新しい住居4 打ち込まれた柱
こんにちわ、王様です。
新しい小屋作りが始まります。
その日は村に戻ると日が暮れてしまった。
漁をするには少し暗かったので、夕飯は倉庫に保管していたジャガイモだ。
ジャガイモを皮ごと鍋で茹でる。
昼を抜いていたので塩気の効いたジャガイモが美味い。
ほくほくとした食感と塩味が口の中いっぱいに広がる。
夕焼けと天色も大喜びだ。
「おいしいにゃ! しおあじがいいにゃ」
「疲れた身体には塩味が体に染みて美味いな!」
僕としては塩味だけじゃなくバターも欲しいが、二人は塩味だけで満足のようだ。
イノシシが居るんだから乳牛がいてもおかしくないな。
村づくりがひと段落したら探してみるか。
出来れば気性が荒くないホルスタインがいい。
闘牛みたいな暴れ牛は遠慮したい。
イノシシに襲われて気性の荒い動物はちょっとトラウマ。
山ほどジャガイモを食べて満足したのか、夕焼けと天色はすぐに寝てしまった。
昼間の疲れも有るんだろう。
だが僕はすぐに寝る事は出来なかった。
寝ようとしてもあの丘に刺さっていた棒の事が気になって頭の中をちらついたせいだ。
寝るのを諦めてたき火の横で棒を眺めている。
明らかに人の手で刻まれた文字が、たき火に照らされて影を強めたり弱めたりしている。
僕が起きていたのに気が付いた月夜がやって来て僕の横に座った。
「寝れないのですね」
「ああ。この棒のせいでな」
月夜は何も言わなかった。
僕は独り言のように話を続ける。
「この棒が何の目的であの場所に置かれた物か分らないから気になって仕方ない。それに書いてある文字が全く読めない」
月夜はこの文字が読めたようだが、書かれた内容までは教えてくれなかった。
知っている筈の月夜からは何の言葉も発せられなかったので、あえて問い詰めてみた。
「ここに書いてある文字は、何て書いてあるんだ? 僕たちを殺すとでも書いてあるのか? 知っているなら教えてくれ」
月夜は俯いて少し考えた後、口を開く。
「いえ。そこに書いてあるのは今住んでいる場所の事だけですね。それだけが書いてあります」
「書いてあるのはそんな事だったのか? お前が会いに行くなと言っていたから殺害予告や果たし状みたいな物が書かれているんだと思ってたよ。心配して損したよ。会いに行っても何の問題も無いじゃないか」
「でも会いに行ったらダメです。そこに書かれている文字は読めないですよね? その敵とは文字が読めないんですから、言葉も通じないんです。それも刃物を持っている相手です。危険極まりない相手です。近づけば絶対に殺されます」
「なんでそこまで言い切れるんだ?」
「今はすべてを言う事は出来ませんが、その者たちは私たちを殺す為にこの地に送られて来た者です。それも私たちとは明らかに違う戦闘経験を持った者なのです。会えば絶対に無事では済みません」
「なんでそこまで言い切れるんだよ?」
「今は言えません」
「月夜はいつもそればっかりだな。『言えません』『教えられません』『自分で考えてください』。そればっかりじゃないか。もう少し僕たちに協力してくれてもいいんじゃないか?」
「それも答えられません。今は無理です。ごめんなさい。でもいずれはきっと……」
「そのいずれって、いつなんだよ?」
「それも言えません」
結局言う気無しかよ。
これ以上話しても無駄だな。
月夜の顔を見てるのも疲れた。
寝るか……。
「もういいよ、僕は寝るから。明日は小屋作りをするから月夜も早く寝た方がいい」
「……はい」
僕は火の始末を頼み寝る事にした。
月夜はその後もかなり長い時間起きていたようだ。
*
翌日は小屋作りを始めた。
作るのは竪穴式住居。
今回のはかなり本格的な小屋だ。
まずは穴掘りを始める。
穴は直径10メートル、深さ1.5メートルと非常に大きく大変な作業だったが夕焼けと天色の頑張りで昼前に終わった。
「あなほりおわったにゃ! 夕焼ちゃんすごかったかにゃ?」
「おう、ありがとう! 凄かった凄かった」
「王様、俺はどうだった?」
「もちろん天色も凄かったし助かったよ」
「ふへへへ」
大きな体をしてるのに、僕の言葉で照れ顔をする天色が可愛かった。
昼食に焼き魚を食べた後、作業を再開。
穴掘りよりも大黒柱の打ち込みが大変だった。
長さ5メートルの柱の先端を石斧で尖らせそれを地面に打ち込む
打ち込む深さは2メートルだ。
さすがにそれぐらい打ち込まないと倒れて来そうで心配。
天色にハンマー代わりの岩で叩きつけて打ち込んでもらう予定だったが長さ5メートルの棒ではさすがに大柄の天色でも先端に届かない。
これではどうにもならない。
梯子を作って登って貰ったが、岩を持った天色の体重では僕の作った貧弱なはしごがその重量に耐え切れず折れてしまって登れなかった。
「こりゃ参ったな。柱が長過ぎて打ち込めないとは想定外だった」
「どうする? 穴でも掘って埋めるか?」
「最悪その方法しか無いと思うけど、出来れば打ち込みたいんだ。打ち込んだ方が大黒柱が倒れにくいからね」
「そうなのか。月夜、どうにかならないか?」
「それならば漁に使ってる大岩を持ってきて足場にしたらどうでしょう。あれに乗れば十分高さが足りると思います」
「それなら高さは足りるとは思うが、あんなものを丘の上に放り投げたら衝撃で丘が土砂崩れを起こすかもしれないので却下だ」
結局石を持ってきて竪穴を埋めて、小ぶりな石を何個も棒の周辺に積み上げて土台とした。
それで天色の手がが先端に届く。
柱2本を打ち込む事が出来た。
それだけでその日一日が終了。
柱の打ち込み方法も考えないとダメだな。
*
翌日は昨日積み上げた石を片付けて午前中は終わり、午後に大黒柱と大黒柱の間に梁を渡す。
本来なら梁と柱は組木細工でしっかりと固定したいところだが加工する為の道具がない。
仕方ないので大黒柱の先端に石斧とナイフで梁を載せる直線状の窪みを作る。
そこに梁を載せてツタのロープで固定した。
出来上がったものは神社の鳥居みたいな感じ。
これで一番の難所は作業終了だ。
大黒柱はしっかりと地面に埋まっていて僕や夕焼けが体当たりしたぐらいではビクともしなかった。
「そんなに丈夫なのか。ならば俺も体当たりしてみる!」
天色が怖い事を言い出したが、折られると困るので全力で止める。
ここまで出来れば完成までそう遠くない。
僕は新しい住居の完成を夢見てその日は寝る事にした。
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