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にゃん娘と作る文明開化  作者: かわち乃梵天丸
第三章 にゃん娘と始める文明開化
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縄文料理11 柵作り

 逃げ出した月夜は川原の大岩の陰で隠れるように座り込んでいた。

 僕は月夜と視線を合わせる為に正座で座り込み頭を下げた。


「ごめん! 本当にごめん!」


 その姿はまるで土下座である。


「…………。何に対して謝ってるんです?」

「僕が月夜に余計な事を言ってしまった事だよ。さっき僕が君に僕が旦那でいいのかと言った事は別に月夜をからかう為に言ったんじゃないよ。ただ本当になんにも出来ないこの僕が君の結婚相手でいいのかと思ったから言っただけで、それ以上の意味は無いんだ」

「もういいです。わたしもあの言葉は王様と結婚したいって意味で言ったんじゃないですから。単純に村の規模が大きくなった時に二度手間になるんじゃないかと思って言っただけです。王様の言いたい事は解りました。すこし頭を冷やしたいので一人にさせて下さい」


 誠心誠意の土下座でどうにか許してくれたようだ。

 月夜はしばらく一人で頭を冷やしたいと言ってるが、イノシシが出た今となっては一人で川原に置いておくのも心配なので夕焼けを護衛につけて僕は柵作りに戻る。


「解った。ただ月夜一人にしておくのは心配だから夕焼けを置いていくよ。悪いんだけど夕焼けは月夜に付き添っててくれ」

「わかったにゃ。月夜はまかせるにゃ」


 *


 僕は天色と丘の上に戻り柵作りを始める。

 柵と言えば花壇でよく見かける細長な台形の板を連ねた白い柵。

 ただし、それを再現するのは板の加工が困難なので無理だ。

 最低でものこぎりが無いと板の加工は無理とおもう。

 簡単に作れそうなのは牧場とかで見かける木の棒をベースにした、鉄棒のガードレールみたいな形状の柵だな。

 だけどあれだと牛や馬が逃げるのには役立つけどもっと小型の犬の侵入を阻む防御壁としては役立たずで、余裕で棒と棒の間をすり抜けてくる。

 棒をもっと増やしてマス目状にして、犬が通れない位の升目にしないとダメだ。

 ただ、そうなると今度は木の棒の数がかなり必要となる。

 木の棒が大量に必要ならば、もっと別の物を作った方がいいんじゃないか?と言う話に戻るので目の細かい柵を作るのは手間が掛かって非現実的だ。

 現代日本でよく見かけた網の目状の金網フェンスが防御柵としていかに優れた物かを改めて痛感する。

 ツタで作った網で金網代わりにして金網フェンスを再現してもいいけど、ツタで作った網は強度と耐久性が無いから割とすぐに破れるだろうな。

 やはり木で作れる防御柵と言うと、戦国物でよく見かけた先を尖らせた感じの木の棒というか丸太を組み合わせて作ったバリケードかな?

 鉛筆状に先端を尖らせた丸太を地面に垂直に埋め込み、その棒の前方と後方に一本づつ尖らせた棒を斜めに埋め込む。

 横から見ると*(アスタリスク)の文字みたいな感じのバリケード。

 これを連ねて防御壁にする。

 戦国時代に戦場で使われていた防御柵だけあってその防御力は凄まじい。

 乗り越えようとした者に尖った丸太の先端が容赦なく襲い掛かる。

 隙間なく敷設された木の棒が犬やイノシシなどが乗り越えて来るのを確実に阻む事が出来るだろう。

 だがこれは作るのに物凄い本数の材木が必要になる。

 大工道具が無い僕らが作るのは現実的ではない。

 僕がずっと考え込んでるのを天色があくびをしながら指示を待っていると、月夜と夕焼けが戻って来た。


 *


 王様が柵作りに戻るとすぐに夕焼けが私の横にやって来て座り込んだ。

 そして余計な事を口走って自己嫌悪に落ち込んでいた私に心配そうに声を掛けて来た。


「月夜は王様の事が嫌いにゃの?」

「……いいえ」

「好きなんにゃよね? わたしは王様の事が好きにゃ」

「わたしも嫌いじゃないですよ」

「じゃあ、なんで素直に好きって言えないんにゃ?」

「だって男の人に面と向かって好きって言うのは恥ずかしいじゃ無いですか」

「そうかにゃ? わたしは好きなことをつたえるためにいうにゃ」

「言えたら言いますよ。でも王様に面と向かって言うのは恥ずかしいんです」

「はずかしがって言わないと伝わらないにゃ。もっとすなおになるにゃ」


 確かに素直になりたい。

 好きと言ってしまいたい。

 王様と出会ったあの寒い日の事は忘れられない。

 暗闇の中から私を救い出してくれたあの時の事は……。


 でも……私に与えられた使命は王様を導く事。

 それが私の使命。

 王様を導くことが出来なければ私達にはいずれ終わりの時が訪れる。

 こんな使命なんて忘れてしまいたい。

 恋なんてしてる暇はない。

 今は一分一秒でさえ惜しい。

 タイムリミットは刻々と迫っているんだから……。


 でも……。

 あの時の王様の笑顔が忘れられない。

 あの時の笑顔が……。

 全てを打ち明けて王様と一緒に考えたり悩みたい。

 そして恋もしたい。

 でもそんな事をしてしまえば確実に私たちの未来は失われる。

 一人悩んでいると私の肩に重さが軽く圧し掛かる。

 王様が戻って来て私の肩を叩いたかと思って振り向くと、夕焼けが寝息を立てて私に寄り掛かって来てただけだった。

 夕焼けの幸せそうな寝顔を見てると、世界の終わりを一人で悩んでいたことがバカらしくなってしまった。


 *


 夕焼けと月夜が戻って来た。


「王様、手伝いに来たにゃ~!」

「おう、戻って来てくれたか。俺一人じゃどうにもならなくてな」

「なにを悩んでるんですか?」

「柵を作るのをな。頑丈に作ると物凄く時間と材料が掛かりそうだし、手を抜くと防御柵としての役に立たなさそうでね。どうすればいいのか解らなくてずっと悩んでいたんだ」

「どんな感じ柵を作ろうとしてたんですか?」

「戦国時代に使われていたバリケードみたいな柵を作ろうと思ったんだけど、防御力は物凄いけど材料の木の棒が物凄い本数必要だから作るのは現実的じゃないな」

「そうですね。確かに現実的では無いですね」

「野犬やイノシシさえ通れなければいいので、日本でよく見かけた金網フェンスみたいなのを作れないかな?」

「網と言うと、材料はいつも使うツタを使うのですか?」

「ツタで網を作るのも考えたんだけど、ツタは最初は強度が有っても時間が経つと枯れて来て強度が徐々に落ちてくるからフェンスとしてはどうかなと思う」

「要はイノシシが通れず野犬も通れなければいいんですね?」

「そうだな。イノシシが通れず、犬も通れない柵が作りたい。そうなると丸太のバリケードしか無いんだろうな」

「さっき王様が言ったじゃ無いですか。『柵を早急に作り上げて安心して住めるようになるのが先』って。そんなしっかりした物を作ってたら冬になっても柵が作り終えませんよ?」

「そうだな……何かいいアイデアは無いだろうか?」

「それなら、イノシシが通れない位のマス目の柵を作って、犬が通れないように柵に生きたままのツタを絡ませて生け垣を作ればいいんです」

「生け垣か! その手が有ったか! 生け垣ならツタが枯れる事も無くて強度が落ちる事も無いな!」


 月夜がアッサリ答えを教えてくれて驚いた。

 なんか月夜がいつもと違って少し変。

 なんだろ?

 この違和感。


「でも、なんで月夜がそんなこと教えてくれるんだ? いつもだったら散々焦らした後にヒントしか教えてくれないのに?」

「そこまで私は酷く無いですよ」

「そっか、ありがとう」

「いえいえ」


 俺が月夜に礼を言うと恥ずかしいのか顔をぽっと赤らめた。

 こんな月夜なら可愛んだけどな。


「真っ赤にゃ! 月夜の顔が真っ赤にゃ!」

「もーっ! からかわないで!」

「てへへへ」


 夕焼けが走り逃げると月夜が追っていなくなった。

 俺は天色と柵を作り始める。

 森まで行って比較的細くて真っ直ぐな杉の木を取って来てそれを地面に埋め込み杭にして横木を何本も添える。


 イノシシの入って来れない柵の完成だ。

 そしてツタを持ってきて植えて柵に絡ませておく。

 ツタの成長は速いのでひと月もせずにビッシリと柵に絡み生け垣状になって野犬も通れなくなるだろう。

 僕たちの村の柵はこうして完成した。

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