縄文料理3:アサリ
翌日。
鍋をすることにした。
魚鍋だ。
鍋と言っても醤油や味噌の調味料が無いのでただの魚汁になってしまうがそこは仕方ない。
複数の具材を入れて味でカバーするつもりだ。
入れる具材はメインの具となる魚で、魚は漁の時に採ったものを半分ほど鍋用として取っておくつもりだ。
そして貝。
貝なら海岸の砂浜で見たことが有る。
きっと簡単に採れるだろう。
貝は貝毒とかが有る危険な場合も有るみたいだけど、これぐらい綺麗な海ならまず問題無い筈だ。
後はダシとなる昆布。
これも昨日拾った。
すぐに失くしてしまったが。
海岸に行けばどれも簡単に手に入りそうだ。
「悪いんだけど、今日は取った魚の半分を僕が預かりたい」
「なんでにゃー! 今日も焼き魚にして塩を掛けて食べたいにゃ」
「悪いけど塩はもう無いんだ。今日はその代わり鍋をやろうと思う」
「鍋? あの美味しいと夕焼けちゃんの中で噂の鍋をやるのかにゃ?」
「そうだぞ。その鍋をやる」
「わお! いいにゃ! いいにゃ! お魚半分取っていいにゃ!」
「なに! 王様、ついに鍋をやるのかっ! もちろん俺にも食べさせてくれるよなっ!」
「もちろんさ。鍋はみんなで食べた方が美味しいしな。悪いんだけど後で手伝ってほしい」
「美味い物食べれるなら何でも手伝うぞっ! 何すればいい?」
「そうだな。天色は僕と一緒に海岸に来て欲しい」
「おう!」
「夕焼けちゃんは何すればいいのかにゃ?」
「月夜と夕焼けは……そうだな。箸の代わりになる木の『スプーン』と、ヤシの実のお椀に汁ものをよそる『オタマ』を作って欲しい」
夕焼けと天色は箸の使い方に慣れてないので鍋を食べるならスプーンは必要だと思う。
ゆくゆくは二人にも箸を使えるようになって貰いたいけどそうすぐ使える様になる代物じゃないしな。
まずは使い方が簡単なものと言う事でスプーンだ。
土器から熱く煮えたぎった汁ものをお椀によそる為のオタマも必要だ。
スプーンとオタマは僕と月夜で作ろうかとも思ったけど手先が器用な夕焼けとスプーンのしっかりしたイメージを持っている月夜が居ればちゃんとした物が出来ると思う。
全部が全部僕が関わる時間的余裕も無いので、二人に任すことにした。
「わかりました。行きましょう夕焼け」
「わかったにゃー」
二人は材料となる木を取りに丘の上へと向かっていった。
二人を見送ると僕と天色も鍋を持って海岸へと向かう。
*
まずは具材だ。
魚だけでは味的にちょっと寂しい。
そこで貝を入れることにした。
貝は海岸の砂浜を掘ればいくらでも取れる。
今までは火が無かったので変な食あたりを起こすのが怖くて食べられなかったが、これからは主役級の食材だ。
縄文時代の海沿いの村の住人は魚と共に貝を主食として食べてたので、食べ終えた貝殻をゴミとして捨てた場所が貝塚となって残されたのは有名な話だ。
それが日本全国の沿岸から何か所も見つかっている。
それぐらい貝はメジャーな食べ物であった。
なぜ貝がそこまで日本人に食べられたかと言えば味が美味しいこともあったが逃げず攻撃もしてこない果物と同じ感覚で採れる動物性たんぱく源だった事に他ならない。
早速砂浜を掘って貝を取ることにした。
「よし、ここを掘って貝を取ろう」
「貝?」
「石ころみたいなのが貝なんだ」
「ほー」
「とは口で言ってもどんな物か解らないと思うので、一つ僕が採ってみるか」
僕は砂浜を掘り起こす。
貝は砂を浅く掘るだけですぐに取れた。
アサリだ。
アサリなら貝毒も無いだろう。
少し大粒のアサリだった。
それを手のひらに乗せ天色に見せた。
「これが貝なんだ」
「こんな物が食べられるのか? これどう見ても石なんだけど本当に食えるのか?」
「茹でたら殻が割れて中身を食べられる様になるんだ」
「中身を食べられるのかっ!」
「味が濃くて、美味しいぞ」
「美味しいのかっ!」
貝が美味しく食べられると聞いて急に興味を持ち始めた天色。
天色はすさまじい勢いで深い穴を掘り山の様な貝を採ったが、あまり採っても腐らせるだけなので必要な分だけ採ってあとは砂浜に返した。
ちなみに貝はあまり深いところには居ないので深く穴を掘ってもあんまり意味はない。
棲んでいるのは精々五〇センチだ。
よし!
後は昆布だ。
昨日昆布を海で拾ったけど塩づくりしている間にどこかで無くしてしまったんだよな。
あまり傷ついたり痛んだ感じの昆布じゃなかったのできっとこの近くに生えているとこが有るはず。
河口から少し離れた所まで歩くと岩場があり、浅い部分に昆布が群生していた。
僕は海に入り昆布を二メートル程取った。
これでダシとなる昆布も取れた。
僕が昆布を肩に巻いて持っていると天色が怯える様に昆布を見ていた。
「そ、それも食べるのか?」
「そうだぞ」
「なんか気持ち悪いな。本当に食えるのか? それ?」
「たべれる。たべれる」
「食べれるのか。でもなんか見た目がなー。黒くて長いからなんか気持ち悪い」
なんだか解らないが天色の目が本当に怯えていた。
そんな大きな体してたら怖い物なんて無いはずなのに昆布に怯えてるなんてなんか不思議な感じ。
「これも茹でると美味しいんだぞ」
「そうなのかっ! おいしいのかっ!」
「もちろん!」
「食うっ! 食わせろっ!」
天色は魔法の言葉『美味しい』を聞くと、すぐに怯えは消えてなくなった。
これで材料はそろった。
川魚とアサリの昆布煮込み。
考えるだけでよだれが出る。
どうせなら本格的な鍋にしたい。
となると野菜も入れたいな。
よし!
早く村に戻って野菜を取ろう。
「よし、村に戻るぞー」
「おう!」
「あ、天色。悪いんだけど、その土器に海水をタップリ入れて村まで運んでくれないか?」
「まかせろ!」
「重いのに悪いな」
「こんなもん、俺にしたら軽いもんさ」
そりゃ毎日大岩を投げてるような人ですからね……。
「でもなんで海の水なんて持って帰るんだ? こんなの飲んでも美味しくないだろ?」
「この海水は塩の素なんだ」
「そうだったのか!」
そう言えば塩づくりは僕一人でやってにゃん娘たちは見てなかったんだな。
そのうちにゃん娘たちにも塩づくりを手伝って貰って塩づくりの大変さと手間を知ってもらうのもいいかも知れない。
「塩が無くなっちゃったから、塩の素の海水使って鍋を作るんだ。味は塩を使ったのと全く変わらないぞ」
「じゃあ、この鍋も美味しいんだな!」
「ああ、絶対美味しいぞ」
「マジか! 楽しみだぞっ! 王様来てから毎日が楽しくて天国みたいだぜっ!」




