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にゃん娘と作る文明開化  作者: かわち乃梵天丸
第三章 にゃん娘と始める文明開化
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夜明けの門2 人のいない街

 猫娘は日本からやって来たと言っている。

 どうやら転移者らしい。

 詳しく聞いてみる事にした。


「お前は神様に送られてきたんだよな?」

『神様? そんなのマンガじゃ無いんだし居る訳無いよ』

「じゃあ神様には会わずにこの世界にやって来たと?」

『うん』

「じゃあ、どんな状況で送られてきたんだ?」

『事故かな?』

「事故?」

『ウチはね、ネトゲで期間限定のイベントをしてたんだ。ボスを倒してアイテムをコンプしたと思ったら辺りが真っ白になってね。気が付いたらこの世界にやって来てたんだ』

「転生じゃなく、転移なのか」

『よく分らないけど、転生とか転移とかそう言うのじゃないよ。何かのミスでネトゲの中に取り込まれたんだよ。VRとかじゃない普通のネトゲなのにゲームの中に取り込まれるとかおかしいよね』

「ちょっと待ってくれよ。ゲームの世界って言うのは初耳なんだけど?」

『えっ? ここはネトゲの世界じゃないの?』

「なに言ってるんだよ。そんなことある訳無いだろ」

『いや、ここはゲームの世界のはずだよ』


 そう言い切る猫娘。

 猫娘はこの世界がゲームの世界だと訳わからない事を言い出した。

 さすがにこの世界がゲームの世界の訳が無い。

 でもいきなり全否定なんて事はしない。

 それはバカのする事だ。

 そう言い切るには何か理由が有る。

 否定するならそれを聞いてからでも遅くはない。

 

『この姿、おかしくない? なんでしっぽが生えてるの? なんで耳が生えてるの? この姿に疑問を持たなかった?』

「僕は神様によって、にゃん娘の住む国に送られたからそれほどおかしいとは思わなかったな」

『でもウチらはゲームをしていたら真っ白な光に包まれて気が付いたら丘の上でこの格好になってたんだ。みんな頭がおかしくなりそうだったよ』

「『みんな』って事はお前以外にもこの世界に来てるの?」

『四人来てる。一人が男で残り三人が女。たぶんウチらの四人以外は来て無いと思う。それとウチの名前はお前じゃ無くて紅葉もみじだから』

「紅葉か。名前がわからなかったから女の子をお前と呼んですまなかった」

『なんだケダモノなのに随分と紳士的だな』

「なんだよ、ケダモノって」

『いや、あんな四つん這いで走る足の速いのとか、あんな大岩投げるゴリラみたいなのとか、どう見てもケダモノというか魔獣だろ?』

「あー、あの二人は特別なんだ。速度と力が人間離れしてる。でもとっても優しくていい奴だぞ」

『そうなんだ。ケダモノと言ってごめん』


 そうして猫娘は頭を下げた。

 あまり悪い奴じゃないのかもしれない。


「紅葉の仲間にはあんな感じの力を持ったにゃん娘は居ないのか?」

『いないなー。ウチの仲間は全員日本人であんな凄いのは居ないよ』

「そっか。で、話が戻るけど、なんでこの世界がゲームと思ったんだ?」

『理由は二つあるんだけどね。一つはこの姿だよ。どう見ても猫人間だよね?』

「確かに人間でも猫でもない不思議な生き物だよな」

『ウチらはこれが何か知ってたんだ。この姿はネトゲの中のプレイヤー種族のフェラインなんだ』

「フェライン? 聞いたことないな」

『他のゲームだとキャットピープルとかネコラとか猫又とかそんな感じで呼ばれる種族なんだ。ゲームの中で速度と敏捷性を使って戦う盗賊やアサシン向きのキャラだったんだ』

「ほう。それに似てたと言う事なんだな」

『瓜二つだね。ゲームの中の世界から飛び出して来たみたいな感じ』

「なるほど。もう一つの理由は?」

『この世界だね。この世界はゲームのマップと全く同じなんだ。同じと言っても縮尺とかはちょっと違うけど配置は全く同じなんだ』

「ほほう」

『さっき魚を取った時に大きな人が投げた石が有ったでしょ?』

「天色が投げた大岩だな」

『あれはゲームの中で『黒のまな板』と呼ばれていたランドマークポイントだったんだ。ランドマークポイントというのはマップに書かれている目印の事だよ』

「マップと世界が同じという証拠はそれだけ?」

『いや。それ以外にも街や王都が有った』

「街って……嘘だろ? この無人島に街が有って人が住んでるのか?」

『それなんだけど……確かにゲームと同じ位置に街は有ったけど既に廃墟となって人は誰一人居なかったし建物も何一つ無かった』

「それじゃ街じゃ無いだろ?」

『でも家の基礎となる土台はちゃんと残ってたし、街の中を流れる川の位置も完全にゲームに一致していたんだ』

「そうなのか」

『きっとウチらがこの世界に来る何百年も前に滅んじゃったんだと思うよ』


 やはりこの島には僕ら以外の人間は住んでいない様だ。

 でもこの猫娘の言っている事が本当ならば僕らはゲームの世界の中に住んでいる事になる。

 でも、ゲームの世界の中に飛ばされるなんて事は、ラノベやマンガじゃよく有るけど現実ではかなりの眉唾物だ。

 ゲームの世界だとしても街やNPCが残っていて元気に暮らしているならまだ分らなくも無いけど、建物やNPCも存在して無いとなるとこの世界がゲームの世界だという話はにわかには信じ難い。

 一度その街とやらを自分の目で見てみたい。


「その街ってかなり遠いのか?」

『王都の方はかなり遠いけど街の方はウチらが住んでる洞窟のすぐ近くなんだ』

「洞窟に住んでるのか」

『うん。ゲームで街のすぐ近くに洞窟が有るのを知ってたからね。雨露を凌ぐ為にそこに住んだんだ』

「なるほどね」


 紅葉が言うこの世界がゲームの世界で有るという根拠がマップであるというのはあながち嘘じゃ無さそうだ。

 紅葉が言う街の廃墟という物を一度見てみたいな。

 この世界がゲームの世界かどうかの判断は廃墟を見てからでも遅くはない。

 それに一度洞窟に住むという紅葉の仲間にも会ってみたいな。

 だが月夜は相手は武装しているので会うなと言っていた。

 仲間を危険に晒す可能性が有る以上、僕一人の判断では決められない。


「悪いが、仲間たちと今までの話を相談したい。少し時間をくれないか?」

『わかった』

「小屋の中で待っていてくれ」

『はい』


 僕は侵入者である紅葉を小屋に置き、にゃん娘達をつれて河原へと向かい話し合いを始める。


「月夜はこの事を知っていたのか?」

「はい」


 申し訳なさそうに頭を下げる月夜。


「あの猫女が言う事は本当なのか?」

「真実です。ただ一言付け加えるなら、彼女の言う事は彼女の信じる真実であり、私たちから見て偽りでも有ります」

「嘘を吐いているって事なのか?」

「いえ、彼女たちにとっては言った事はすべて真実です」

「そうか」


 月夜の言ってる事は象徴的過ぎて、僕の頭の演算能力を遥かに超えて全く理解できなかった。

 まあいい。

 細かい事は考えない。

 月夜は全てを知った上で何かを隠しているようだ。

 僕に話せない真実を。

 まあいい。

 月夜の事だ。

 絶対に教えてくれる事は無いだろう。

 これ以上この事に時間を掛けるのは無駄だ。

 僕は別の話を続ける事にした。


「向こうのグループに一度合流してみたいんだけどいいかな? 月夜は向こうのグループと接触すると戦いになると言っていたけど、相手が日本人であるならあの猫娘を仲介役に立てて僕らを紹介してもらえばちゃんと話が通じて戦いになる事も無いと思うんだ」

「そうですね。紅葉さんは武器も持って来なかったしちゃんと話の通じる相手でしたね」

「それにさっきの話では日本からの転移者だから天色みたいな怪力は持っていないし、夕焼けみたいな速度で惑わされる事も無いと思うんだ。万一襲われたとしても天色と夕焼けで撃退できると僕は思うんだけど、会ってみていいかな?」

「わかりました。一度合流してみた方がいいかもしれないですね」

「何かあったら私に任せるにゃ!」

「俺に任せろ!」


 夕焼けと天色からも頼もしい言葉を貰った。

 僕らは話が纏まったので小屋に戻る。

 すると猫女は逃げないで小屋の中でうつらうつら眠っていた。


『すまない。寝ないで夜通し歩いていたから眠むくて寝てしまった』

「疲れているならこの小屋でゆっくり休んで貰って構わない。ただ寝る前に僕らの話が纏まったので聞いてくれ。僕らは一度、そちらの洞窟に住む紅葉の仲間に挨拶に行くことにした。問題無いか?」

『問題なんて有る訳が無い。もちろん大歓迎だ。みんなも喜ぶと思うよ』

「その時には、火打石、塩、土鍋、魚の干物、ジャガイモ、サツマイモも贈り物として持って行く」

『ありがとう。そんなお土産も貰えるならみんな大歓迎してくれると思うよ。こっちの食べ物は果物しか無いけどね。あははは』

「おう、気にすんな。今日は長旅で疲れているだろうから今日はゆっくり休んで貰って明日の朝一番で出発しよう。それでいいか?」

『わかりました』

「今日は僕たちとの出会いを祝して、この村で出来る最大の持て成しをするから楽しみにしていてくれ」


 月夜と天色に貝集めと塩工場に置いてある鍋二つ、ヤシの実を15個ほど取って来てもらう。

 僕と夕焼けはキャベツとジャガイモとさつまいもと果物を集める。

 紅葉が昼過ぎに起きたから、さっそく宴の始まりだ。

 まずは海と山のスープ。

 干肉を刻んだ物とキャベツ、ニンジン、貝、昆布を入れて煮込んだ物だ。

 干肉が塩辛いので敢えて塩は入れてない。

 色々な具材の味が絡み合い、とても好評だ。

 紅葉は美味しさのあまり涙を流しながら食べている。

 デザートはヤシの実と、焼き芋と、夏みかんだ。

 ヤシの実のジュースを飲むと『こんな物、飲んだ事が無い!』と大喜び。

 焼き芋も大好評だったが、夏ミカンは食べ飽きているのかあまりいい顔をされなかった。

 あまりの食いっぷりに結構食べる夕焼けが驚いていた。


「わたしも、こんなには食べられないにゃ! すごいにゃ! わたしもこれから大食いがんばるにゃ!」

「おい、こら! 変な事を対抗するんじゃない」

「てへっ!」

『ふーっ、食った食った。もうお腹いっぱいで破裂しそうで、もう動けへん。少し横にならないと死ぬう~』

「ここで寝ててもいいけど、イノシシがやって来て襲われるぞ」

『マジか? でももう一歩も歩けないし、この幸せな気分の内にあの世に旅立つのもいいのかも』

「おいおい。なに言ってるんだよ? 明日挨拶に行くのに今死なれたら困るだろ」

『それはそうだね』

「天色、悪いんだけど紅葉を小屋迄運んでいってくれないか?」

『あ、背負われる胸が圧迫されて胃から色々な物が上がって来て吐きそうだから、横にしたままお姫様抱っこで運搬お願い』


 軽々と紅葉を運ぶ天色。

 崖の階段を登りきった所で何者かが襲って来た。

 刃物を掲げた猫男。

 ゾッとする程の唸り声を上げている!


「ギ ニ ャ ー !」


 野獣のような速度で距離を縮める!

 そして天色の背中にナイフを振りかぶる猫男!

 僕は一瞬で悟った。

 たぶんこいつは紅葉が言っていた仲間の一人なんだろう。

 仲間の紅葉がとても大きな猫女に抱えられた事で、紅葉が大猫女に捕まったと勘違いした。

 そういう事だ。

 僕は咄嗟に天色と猫男の間に入り、その振りかぶった腕を押さえる。

 ものすごい力で身体が吹き飛びそうになったけど、何とか堪えた。

 猫男に気が付いた紅葉か何か唸った。

 すると猫男の手がブルブルと震えナイフを地面に落とす。

 紅葉の言葉で僕らが敵じゃ無いと分ったんだろう。

 僕の事を心配したにゃん娘から声が掛かる。


「王様!」

「王様!!」

「大丈夫かにゃ!?」


「大丈夫だ。怪我はない。こいつは多分紅葉の仲間だ。仲間が天色に捕まったと勘違いして助けに来たんだと思う。許してやれ」


 だが、その時、僕の、視界が、暗くなり、

 ふらつき、地面に、四つん這いに、なった。

 そして、地面には、大きく、広がる、血だまりが……。


 なに、これ?

 なんなの?


 僕の、腹を、見ると、何かが生えていて、血で、真っ赤に、染まって、いた。

 激痛が、襲ってくる。

 僕は、絶叫し、意識を手放した。

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