夜明けの門1 招かざる客
王様です。
まだ日が昇っていない辺りが薄暗い時間ですが、
なにやら部屋の中が騒がしくて目が覚めました。
明け方、何か部屋の中が騒がしくて目が覚めた。
そして聞こえてくる月夜の悲鳴。
眠い目をこすり薄暗い辺りを見渡す。
月夜の声が聞こえた方を見ると、床の上で何かが揉み合っていた。
月夜の上に何者かがのしかかっている!
仰向けに押し倒されてもがく月夜の上に何者かが馬乗りになっている。
そして月夜の口を押え、悲鳴を抑えている。
「月夜!」
月夜の上に馬乗りになっていたのは猫娘だった。
人では無かった。
見た事のない猫娘。
しっぽが生えて尖った耳。
僕たちにかなり似ている姿の猫人間だ。
背丈は夕焼けと同じぐらいでちょっと小柄。
僕が月夜の元に駆け付けその猫娘に飛びかかろうとすると、猫娘は月夜を人質にとる様に上半身を引き起こし座り込んだままの自分の胸に抱え込む。
月夜の体を腕ごと抱え込み、片手で口を押えていた。
僕は叫ぶ!
「お前はだれだ! 月夜に何をしている!」
猫娘は僕の言葉に返事をするかの様に唸り声を上げる。
こいつは月夜が言っていた、丘に柱を立てた者なんだろうか?
でも言葉を発せず唸るだけで知性の欠片も無い獣だ。
「王様、どうした?」
「なにがおこったにゃ?」
僕の叫び声を聞いて飛び起きた夕焼けと天色だった。
「敵だ! 敵が襲って来た!」
「敵が襲って来ただと?」
夕焼けも天色も、月夜に起こっている事を見て驚きのあまり目を見開いていた。
背の高い天色の姿を見た猫娘は勝ち目が無いと悟ったのか、月夜を放って脱兎の如く小屋から飛び出していった。
けほけほと、咳き込む月夜。
「そいつを捕まえろ!」
僕の号令で夕焼けと天色も小屋から飛び出して追っていく。
猫娘は河原の方向に逃げたようだ。
僕がその後を追っていくが、敵も夕焼けも天色も足が物凄く速い。
息も絶え絶えに河原へと降りる階段迄やって来ると両手で敵の胴を掴み頭の上に掲げた天色の姿が見えた。
「王様、捕まえたぞ!」
猫娘はバタバタと手足を振り回し天色の手から抜け出そうとしているが、天色にガッシリと掴まれているので逃げられなかった。
「よくやった」
「さいしょに飛びかかってつかまえたのは、わたしにゃ」
「夕焼けもよくやったな」
「えっへん!」
「とりあえず、逃げられないようにロープで縛っておこう」
遅れてやって来た月夜が獣のように唸り声を上げた。
それを聞いた猫娘が大人しくなる。
「その人を降ろして下さい。もう大丈夫です」
「降ろした途端に逃げるんじゃないのか?」
「大丈夫です。もう暴れないと言っています」
猫娘は地面に降ろされると座り込んで大人しくなった。
そして俯きながら小さな声で何かを唸り続けていた。
「ごめんなさいと謝っています」
「月夜はこいつの言葉が分かるのか?」
「はい。大体ですが分ります」
「なんで月夜を襲ったのか聞いてくれ」
「それならさっき言ってました。物音に気が付いて起きた私を見て『騒がないで、別に危害を加えるつもりは無い』と言っていました」
「馬乗りになっておいて危害を加えないも無いだろ」
「それは私がビックリしてよろけてしまって……コケた時にビックリして声を上げただけで……その声を抑える為に口を閉じられただけで……この人は何もして無いです」
「なるほど。敵意は無いって訳か。とりあえず話をしたいから、さっき居た小屋に戻ってくれと伝えてくれ」
「わかりました」
月夜がまた唸る。
どうやらこの唸り声がこの侵入者の猫娘が使う言葉らしい。
侵入者は素直に小屋へ戻る。
こちらの命令に逆らう気は無いらしい。
僕は小屋に入る時に天色にそっと耳打ちをする。
「小屋の入り口に立ってこの猫娘が逃げ出さない様に見張っていてくれ」
天色は何も言わずに頷いた。
この侵入者は素手で武器の類は持っていない様だ。
敵意が無いというのは本当らしい。
部屋の中央、既に燃えさしとなったたき火の横に座らせる。
月夜が僕の言葉を通訳してくれてるので意思疎通は出来る。
通訳のお陰で僕のいう事をちゃんと理解出来ているようだ。
早速尋問開始だ。
「何のためにここに来た?」
侵入者はたき火を指差し話始めた。
月夜が翻訳する。
『火が欲しかったんです。焼き魚を食べたかっただけなんです』
「火を盗みに来たのか?」
『はい』
「どろぼうか」
『ごめんなさい』
「なんでそこの女の子に馬乗りになった?」
『馬乗りになるつもりは無かった。ただ、声を出されない様に口を押えてただけなんです。声を出されて、寝ていたそこの大きい女が起きると困るので口を押えただけなのです。結果的に馬乗りになってしまった事は悪いと思っています。すいませんでした』
普通に謝られたので、それ以上責める気が失せてしまった。
とは言ってもこいつの言ってる事を全て鵜呑みにする訳にもいかないので無警戒と言う訳にはいかない。
魚が食べたいと言ってたからとりあえず食べさせてみるか。
獣には餌付けが一番だ。
「焼き魚が食べたいのか?」
『はい』
「食べてみるか?」
『ウチに焼き魚を食べさせてくれるの?』
「おう、好きなだけ食べていけ」
皆で河原に向かう。
「僕はこいつの横で見張ってるから、悪いんだけど夕焼けと月夜だけで魚を集めてくれ」
「わかったにゃ!」
二人は川へと向かい到着すると手を振った。
「よし、いくぞ!」
天色がいつもの様に大岩を掲げて投げる。
放物線を描いて飛んで行った大岩が巨大な水飛沫を上げると同時に、猫娘は天色の怪力にビックリしたのか腰が抜けたように崩れ落ち口をアワアワとふるわせていた。
こんな物をいきなり見せられたらビックリしてそうなる気持ちもわかるわ。
そしていつもの様に河原でたき火をして魚を焼く。
今日は一人頭4匹だ。
少し魚が少ない。
前日に何度も岩を放り込んだの良くなかったのかもしれない。
でも魚が取れなくとも今は貝も芋もヤシの実も食べられるので飢えに苦しむ事も無い。
焚き火で魚を焼いて塩を振りかけて渡すと満面の笑みを浮かべる猫娘。
美味しいのか涙を流しながら食べていた。
「どうだ? うまいか?」
『魚なんて久しぶり過ぎで死ぬほどおいしいです。この香ばしさが堪らないです。ここの世界に来てからずっと果物しか食べてなかったんです』
「他にも美味い物は有るぞ。貝やふかし芋、干し肉もある。食べてみるか?」
『ぜひ食べさせてください! お願いします!』
猫娘は土下座をした。
ちょっとオーバー過ぎる仕草だな。
焼き魚を食べさせると安心したのか猫娘の表情が柔らかくなり口も軽くなって来た。
僕はそれと無しに情報を引き出す。
「仲間もいれば連れてくればいい。みんなに食わしてやるぞ」
『ありがとうございます』
「仲間は何人いるんだ?」
『自分も入れて4人です。男一人に女三人です』
「どこから来た?」
『川向こうのずーっと遠くの山の洞窟です。歩いてここまで半日ぐらい掛かります』
「結構遠いとこから来たんだな。昨日のうちにここに来たのか?」
『夜通し歩いて来ました』
「そう言えば、さっき『この世界に来た』と言っていたが元はどの世界から来たんだ?」
その猫娘はとんでもない事を言った。
『日本から来ました』
どうやら、この猫娘たちも僕や月夜と同じ日本からの転移者だったようだ。
でも言葉も文字も明らかに違う。
僕はその言葉が信じられなかった。
読んでくれてありがとうございます。
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