新しい住居3 竪穴式住居
竪穴式住居を作り始めます
僕は竪穴式住居の設計図を書き始める。
紙と鉛筆が無いので地面の上に木の枝で書いている。
書いた図面は持ち運んだり保存する事は出来ないけど、頭の中の整理をするには十分役に立つ。
竪穴式住居と言えばまずは穴だ。
これは床になる部分。
穴の直径は10メートル。
今までの枝の小屋に比べると桁違いに広い。
冬場になったらさすがに布団無しの雑魚寝は厳しいからな。
中央にかまどを作り、その周りに布団を敷いて寝ても十分に余裕のある広さにした。
穴の深さは1メートル50センチ。
縄文時代の竪穴式住居だとそこまでの深さは無くてせいぜい50センチメートルぐらい。
それに比べるとかなり深い。
身体の大きい天色も住むんだ。
それを考えると少しでも穴を深くして相対的に天井を高くした方がいい。
大きな小屋を作るのは大変だが、僕の身長に合わせ天色一人だけが天井に頭が届いてしまうと力仕事で一番頑張っている天色だけが住み難くなってしまい申し訳ない気分になってしまう。
なのであえて天井が高くなるように穴を深くした。
穴を掘ったら今度は盛り土だ。
穴の周りに盛り土をする。
盛り土は雨水の侵入を防ぐ役目。
今の枝の小屋の排水溝に相当する。
これは高さ50センチメートル位。
もう少し高い方が長雨の時に小屋の周辺が水没した時安心だが、あまりに高くすると穴の深さもあって小屋への出入りが不便になる。
それと、この村は河原上の丘の上に有るので水は全て崖下に流れるのでそこまで心配する必要はない。
次は柱だ。
まず穴の中に二対の柱を立てる。
立てる位置は穴の外周の対角。
これが大黒柱になる。
そしてその柱に梁となる柱を載せる。
そこに盛り土の外側の地面から木の棒を渡す。
これが屋根の骨組みとなる。
これでメインとなる骨組みは完成だ。
あとは屋根の骨組みに横棒を通してマス目状にする。
これは藁を葺けるように天井や壁材となる藁束を括り付ける為の物。
藁ぶきと言っても藁は無いのでそこら辺の生えてる雑草の束を使う感じになるのかな?
いずれ稲の栽培が軌道にのったら屋根を藁に替えたい。
とりあえずは藁束の代わりに雑草の束でも問題無いだろう。
これで小屋の設計図は完成。
もちろん入り口を設けて雨が侵入しないように玄関屋根を作ったり、天井の排煙換気口の設置は忘れない。
「よし出来たぞ!」
月夜に確認してもらうと『特に問題無いでしょう』とお墨付きをもらった。
早速完成した図面前に夕焼けと天色を連れてくる。
「夕焼け、天色、悪いんだがこの小屋を作るのに手を貸してくれ」
「これがすごいこやにゃのか! 任せるにゃ!」
「もちろんだ。俺の力が必要ならばいつでも言ってくれ」
「ありがとう!」
天色には力仕事でいつも助けてもらってばかりだ。
今回も村の柵を作った時と同じく棒の運搬を頼む。
運んでもらうのは大黒柱二本と梁一本。
そして太さはそれ程無いが骨となる多数の木である。
柱は火打石を取りに行った道中に通ったあの森の入り口だ。
その森の入り口に若木の杉が群生している林が有る。
そこまで取りに行くのだ。
歩いて4時間弱と結構な距離のある林。
向こうでの作業も入れると往復で一日仕事だ。
全員で杉の林に向かう。
木材伐採と運搬の作業量としては僕と天色で十分だけど、村を離れている間に留守番をしている月夜と夕焼けがイノシシに襲われる可能性も有ったのであえて同行を頼んだ。
杉の若木の林は僕がこの地に降り立った丘を越えてその遥か先だ。
たしか僕がこの地に降り立った時は夕焼けが迎えに来てくれたんだよな。
青空の下、心地よい風に吹かれて草原に寝ていたのを今でも覚えてる。
夕焼けがやって来て河原以外何もない村に連れていかれたんだったな。
あの時は全てが夢と思っていたけど、その夢は覚めないで今もずっと続いている。
もしかするとこの世界は僕が見ている夢で、僕はベッドの上で寝続けているなんて事も考えた事が有る。
柱に頭をぶつけて死んで、この世界に送られたんだもんな。
柱に頭をぶつけたのは間違いないと思うけど、頭をぶつけただけでは死なないで意識を失ったままずっと入院している可能性も十分に考えられる。
でもなんだ。
頭を打ってそれからずっと意識を取り戻さず、ずっと夢を見ているような夢落ちルートのシナリオだったら、その糞シナリオを書いた僕の心の中に住む三流シナリオライターの心がへし折れるまで説教し続けてやるつもりだ。
*
細くて真っ直ぐな杉の若木の生える林にやって来た僕ら。
太さ3センチメートルから10センチメートルまでの程よい太さの杉の若木が無数に生えている。
大黒柱や梁に使う木はしっかりした物でないと倒壊の原因になるので太さ30センチメートルクラスの杉を使う。
これはこの林には無いので少し先の森から取って来た。
そして骨となる木は5センチクラスの木。
横に通す木は少し軽めの3センチクラスの木を用いる。
早速伐採だ。
僕が石斧を使って必死に3センチクラスの木を切り倒していると、天色はまるで雑草を引き抜くように杉の木を引き抜き、割り箸を折る様に軽々根や枝を捻り落とす。
天色のお陰で物凄い勢いで材料が集まった。
それを村から持って来たツタで編んだロープで一括りにして天色に運んでもらう。
「天色ばっかりに力仕事をさせてしまって申し訳ないな」
そんなねぎらいの言葉に天色は笑顔で返す。
「気にすんなって。王様が力仕事が苦手なのと一緒で俺は考え事が苦手だ。王様は力仕事が出来ない代わりに頭を使ってるからお互い様だよ」
そう言ってくれると気が休まる。
天色って物凄い力が有るのに、それを振りかざして威張ったり支配しようとしなくて、ものすごく気がいい奴だよな。
この村がいい雰囲気なのも天色のおかげなんだろうな。
帰り道、夕焼けが何かを見つけたようだ。
それは僕がこの地に降り立った丘。
そこに何かが有るという。
確かに僕の目にも何かが丘の上に有るのが微かに見える。
「何か生えてるにゃ! 神さまからのプレゼントかな?」
丘のふもとから頂上まで一気に駆け上る夕焼け。
そして手を大きく降って僕らを呼ぶ。
丘を登るとそこには柱のような棒が立っていた。
太さ10センチちょっとの長さ1.5メートル位の柱だ。
いや、立っているというよりも刺さっていたといった方が正確かもしれない。
そして、その柱にはどこの国の物か判らない複雑な象形文字のような物が掘られていた。
これが神の言葉なんだろうか?
「これは一体なんだろう?」
それを聞いて夕焼けが得意気に言う。
「これは棒にゃ。王様はそんな事も知らないにゃか?」
「これが棒な事ぐらいは知ってるよ。でもここを見てくれ。なにか文字みたいなものが彫って有るだろ?」
「絵みたいなのがいくつも彫ってあるにゃ」
それは小学校の遠足で登山した時に見かけた道標に酷似していた。
その道標は一面を削って平らにして『標高○○メートル 〇〇山』と書いてあった。
それとほぼ同じ形状をしたものが目の前の地面にしっかりと刺さっていた。
たしか僕がこの地に降り立った時はこんな物は無かったはず。
もしかして神様が連絡目的で建てたのかもしれない。
僕はその予想を確かめる為に天色に頼んだ。
「天色、この柱を引き抜いてくれ」
「おう!」
軽々と棒を引き抜く天色。
引き抜いた棒の先端は刃物で削られて尖っている。
明らかに人工物だ。
僕の予想は的中した。
加工した杭のような柱を神様が打ち込んだのだ。
頭の部分には明らかにハンマーみたいなもので打ち込んだ傷もある。
神様からの連絡か。
天啓というやつなのかな?
でもこの文字は僕には読めない。
物知りの月夜に聞いてみようを顔を伺うと今にも倒れそうな感じに顔を真っ青にしていた。
「どうした? 月夜、顔が真っ青だぞ」
「い、いえ、大丈夫です」
「この文字が読めるか? 神様からの連絡だろ?」
「いえ、違います。敵が打ち込んだものです」
「なんだと? 敵がいるのか?」
「はい、間違いないと思います」
「それはどんな奴だ?」
「たぶん人間です」
夕焼けが柱の臭いを嗅いだ。
「この臭いを覚えてるにゃ! たしか火打石を取って戻った時に小屋を壊された時に嗅いだ臭いにゃ!」
「あー、なんか嗅いだ事ある臭いと思ったら確かにあの時の臭いだな!」
天色もその匂いを思い出したようだ。
「なんでこんなとこであの臭いがするんにゃ?」
「小屋を壊した奴の臭いなのは間違いないのか?」
「間違いないにゃ」
「もしかして新しく神様に送られた奴かな? それなら合流した方がいいんじゃないかな?」
「ダメです! 絶対に接触してはいけません!」
「なんでだよ?」
「王様、この柱に彫られた文字を読めますか?」
「全く読めないけど?」
「読めない文字を使ってる相手ですよ。会っても意思疎通が出来ずに殺されるのがオチです」
「会いに行くだけで殺される訳が無いだろ?」
「会いに行くだけなのに、殺される訳が無いだろ?」
「お願いします! この文字を掘ったのは鋭利な切り口からして明らかに金属製の刃物です。そんな武装した相手に会いに行かないで下さい。絶対に殺されます!」
「なんでだよ……。もしかして月夜はこの文字が読めるのか? 何か知ってるのか?」
「今は言えません」
「でもな……」
月夜が僕の胸にしがみ付いて来た。
そして大粒の涙も流していた。
「お願い。王様を失いたくないんです」
ボロボロと涙を流し続ける月夜。
月夜は理由を言ってくれなかったが、僕は月夜の言葉を信じる事にした。




