縄文料理2:塩
塩だ!
この枝豆に足りないのは塩だ!
塩を振りかければこの甘い枝豆の味を引き締めさらに甘くなる!
この芳醇な味わいをさらに味濃いものにする!
僕は早速塩を作ることにした。
塩を作る事は簡単だ。
土器を使って塩を煮詰めるだけでいい。
土器を海岸に持って行き、海水で塩を作ることにした。
重さ五キログラムを超える土器の持ち運びはさすがに楽ではなかったが塩の為なら苦にならない。
人間ていうものは誰か他の人から強制的に指示されると疲労がたまるものだが、自ら行動を起こす場合は殆ど疲労を感じない不思議な生き物だ。
僕は海岸に着くと早速海で鍋に海水を汲む。
その時、海を漂っている昆布を見つけたので回収。
今度魚鍋をする時のダシに使おう。
きっといいダシが出るぞ。
そんな事を考えながらも鍋の設置は怠らない。
大きな石で土器を取り囲み倒れないように固定。
土器の周りに辺りの灌木の枯れ枝をくべ火を点ける。
既に今朝一度やった事の有る作業なので手慣れたものだ。
たき火で海水を煮こむ。
鍋いっぱいの海水は一時間ほど沸騰を続けると殆どの水分が飛び、底の方に少しじっとりと湿った感じの塩が取れる。
最後の方は空焚きに近い感じで土器が割れそうで心配したが素材にこだわった土器なので割れることは無かった。
塩を回収する。
手のひらに僅かに載るほどの量の塩。
鍋いっぱいの海水でスプーン大さじ一杯分ぐらいの塩しか取れなかった。
地球上では海水中の塩分濃度は三.五パーセントと言われてるのでそれと比べると明らかに量が少ない。
地球上と海水の塩分濃度が同じと仮定すると、煮込んでる途中で土器の壁に塩分が吸収されてしまったと推測出来る。
まあ、この星の海水は塩分濃度が地球の海水と比べもっと低いかもしれないので、その推測は正しいかどうかは解らない。
なべ底に残ったのは少量の塩。
しかも色は僅かに黒くくすんで僕の知ってる食塩とは違った。
これだけ時間と手間を掛けてこれしか塩が取れないのでは毎日の料理に使う事は難しいだろうな。
そんな事を考えつつ、僕はわずかな塩を入れたヤシの実の殻を持って村へと戻った。
*
村に戻るとにゃん娘達が昼寝から起きて漁を始めようとしていた。
「おう! ちょうどいいとこに王様戻ったな! 漁始めるぞー!」
「王様おかえりー! 何してたんにゃ?」
「塩を作って来た」
「塩? 食べられるのかにゃ?」
「食べられる」
「にゃに! それは美味しいにゃか?」
「美味しいぞ」
「魚に付けて食べさせてやるから、先に漁を終わらせよう」
「わかったにゃ! こっちの準備はいいにゃー!」
「おう! 岩投げ込むぞー!」
「おー!」
「おう!」
「どうりゃー!」
豪快な水柱が川面に上がる。
「いくにゃ!」
気合の入った夕焼けは浮んだ魚を一匹も取り逃さずに川の中を走り回った。
漁果は一人七匹。
夕焼けの頑張りで大量であった。
「早く塩食べたいにゃ!」
「じゃあ、まずは焼き魚を作ろう。そうしたらそれにかけるよ」
「楽しみだにゃー」
夕焼けは慣れた手つきで魚の口から棒を差し込みたき火の周りに魚串を挿し魚を焼き始めた。
そして一五分後。
香ばしく焼き上がった焼き魚を口に運ぶ夕焼け。
それを僕は止めた。
「あれ? 夕焼けは塩要らないのか?」
「あ、忘れてたにゃ。危うく塩を使わないで食べるとこだったにゃ」
頭をポリポリかく夕焼け。
僕は夕焼けの持つ焼き魚にパラリと塩を軽く振る。
「これでいいよ」
「なにかしたかにゃ? 全然変わってにゃいんだけど?」
「ちゃんと塩掛けたから大丈夫さ。さあ、食べてみて」
「いただきますにゃー」
塩を掛けた焼き魚を頬張る夕焼け。
一口魚にかぶりつくと一瞬置いた後に目が丸く見開かれた。
「にゃに! これは、お、おいしいにゃ! 今までもお魚は美味しかったけど、今日のはものすごく味が濃くておいしいにゃ! 次のお魚にも掛けて欲しいにゃ!」
すると今まで黙って見ていた天色も騒ぎ出す。
「王様! 俺のお魚にも塩を掛けてくれよ!」
「もちろん、掛けるさ」
塩を軽くパラリ。
焼き魚を食べた天色の目も大きく見開かれる。
「美味いぞ!! なんで同じ魚なのに、こんなに味が濃くなって美味くなるんだ? その粉スゲーなっ! 王様、次の魚にも掛けてくれ!」
「いいよー!」
パラリ。
「わたしの方が先にゃ!」
「俺ももっと食いたい!」
パラリ、パラリ。
「私ももっと塩を食べたいにゃ!」
「俺ももっともっと食いたい!」
パラリ、パラリ。
「わたしの方が先にゃ!」
「俺の方が!」
「ほらそこ喧嘩しない!」
パラリ、パラリ。
「おいしいにゃー!」
「うめー!!!」
「月夜も掛けるか?」
「ありがとうございます」
パラリ。
「美味しい……」
目をトロンとさせる猫娘達。
塩はにゃん娘達に大好評だった。
僕には塩を作った目的が有った。
だから僕の分の焼き魚には塩をかけずに取って置いた。
すでに塩の残りは小さじ一杯分も無い。
塩が無くなる前にと、僕は丘の上に登った……。
*
それから一時間後。
僕は茹で上がった枝豆を目の前にしていた。
今度はお湯を沸騰させている間に作っておいた、茹で上がった枝豆を鍋から取り出す道具『湯きり網』を作ったので取り出しも簡単だった。
またまたにゃん娘達が興味津々で集まって来た。
「今度は枝豆に塩を掛けるのかにゃ?」
「そうだぞ」
「食べたい! 食べたいにゃ!」
「俺にも食わさせてくれ!」
「もちろんさ! でも、まずは僕から」
枝豆の房を開くとそこに現れた枝豆に極僅かな塩をパラリと振る。
そしてそれを口に運んだ。
今朝食べた枝豆とは味の濃さが明らかに違った。
風味は濃くなり、甘さは今までとは比較にならない位甘い。
これだよ!
この味だよ!
枝豆ってこの味だよ!
この味、この味を求めてたんだ。
「おし!」と、思わずガッツポーズをしてしまった。
これで冷えたビールかコーラでも有ったら最高だが、さすがにそれはぜいたくと言うものか。
僕が呆けているとまたまたにゃん娘達が催促してきた。
「早く食べさせてくれ!」
「まだかにゃー、王様!」
塩を振りかけた枝豆を食べさせると天色も夕焼けも壊れるんじゃないかって程、首を振り回して狂喜乱舞していた。
塩、美味しかった。
もう無くなっちゃったけど。
美味しかったなー。




