも汚れてるな。シャワーでも浴びるか?」

「にゃおーん」

 

 子猫はこれから風呂場で起こるシャンプーと言う悲劇を知ってか知らずかのんきに鳴いている。


「お願いだから暴れないでくれよ」

「にゃーん」


 僕は玄関に入ってすぐの所に設置してある湯沸かし器を点け、服を脱ぎ捨てるように脱いで玄関横の洗濯機の中に押し込むと、裸のまま子猫を抱え一緒にシャワールームの中に飛び込んだ。


 シャワーの蛇口を廻すと、十数秒ですぐに温かいお湯が出てくる。

 冷え切った足の指先に温かいシャワーの湯が当たると少し痛みを感じる。

 それぐらい身体が冷えきっていた。

 子猫も僕と同じぐらい冷たくなっていた。

 早く暖めてやらないとな。


「よし! じゃあ、お前を先に洗ってやるからな」

「にゃーん」

 

 僕はシャワーの湯温をぬるめに調整すると、子猫の耳に水が掛からないように慎重にシャワーを掛ける。

 僕は猫を飼った事がないがこのぐらいの事なら知っていた。

 大学の図書館で『猫の飼い方』という類の本を何冊も読んだからだ。

 なんで大学の図書館でそんな本を読んでいたかと言うと暇だったからだ。

 なぜならば僕は大学で誰一人として友達が居ないボッチだからだ。

 なので友達となる猫に興味が有ったからだ。

 もちろんこのアパートに住んでる限りは猫なんて飼える訳も無い。

 大学ではいつも一人でいて講義の入ってない時間は暇を持て余している。

 スマホでも持っていればゲームでもして暇つぶしになったんだろうけど、仕送り無しで一人暮らしの僕にそんなお金の掛かる物を持つ余裕はない。

 固定電話代わりのガラケーをいまだに使っている。

 暇な時間は図書館に行き、寝てる振りをするか本を読んでるかのどちらかだ。

 おかげで図書館の蔵書の中の小説やラノベなんかの軽い読み物は殆ど読みつくしてしまった。

 サークルにでも入れば友達が出来ていたかもしれないが、バイトで家賃と生活費を稼がないといけない僕にはそんな時間的余裕はない。

 当然友達なんて出来る訳もなかった。

 講義が終わると即バイト先に向かう毎日だ。

 バイト先は商店街の中の小さな本屋でアルバイトは僕一人だけ。

 同僚が居ないので当然ここでもバイト友達なんてできるわけも無い。

 ついでに言うと本屋の立地が閑散とした商店街なのでお客さんも常連の年配の人ばかり。

 大学生活と言えばもう少し華のあるものだと思ってたんだけどな。

 どうやら僕にはそういう物には縁がないらしい。

 バイトから家に帰ると友達の居ない僕はやることも無いのでネットで検索して更に知識を蓄える。

 知識と言ってもネットマンガやネット小説だから今後の実生活の上で役に立つことも無いだろう。

 おっと、気がついてたら、子猫のことをすっかり忘れて余計なことを考えていたな。

 これが僕の悪い癖だ。

 すぐに妄想の世界に浸ってしまう。

 この癖さえなければ友達の一人や二人ぐらい出来たかもしれない……。


 ちなみに猫の身体を洗うときは人間用のシャンプーは使ってはいけない。

 汚れが酷くてどうしても人間用シャンプーを使わないといけない場合は薄めて使うことになる。

 なぜならば猫の皮膚は人間と違い汗をかかず加えて非常にデリケートだから洗浄能力が高く刺激の強い人間用のシャンプーを使うことは好ましくない。

 犬猫用のシャンプーが身体を洗うのにベストだけど、そんなもの猫を飼っていない僕が持っている訳がない。

 そんな時はボディーソープを一〇倍ぐらいのお湯で薄めた刺激の少ない石鹸液を作りそれでシャンプーをする。

 これは僕が大学の図書館で読んだ『猫の飼い方』と言う本の知識の受け売りだ。

 洗面器の中にぬるま湯を少し張りボディーソープを入れ薄めたシャンプー液を作った。

 僕は薄めたシャンプー液で子猫を泡立てた後、慎重に体の泡を洗い流す。

 子猫は僕にされるがままおとなしく立っていた。

 シャワーを浴びている子猫は野良猫とは思えない程おとなしく、うっとりしながら「にゃーん」と鳴いている。

 普通の猫ならシャワーを浴びせると天変地異が起こったかの如く風呂場を走り回って暴れ狂うらしいんだけど珍しいな。

 

「にゃ~ん」


 シャワーを浴びている子猫は本当に気持ちよさそうにうっとりしている。

 温かいシャワーが気持ちいいのかな?

 上目遣いに細目でこちらを見る姿がすごくかわいい。


「お前ずいぶんとおとなしいな。昔誰かに飼われてた事あるのか?」

「にゃ~ん」

「あるわけ無いよなー。こんなちっちゃいんだもんな」

 

 きっとこの子猫は野良の親から生まれた猫だ。

 シャワーを浴びたことがないからシャワーを怖がらない。

 つまり飼われていたことも無い。

 きっとそうだ。

 子猫は元々小さかったが、シャワーで洗うと毛のふくらみが無くなり更に痩せ細って見える。

 あばら骨がうっすらと見えるほどに更に小さく痩せ細って見えた。

 まるで少し大きめなハムスターぐらいの大きさだ。

 ……さすがにそれはオーバーか。

 丁寧に子猫を洗うと泥水とともに毛に染み付いていた獣臭さと汚れが流れ落ちる。

 流れ落ちた汚れが風呂場の床を土色に染める。

 それでも何度か洗っているとくすんだ毛の汚れが流れ落ち、この子猫本来のとても綺麗な透明感のある黒いビロードの様な色になる。

 もう野良猫じゃなく立派な飼い猫のような美しさだ。

 

「よし、汚れが落ちた。すごく静かにしてていい子だったぞ」

 

 子猫は解ったような素振りで、「にゃ~ん」と返してきた。

 子猫が全く暴れなかったので三分もしないでシャンプーが終わった。

「お前いい子だな~」と僕が褒めてやると、「そうでしょ~ そうでしょ~」と言った感じで「にゃーん」と鳴いた。

 僕は慎重に子猫を洗い終え子猫を抱きかかえ廊下に出るとタオルで丁寧に拭いてやる。

 もう汚れでタオルに色が付くことは無い。

 子猫はありがとうと言った感じで「にゃーん」とさらに一声鳴きした。

 僕は風呂場横の廊下にバスタオルを敷きその上にタオルで拭いた子猫を載せた。


「急いでシャワー浴びるから、そこでそのまま待っててくれな」

「にゃーん」


 僕は風呂場のドアを閉め急いで体を洗いながし廊下に戻ると、子猫はタオルの上でお行儀よくお座りをして僕を待っていてくれた。

 

「お、いい子だな。ご飯でも食べるか?」

「にゃーん!」

 

 僕が居間兼寝室の唯一の部屋に裸で移動すると子猫は僕の後を付いてきた。

 子猫は僕の着替え中ずっと僕を見つめていて、着替え終わると同時にごはんまだか「にゃーん」と鳴く。


「ごはんかー。今出すからちょっと待っててくれな」


 子猫は、わかった、まってる「にゃーん」と鳴いた。

 僕は家の中の食材を漁るが、いつも学食で食事を取ってるせいか冷蔵庫や食器棚には猫の餌となる様な食べ物が見つからない。

 ハンバーグやらシューマイなんかの冷凍食品や、カップうどんやカップラーメンなんかのカップ麺しかなくて、とてもじゃないが何が入ってるか分からず子猫が食べられる様な物は何も無かった。

 諦め半分で食器棚の中を探しているといつ買ったか覚えていない焼き鳥缶が見つかった。

 どうやら賞味期限は切れてないようだ。


「これ、子猫でも食べられるのかなー?」


 缶の横の原材料表示を見ると猫が食べたら危険なネギやたまねぎの類は入っていない様だ。

 子猫は「それがいいにゃ~」と鳴くので、小皿に少量のごはんと混ぜて出しやる。

 目の前に置かれた焼き鳥ご飯を見た子猫はすぐに飛びつき「おいしいにゃ、おいしいにゃ」と言って、喜んで食べた。

 ここまで喜ばれると、作った甲斐があるな。

 よっぽどおなかが空いていたのか結構な勢いでパクつき子猫はあっという間に皿を空にしごはんを食べきった。

 ごちそうさま。おいしかった「にゃー」と言って大満足のようだ。


「おいしかったかー、そかそか」

 

 子猫はありがとう「にゃーん」と一声鳴いて僕の足首に擦り寄ってくると、ねむいのでもうねる「にゃー」と言ってベットの足元側の隅にちょこんと座って丸まった。

 子猫は雨の吹き込まない暖かい部屋に安心したのかすぐに寝てしまった。


「こいつの飼い主探さないとなー。ここじゃ飼えないし……でも、飼ってくれそうな知り合いなんていないよな。親戚の中にも頼れる人なんて居ないし、大学の……僕に友達なんていないしな……」

「ふーぅ」とため息つくと子猫の無邪気な寝顔が見えた。


 幸せそうな寝顔だ。

 何とかしないとな。


「学内掲示板に載せれば誰か飼ってくれるかもしれないし、バイト先の店長に話しかけたら店長の知り合いの誰かが飼ってくれるかもしれないな……とりあえず、悩むのは明日やることやってからにしよう」


 僕はPCでネットをざっと巡回し、お気に入りのサイトやネット小説、ネットコミックの更新を確認した後TVの番組表からめぼしい番組を録画する。

 TVのチャンネルを一通り廻して今すぐ見たい番組が無かったので寝ることにした。

 時刻は既に午前零時を過ぎている。

 早く寝ないと明日の朝一番の一コマ目から出る講義がつらい。

 でも必死に勉強しても二流大学以下じゃろくなとこに就職できないのが解っていた。

 良くて三流零細企業の営業職、順当に行っても飲食関係の雇われ店長どまりぐらいしか行けないだろうしな……。

 本命の大学の受験日当日に熱を出して受験できなかった僕の運の無さを呪った。

 

 *

 

 部屋の明かりを消してベッドの上で寝ていると、いつもと違って小猫が足元上の布団に横たわっているせいかやたら寝苦しかった。

 少し寝かかったかな?と思ったときに廊下でざわざわと声が聞こえる。

 隣の部屋に来客の様だ。

 隣に住んでいるのはパチンコ屋勤めの兄ちゃんだ。

 ちょっと見た目にヤンキーが入ってて目が鋭くて怖い。

 仕事のパチンコ屋が終わった後に飲み屋で宴会をしていたが零時の閉店で店を追い出されて行き場がなくなって来たんだろうか?

 隣の部屋に友達を連れてきて宴会の二次会を始めたようだ。

 宴会なんで当然飲んで騒いでる。

 結構うるさい。

 普段なら僕もこの時間は起きているから多少我慢すれば済む話だが、僕が寝ていた事もあって我慢の限界を超えていた。

 今日の宴会は酒がかなり廻っているのか隣の部屋の来客の話し声がかなり大きい。

 まるで耳元で宴会をされてる感じ。

 おまけに明日は早いのでここで起きる訳にはいかない。

 今起きると完全に目が覚めて寝れなくなってしまうので、『うるさい。静かにしてくれ!』と言う意思表示を込めて壁に軽く蹴りを入れて布団を頭まで被って寝ることにした。

 普段ならこれで察してくれて静かになるはずなんだけど、壁を蹴ったのに辺りはいっそう五月蝿うるさくなった。

 今日は人数が多いせいか話し声で僕の壁蹴りがパチンコ屋の兄ちゃんには聞こえていないようだ。

 おまけにすぐ耳元で話す様な声が聞こえる。

 

「起きてー! 起きろー!」

 

 明日早いのによー。

 マジで泣きたい。

 今寝たばっかりなのにそんな大声で言われても起きる訳ねーよ!

 僕は明日早いんだから寝ないといけないの!

 僕の意思を無視してまた耳元で大きな声がした。


「起きるにゃー!」


 うるさ!

 完全に目が覚めてしまった。

 明日遅刻したらどうするんだよ!

 僕は飛び起き「静にしろー!」と怒鳴った。

 だが、そこは僕の部屋ではなかった……。

 僕は辺りの様子が少しおかしい事に気が付いた。

 少しじゃない。

 すごくおかしい。

 消したはずの部屋の明りが点いていた。

 辺りを見回すと見知らぬ部屋であった。


 白一色の部屋。


 よくラノベの異世界転生物で転生前に神さまと出会う部屋みたいな感じ。

 見覚えのある張り替えてから二〇年は経過してるであろうシミだらけの壁紙はどこかに消えてしまった。

 元々部屋に物が多い方じゃなかったが家具も消えていた。

 見覚えがあるのは僕自身と僕の寝ていたベッドだけ。

 そして僕のベット横には、子猫の代わりに猫耳を付けた猫娘のコスプレをした姉ちゃんがクリップボードを手にして立っていた。

 見た感じ僕より少し幼い感じの高校生ぐらいの女の子だ。

 僕好みのかなりかわいい女の子。

 

「やっと起きましたかにゃ。ここまで起きない人も珍しいですにゃ」

「だ、誰? キミ? こ、ここどこ?」

 

 僕はいったい何処にいるんだ??

 何が起こったんだ?

 ついさっきまで部屋で寝てたはずなのに??

 僕はキョロキョロと辺りを見回す。

 それを無視して女の子は大きな声を上げた。

 

「いらっしゃいにゃ!」

 

 その言葉に呆然とする僕。

 やたら軽い感じの女の子だ。

 

「私は猫の神様にゃ。ここは猫の天国ですにゃ」

「はぁ!?」

 

 僕は大声で思わずそう怒鳴ってしまった。

 猫の神様ってなに?

 猫の天国ってなんだよ?

 わけわかんないよ。

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