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にゃん娘と作る文明開化  作者: かわち乃梵天丸
第三章 にゃん娘と始める文明開化
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縄文料理4:魚鍋

 村に戻ると夕焼けと月夜が戻って来ていて、スプーンとオタマが完成していた。

 持ち手に木の皮が付いたままで少し不格好だが実用上は問題ない感じだ。


「スプーンを作ってくれてたんだな。ありがとう。上手く出来たな」

「てへっ。テキトーに作ると月夜が鬼のようにおこるから恐かったにゃ」

「王様から頼まれた仕事ですから、私の指導の下、しっかりしたもの作りましたよ」

「月夜は口だけで全然自分では作らなかったのに口だけは恐かったにゃ。ぜんぶ夕焼けちゃんが作ったんにゃ」

「偉い偉い」

「てへっ!」


 月夜の足元には彼女作と思しきねじくれたスプーンとは思えない奇怪な物体が転がってたがあえてそれについては触れないでおいた。

 きっと月夜もスプーンを作ろうとしたんだけど不器用な彼女では実用になるレベルの物は作れなかったんだろうな。


「よし、みんなありがとう。みんなは休憩しててくれ。僕はこれから鍋に入れる最後の具材の野菜を採ってくる」


 にゃん娘達に見送られて丘に向かう僕。

 僕が林の辺りに到着する頃、後ろから大きな声が掛かった。


「おうさまー!」

「どうしたんだ?」

「てつだうにゃ!」

「休んでればいいのに。疲れただろ?」

「王様と一緒にいた方が元気になれるにゃ」

「そうかそうか。じゃあ一緒に野菜採ろう」

「はいにゃ」

「それじゃ、ジャガイモ集めてくれないかな? 前に生で食べようとして食べれなかった地面の中に埋まってる丸い玉みたいなの覚えてるかな?」

「まかせるにゃ!」


 夕焼けには既に見た事の有るジャガイモ取りを頼んだ。

 『土に埋まっている丸い物を取ってくれ』と指示して猫人間の俺たちには猛毒となりうる玉ねぎを持って来られたら大変な事になるからな。

 一度手にしたことの有るジャガイモなら間違う事もないだろう。

 僕はと言うと鍋に入れる緑の野菜とニンジン探しだ。

 緑の野菜は葉物野菜でほうれん草、キャベツ、白菜なんかが有ればベストだ。

 ニンジンは単に彩りで入れたいと思っただけ。

 一応ニンジンは香草の一種ではあるがハーブほど匂いはキツくないので消臭効果は期待できない。

 鍋と言えばモヤシも入れたいとこだけどあれは自分で作らないとダメだから諦めた。


 丘の上を散策する僕。

 玉ねぎが有ったが、一応ネコ科である僕は避けておいた。

 玉ねぎは猫にとっては猛毒だ。

 玉ねぎには『硫化アリル』と言う毒物が入っていて、これを食べると血液中のヘモグロビンが破壊される。

 食べれは窒息に似た症状になり血を吐いて死ぬ。

 厄介なのは加熱非加熱によらず毒性が消えないこと。

 つまり猫にとっては触れてはならない禁断の悪魔の食べ物なのだ。

 猫人間である僕らに玉ねぎがどれほど影響するかは解らないが多少の影響が考えられるなら避けるのに越したことは無い。

 ただ、玉ねぎを避けるとなるとハンバーグを作る時は玉ねぎ抜きで作らないといけないんだよな。

 そうなると玉ねぎ抜きのハンバーグは既にハンバーグではなく、単なるひき肉焼きになってしまうんじゃないだろうか?

 僕は一生ハンバーグを食べることは出来ない。

 玉ねぎ入りのカレーも、肉じゃがも、シチューも食べれない。

 そう考えるとやたら悲しくなってきた。

 これ以上この事を考えるのは止めておこう。


 草原を歩いているとキャベツの群生地を見つけた。

 とりあえずこれを鍋に入れよう。

 採れたてだから青々としてみずみずしい。

 きっとおいしい鍋になるぞ。

 これで葉物野菜は手に入れた。

 後はニンジンだ。


 ニンジンを探しているとキャベツの群生地のすぐ近くにニンジンの群生地も見つけた。

 ニンジン特有のパセリみたいな愛らしい葉っぱが見えたので間違いない。

 当然採取だ!

 よし、野菜はこれで十分だ。


 キャベツ、ニンジン、ジャガイモ。

 魚鍋にジャガイモを入れるのはちょっと違うする気がしたが具材が寂しいのであえて入れることにした。


 * 


 材料を集めたので河原に戻ると鍋の準備を始める。

 夕焼けと天色にはジャガイモとニンジンを洗うように指示。


「川に野菜が流されないように注意しろよ」

「まかせるにゃ!」

「洗ったら、石のナイフでこんな感じでジャガイモとニンジンをぶつ切りにして鍋の中に入れてくれ」


 僕はジャガイモを一口大サイズに切り見本を見せる。

 にゃん娘達はそれを見ると大きくうなずいていた。

 ジャガイモは皮を剥いた方が美味しいだろうけど洗ってあるから皮付でも大丈夫だろう。

 いきなり細かい指示を出して怪我や失敗されるよりは皮付きのままの方がいい。

 出血で真っ赤に染まったジャガイモなんて食べたくないしな。

 ケガをさせる可能性があるのにそこまでさせたくもない。


「月夜は昼に採った魚の下ごしらえを頼む。頭と尻尾を切り落として内蔵を取り出してくれ」

「はい」


 そして僕はと言うと鍋奉行ならぬ鍋の火の番人。

 具材の調理をにゃん娘達に任せて僕は河原にかまどを作り始める。

 かまどって言っても石を組んで土台を作っただけの簡易的な物。

 ただ、調理中に崩れて煮えたぎる鍋の汁が体に掛かったりしたら病院の無い猫の国では命の危険も有るので崩れない様にかなりしっかりした物を作り上げたつもりだ。

 たき火で海水を沸かし、貝と刻んだ昆布を煮込む。

 鍋の海水が沸騰する前には全ての具材の下ごしらえが終わり具材が鍋に投入された。

 海水が沸騰するといい匂いが辺りに漂ってにゃん娘たちは何時かの焼き魚を作った時みたいに狂喜乱舞だ。


「なんなのにゃ! この香りは!」

「凄い匂いだな!」

「おいしそうにゃー!」

「これ食ったらきっと美味しすぎで頭おかしくなるぜ!」

「そうにゃのか?!」

「運が悪いと美味しすぎて死んじゃうかもな!」

「死んじゃうにゃか!」

「だから、夕焼けは食べない方がいい。危ないから夕焼けの分は俺が食べてやる!」

「いやにゃよ! 食べないで死にそうな思いするぐらいなら食べて死ぬにゃ!」

「おし! 夕焼けと俺だけで王様と月夜の分も食って二人で死ぬか!」

「おー!」

「おいおい! 僕の鍋は毒薬かよ!」

「てへへへ!」


 そんな事を話していると鍋が出来上がった。

 仕上がりに刻んだキャベツを投入。

 鍋が色鮮やかになる。


「おいしそうにゃー」

「美味そうだな。匂いがたまらん!」

「よし食うぞ!」


 ヤシの殻のお椀におたまで汁を盛る。

 結構具沢山。

 それを手に取るといきなりガッツくように椀に口を添えて食べようとする夕焼けと天色を止めた。


「ちょっとまったー!!!」

「え? 食べたらいけないのかにゃ?」

「しぬよ!」

「しぬの?」

「しぬ!」

「えー!」

「汁はものすごく熱いから冷ましながら食べるんだ。そうしないと……唇が死ぬ!」

「うひっ!」

「舌も死ぬ!」

「ひゃー!」

「じゃあ、どうやって食うんだ?」

「こうやって食うのさ!」


 僕はスプーンで具材をすくうとフーフーと息を吹きかけて冷ましてから食べた。

 にゃん娘たちもそれを真似する。


「うめー!」

「おいしいにゃ! お魚も美味しいけどこの緑の葉っぱもシャキシャキしておいしいにゃ!」

「焼き魚もジューシーで美味しいけどこっちはお魚以外にいろんな物が入ってるせいかものすごく複雑な味がするな」

「色々な味がするにゃ。この堅いのはなんだろ?」

「それは貝だぞ。王様に教えてもらったんだ。その殻は食べないで中身だけこうやって食べるんだ。これはうんまい!」

「おいしいにゃー!」


 にゃん娘達はろくに冷まさずに熱いまま食べたので、「あちー!」「おいしー!」を順番に連呼してた。


「月夜はどうだ?」

「美味しいです」


 そう言った月夜はまた微笑んでくれた。

 素直な月夜さんは可愛いです。

 僕は……結構熱くて下唇を火傷したけど、美味しかった。

 鍋さいこーー!

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