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にゃん娘と作る文明開化  作者: かわち乃梵天丸
第三章 にゃん娘と始める文明開化
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縄文料理1:枝豆

 苦労の末、土器が出来たので何か料理を作りたい。

 とりあえず何かを作ろうと思い食材を探しに上の丘に向かう。

 いつもの夏みかんの実が取れる林だ。

 あそこなら何か採れるはず。

 林に入るとすぐに目についたものが有った。

 目に刺さるような鮮やかな緑の房、枝豆だ。

 枝豆は以前採って毒が有るという事で食べられなかった代物だ。

 その毒は月夜が言うには茹でれば消えるらしい。

 僕は枝豆を房ごと取ると村へと戻った。

 川の水を汲んだ土器を河原に立てると転がらない様に少し大きめの石で四方から土器を押さえ付けて立てる。

 そして土器の周りに枝をくべ火にかける。

 かまどが無いので横から火をつけるという非常に効率の悪い加熱方法なのでお湯が沸くのが遅い。

 ゆくゆくは、ちゃんとしたかまどを作りたい。

 だが今はそんなことはどうでもいい。


 枝豆!

 枝豆が食べたい!

 一刻も早く食べたい!

 僕は湯が沸くまでの間、石のナイフで枝豆の茎から房をひとつづつ丁寧に切り離す。

 房は少し産毛の様な物が生えていてわずかにちくちくと手に引っかかる。

 枝豆の房を取っていると寝ぼけ眼のにゃん娘達がやって来た。


「朝から何やってるのかにゃ?」

「王様、鍋は出来たのか?」

「出来たぞ! ほれ!」


 僕は誇らしげに僅かに湯気が上がる鍋を見せつける。


「すごいにゃ!」

「スゲーぞ!王様!」


 お湯を沸かしてる土器を興味津々で覗き込む二人。


「なべの中の水からポコポコあわが出てるにゃ」

「なんか鍋の中でグツグツいってるな」

「これか? 枝豆を茹でるからお湯を沸かしてたんだ」

「お湯?」

「なんだそれは?」

「水を火で熱くしたものさ。熱くて危ないから触ったらダメだぞ。これで食べ物を煮ると美味しくなるんだ」

「おいしくにゃるのか!」

「美味しいのか!」

「ああ、美味しいぞ! この枝豆も生だと食べられなかったけど、お湯で茹でるとめちゃくちゃ美味しくなるんだ!」

「うおおお! 食いてー!!!」

「食べたいにゃ!」

「まだ茹でてないから、これからさ」


 僕はちょうど沸騰した鍋の中に枝豆を放り込む。

 熱い湯の中に放り込まれた枝豆は湯の中で踊る様に舞っている。

 そして鍋から漂ういい香り。


「なんかいいにおいがしてきたにゃ!」

「たしかに! これは美味そう!」


 よだれを垂らしながら土器に目が釘付けな二人。


「まだできないのかっ! もう出来たよな?」

「まだかにゃ! まだかにゃ!?」


 枝豆の房が更に青々として来たので茹で頃だ。


「よし! 出来上がりだ!」

「うおおお!」

「やったにゃ!」


 僕は枝豆を湯から引き上げることにした。

 僕は土器を手に取ると中身をザルに開けて水切りをする。

 そう、しようとしたんだ。

 でも、忘れてた。

 ここには土器を掴む布巾なんて無いし、お湯を切るザルも無い。

 あちゃー!

 やってしまった!

 枝豆は完璧な茹で上がり状態なのに熱くて取るに取れない。


「王様まだかにゃ!」

「早く食わしてくれよ!」


 そう急かすにゃん娘達だが僕はどうにも出来なかった。

 僕も茹で過ぎになるから一刻も早く枝豆を湯から上げたかったんだが、無理な物は無理なんだから仕方ない。


「ごめ、お湯が冷めるまで待とう」

「えー! 食べられないのかにゃ!」

「食べさせてくれないのか! ガッカリだな! 王様!」

「ごめん、熱くて取り出せないんだ」

「ひどいにゃ! 王様!」

「酷いぞ! 王様!」

「ごめん。準備が足りなかった」


 にゃん娘達が騒いでるのを見て、月夜がやって来た。


「どうしたんですか? 王様」

「枝豆が茹で上がったからお湯から取り出そうとしたんだけど、ザルも布巾も無いからお湯から取り出せないんだ」

「なるほど、そういう事ですか。ちょっと待って下さい」


 そう言うと月夜は小屋の方へと向かうと、しばらくして戻って来た。


「はい、王様」

「こ、これは!」


 それは二本の細身の木の棒。

 燃料用の枝の山の中から持って来たみたいだ。

 つまり、箸だった。


「箸か!」

「ええ、箸です」

「その手が有ったのか!」


 月夜から皆に箸が配られた。

 箸は皮が付いている木の枝だが、どれも真っ直ぐで太さも箸として申し分ない物だった。


「いいか皆んな。この棒を使ってこうやって鍋の中から枝豆を取るんだ」


 僕は箸で湯の中から茹で上がった枝豆を摘まんで取り出し夕焼けと天色に箸の使い方の見本を見せた。

 そして食べ方も説明する。


「こうやって、房を開いて中身を出してその中の豆を食べるんだ」


 見本を見せるようにゆっくりと房を開く。

 房の中にはつやつやの三つの豆が入っていた。

 真ん中の豆を摘まむと僕は口の中に運んだ。

 そして噛むと豆は弾けてわずかな青さと濃い甘みが口の中いっぱいに広がる。

 これだよ!

 これ!!!

 これが枝豆の味だよ!

 僕があまりのおいしさに呆けた表情をしてるとにゃん娘達が騒ぎ出す。


「たっ、たべたいにゃっ!」

「俺も食いてー!」

「残り二個有るから一個ずつ仲良くな!」


 それを聞いた夕焼けと天色は争うように豆を取り口に運ぶ。

 すると、二人ともとろんとした顔をする。


「おっ、おいしいにゃー!」

「美味いぞ―――!!! こんな食い物食ったことない! コリっとした感触なのにトロっとしたした様な舌ざわりだし、少し葉の様な緑の味がするのにもの凄く甘いし! わけわかんないぞ! 美味しすぎっ!」

「おいしいにゃー! おいしいにゃー!」


 二人とも枝豆が気に入ってくれたようだ。


「もっと食べたいにゃ!」

「もっと食いてー!」


 僕の顔に迫ってくる二人。

 思わず押し倒されそうになる。


「後は自分で取って食べてくれ。さっき箸渡しただろ? あれで自分で取って食べてくれ」

「わかったにゃ!」

「おう!!!」


 僕は月夜にも枝豆を勧める。

 すると器用に箸で枝豆を摘まみ房をそのまま口に運んだ月夜は口づけをするように房を咥えると中身を細い指先で押し出して食べた。

 そして、小さな声で「おいしい」と一言呟いた。

 なんかいつもと違って愛おしい感じ。

 とても可愛い月夜だった。

 そんな月夜を愛でる様に見ていた僕だがにゃん娘達が騒ぎ出した。


「あっちー! 取れねー!」

「全然取れないにゃ!」

「こうなったら素手で!」

「おいおい! 手なんか突っ込むな!」


 慌てて天色を止める僕。


「王様! これじゃ全然取れないぞ!」

「あー、箸初めてか。そりゃ取れないな。ごめんよ。僕がとってやるよ」

「取ってくれるのか! 王様ありがとう!」

「じゃあ、夕焼けちゃんにもよろしくにゃ!」

「はいはい」


 天色と夕焼けに順に枝豆を取ってやる僕。

 気分はひな鳥に給餌する親鳥の気分。

 箸で取るので一度に一房しか取れないので一瞬で食べてしまいすぐに次の房を欲しがる。

 結局僕は三房ぐらいしか食べれなかった。

 初めての枝豆パーティーは一瞬で終わってしまった。

 夕焼けと天色は満足したのか河原に横になっていた。


「月夜は食べれたか?」

「いえ、二人に圧倒されて呆然と見ているだけ殆ど食べれませんでした」

「そりゃ残念だな。もう一度枝豆取ってこようか?」

「いえ、私はいいですよ。これ、王様の分取っておきました。殆ど食べられなかったんですよね?」


 すると月夜は一〇個程の枝豆を手のひらから出した。


「ありがとう。月夜も食べてないんだろ? 一緒に食おうよ」

「私は……」

「遠慮するなよ」

「はい」


 二人で枝豆を五個づつ分けて食べた。

 月夜も微笑みながら枝豆を食べる。

 なんかちょっと幸せな気分。

 枝豆は美味しかった。


 美味しかった。

 でも……。

 何か物足りない。

 何かが。


「美味しいんだけど、なんか物足りないな」

「ええ」

「何かがな。何かが足りないんだよ」

「塩ですかね?」

「そうか! 塩か!」


 そう、この物足りなさは間違いない!

 塩だ!

 塩が足りない!

 枝豆のマストアイテム、塩が足りない!

 塩を忘れてたなんて枝豆マイスターとして失格だ!

 僕は理想の枝豆を食べるために塩を作ることにした。

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