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にゃん娘と作る文明開化  作者: かわち乃梵天丸
第三章 にゃん娘と始める文明開化
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新しい住居1 貝汁再び

 柵作りの帰り道、天色が思い出したようにつぶやく。

 

「すっかり忘れてたんだけど、王様。貝汁をまだ食べて無いんだけど、あれはどうなった?」

「あー、貝汁か。イノシシに襲われたっきり綺麗サッパリ忘れてたな。よし、今夜は貝汁にするか」

「わーい! かいじるたのしみにゃ! かいにゃ!」


 という事でそのまま皆で海岸にやって来た。

 貝は逃げないから取るのが簡単だ。

 この海岸で貝を取るのは僕たちしかいない。

 捕食される側という立場を忘れた貝が、砂浜の上の小石みたいに無数に転がっていた。

 それを僕らは拾い集めるがまるでドングリを拾ってるかのように面白いように取れる。

 当然砂浜を掘っても数多くの貝が取れる。

 夕焼けは穴を掘るのが楽しいのか、砂浜をほじくりまくって腰より深い穴を掘っている。

 天色も負けずに深い穴を掘っていた。


「そんなに掘ったのか? 俺も負けないぞ!」

「あなほりはわたしの一番とくいなきょうぎ、誰にも負けないにゃ!」

「力は俺の方が有るから穴掘りも俺の方が上だ!」


 二人とも夕焼けの身長を超える位の穴をほじくり返していた。

 そんなに深く掘っても貝は居ないから。

 貝は石みたいに見えるけど生きてるから呼吸する必要があるのであんまり深いとこには居ない。


「あんまり貝が見つからないにゃ」

「そうだな。あんまりいないな。ん? なんだこれは?」


 天色が掘り出したのはとても大きな水晶みたいな白い塊だった。


「こりゃなんだ?」


 天色が僕に石を渡す。


「水晶か? いや、水晶ならこんな白く濁ってる色じゃ無いよな? なんだろ?」


 僕がわからないようなので、月夜が答えを教えてくれた。


「これはタルクですね」

「タルク? 聞いた事無いな」

「物凄く柔らかい石ですよ。使い道は色々あるんですが砕いて粉末にしてパウダーとして使うのが有名ですね。最近は減って来ましたが、ベビーパウダーなんかに使われてました。弥生時代では加工がしやすいので勾玉なんかの加工に使ってましたね。とは言っても柔らかいので宝石としての価値はそれ程ありません」

「そっか。あんまり価値は無いのか、残念」


 なんでこんな物が砂浜に埋まってたんだろう?

 こういう物は崖の地層から取れるものだろ?

 まあ考えてもどうなるわけでもないので回収だけして気にしない事にする。

 貝を鍋いっぱい取ったので戻る事にした。

 出汁代わりの昆布も取るのを忘れない。


 *


 村に戻ると日が暮れ、ポツポツと雨も降り出した。

 そして雨は日が完全に沈む頃にはかなりの大粒に変わった。

 かなり大きな雨音が小屋の屋根からする。

 貝を取って来たのにこの雨じゃたき火が出来ない。


「王様、貝汁は?」

「雨が降って来たから、たき火が出来ないから今日は無理だよ」

「えーっ! せっかく取ってきたのに食べたいにゃ」

「そう言われてもなー。これだけ強い雨が降ってると鍋の中に雨水が入っちゃうし、第一枝が濡れてたき火が点かないぞ」

「枝なら濡れてないのが隣の小屋の中にあるにゃ。それに雨ならこの小屋の中でたき火をすれば入って来ないにゃ」

「この部屋の中でたき火をするのか。濡れてない枝が有るならやってみるか」


 雨の降る川原に行き、石を集めて土鍋を立たせコンロ状にする。

 薪をコンロに並べて火を着ける。


「これも焼くにゃ」


 夕焼けは倉庫の中から魚の干物を持って来た。

 前に保存食として作ったのを見つけたようだ。

 幸いな事に虫がわいていない様なので食べられるみたいだ。

 干物を枝に挿して鍋の周りに立てて焼く。

 枝に火を着けると燃え上がるが、いつまで経っても鍋は煮立たず。

 魚の干物がかろうじで焼けるぐらいだった。


 原因は解ってる。

 炎が小屋に燃え移らないようにかなり火を弱くしているせいだ。


「ちっとも鍋が出来ないにゃ」

「王様、たき火の火が弱いんじゃないのか?」


 さすがにちょっと火力が弱すぎるか。

 枝を増やし少し火を強くする。

 これぐらいなら天井に燃え移る事も無いだろう。

 今後も小屋の中でたき火をするなら、もう少し小屋を大きくして天井の高さを高くしないとダメだな。

 火の粉が飛んで屋根に燃え移ってしまう。

 そうなると今の小枝で作った小屋では厳しいのでもう少し小屋の工法も考えないといけない。

 ログハウスを作るのは厳しいだろうが、縄文式竪穴式住居ぐらいは作りたいものだ。


 縄文式竪穴式住居なら小屋の中でたき火をしていたと思うのでいける筈。

 冬場をこの川原で乗り切るためには小屋の中でたき火をする事は絶対必要になるだろうから秋までに解決すべき課題だ。

 枝を増やし火力を上げたので鍋から湯気が立ちいい匂いが漂い始めた。

 匂いを嗅いだ夕焼けは完全に食欲を刺激されノックアウト寸前だ。


「まだかにゃ? まだ食べられないかにゃ?」

「まだ貝汁が沸騰して無いからもう少し待ってくれ」

「もう我慢できないにゃ」


 まだ出来て無いのに指を突っ込んで食べようとする夕焼けを止める。


「火傷するぞ。それにまだ貝が殻を開いてないからダメだぞ」

「からが開くにゃ?」

「食べごろになると殻を開くんだ」

「すごいにゃ!」

「食べごろを教えてくれる貝って凄いな」


 やたらと感心する夕焼けと天色であったが、単に貝を閉じてる筋肉が煮ると力を失って開くだけ。

 火を強くしたので鍋の中からこぽこぽと沸騰する音が聞こえ、焼き魚もいい感じで香ばしい匂いがして来て焼き上がってきた。


「さて、食べるぞ」


 お玉で貝汁をすくい、ヤシの実の殻のお椀によそう。

 お椀を渡すと二人は物凄い勢いで食べ始めた。

 それを見て笑みをこぼす月夜。


「おいしいにゃ! これはすごいにゃ!」

「美味しい……うわっ! あちちちっ!」


 あまりの熱さでビックリしてよろける天色。

 よろけた勢いで壁をぶち抜いてしまった。


「あっちゃー、ごめんごめん」


 みんな大笑い。

 でも小屋に大穴が空いてしまった事で、雨が降り注ぎシャレにならない事態に。


「あっちゃー!」

「物凄い雨漏りで今日は寝れなくなったな」

「俺のせいで……すまん」

「今日は倉庫の小屋で寝るしかないな」

「王様、鍋は? もう食べれない?」

「大丈夫、食べれるぞ。もう出来上がってるから、たき火から降ろしても大丈夫。隣の小屋に持って行って食べよう」

「やったにゃ!」


 僕は小屋に鍋を運ぶ。


 運ぼうとしたんだ。


「あっちっちっち!」


 鍋が熱いのをすっかり忘れてた!

 あまりの熱さで盛大に鍋をひっくり返した僕。

 たき火に貝汁が掛かって物凄い湯気だか煙だかわからない物が小屋の中に充満する。

 目の前が真っ白で何にも見えない。

 慌てて小屋から飛び出す僕ら。

 誰かが小屋に足を引っかけて壁の大穴をさらに広げる。

 そして小屋から逃げ出した僕らの目の前で小屋が崩れ落ちた。


「こ、小屋が……」

「潰れちゃったな。ごめん」

「潰れちゃったにゃ」


 土砂降りの中、呆然とする僕ら。

 泣きっ面に蜂とはこの事だ。

 これだけでは終わらなかった。

 貝汁で消えた筈の焚き火の残り火が小屋の残骸に燃え移る。

 モクモクと煙が立ち始める。


「燃え始めたぞ」

「もえてるにゃ、もえてるにゃ!」

「小屋が燃えちゃったぞ! 王様、どうすればいい?」


 最初はチロチロと見えてた火がたき火の様に燃え始めた。

 そりゃ枝の隙間に草とか詰めてたからよく燃えるわな。

 ただ、ここまで景気よく燃え始めると隣の倉庫小屋にまで燃え移るんじゃないだろうか?

 小屋が燃えたら今夜の寝る場所が無くなるぞ!


「この小屋はダメだ。もう諦めろ。それより隣の倉庫に火が燃え移らないように全力で注意するんだ!」


 小屋と小屋の距離は近かったけど、幸いな事に雨が激しく降っていたので燃え移る事は無かった。

 三〇分ぐらいで小屋は完全に燃え尽きて炭と化した。

 これだけの騒ぎだったのに怪我が無かったのだけが不幸中の幸いだ。

 僕は今回の件で一つの教訓を得た。


『狭い小屋の中でたき火をしてはいけません。』


 村のおきてとして一生語り継いでいきたいと思う。

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