表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
にゃん娘と作る文明開化  作者: かわち乃梵天丸
第三章 にゃん娘と始める文明開化
65/90

土器作り10 割れる原因

 僕は粘土を捏ねて土器を作りたき火の中で焼いた。


「今度は出来るかにゃ?」

「たぶんな」


 食事を取った後に焚き木の燃えカスの中から土器をほじくり返すと今度は割れずに仕上がっていた。

 焼き上がりは上々。

 食事を終えて暇になった夕焼けと天色も傍らに来て覗き込むように興味津々で見ていた。


「出来た!」

「出来たのかにゃ!」

「出来たぞ! 完成だ!」

「凄いぞ王様!」

「凄いにゃ! これで鍋が食べられるんだにゃ!」

「そうだ! 今夜はご馳走だぞ!」


 土器が完成した!

 苦労に苦労を重ねてやっと土器が完成した。

 やり遂げたんだ!

 僕は遂にやっとやり遂げた!

 まだ熱々なので触れないが爪で軽くはじいてみると陶器の様な音こそならないがかなり固いのが解る。

 熱々の土器を石の上に置いて冷やしていると……割れた。


「割れたな」

「割れたにゃ」

「割れたぞ」


 またしても土器が割れてしまった。


 *


 なんで割れたんだ

 僕は割れた土器を前に頭を抱えていた。

 理想的な混じり気の少ない粘土で焼いた土器。

 なんで割れたのか解らなかった。

 すると月夜がやって来て言った。


「王様、土器を乾燥しないで焼いちゃったんですか?」

「あっ……」


 土器は乾燥しないと水蒸気で割れるんだった。

 すっかり忘れてた。


「あっちゃー、乾燥するのを忘れてた。それで火から出して割れたのか」

「確かに乾燥は必要ですが、焼いてる最中じゃなく出してから割れたなら乾燥は関係ないですね」

「何が原因か解るか?」

「多分生地が悪いんでしょう。今度は一緒に作りましょう」

「一緒に作ってくれるのか?」

「はい。王様が無駄に時間を費やすのを見てられないので……これ以上失敗しても時間の無駄ですからね」

「ありがとう! 助かる!」


 僕は月夜と一緒に土器を作り始めた。

 月夜は砂と小石入りのヤシの実の器を取り出す。


「これは何だ?」

「混ぜ物ですよ」

「混ぜ物?」

「はい。これは土器が割れなくなる繋ぎなのです」

「いや、ちょっと待ってくれ。月夜は言ってたよな? 粘土は混ぜ物がない純度の高い粘土の方がいいって。あれはいったい何だったんだよ? こんなもの混ぜるなら粘土じゃなくてそこら辺の泥混じりの土で良かったんじゃないか?」

「王様は何言ってるんです? 私は確かに言いましたよ。粘土には混じりっ気がない方がいいと」

「だろ?」

「それは根や落ち葉などの有機物が混じらないって意味です。ちゃんとこの前説明しましたよね?」

「そ、そうでした」

「王様はバカですか?」

「はい、バカです……。ごめんなさい」

「ここで小一時間王様の粗忽な性格を罵ってもいいのですが時間の無駄なのでやめて先に進みましょう」

「おねがいします」

「では今度はここにある砂と小石の混ぜ物を混ぜて粘土を捏ねてください」

「解った」


 今度は粘土を粉にした後、混ぜ物を混ぜて生地を作る。

 混ぜ物の割合は粘土に対して二割ぐらいだ。

 混ぜ物が混じることにより、粘土同士の接着だけでなく粘土と石や砂との接着も発生するので強度が上がるのと同時に割れにくくなるそうだ。

 セメントに砂を混ぜてより強いコンクリートにするのと同じ原理だろう。

 粘土と砂が均一に混じりあった所で生地作りは終了。

 次の段階に移ることになった。


「今度は土器を作り始めましょう」

「おし! 始めるぞ!」


 ここまで出来れば楽勝だ。

 僕は粘土を取ると数回叩きつけて空気を抜くと土器の形を作り始める。

 イメージとしてはバケツぐらいのサイズの鍋だ。

 僕がバケツ型に捏ね始めると再び月夜が止めた。


「何やってるんですか! ダメでしょ!」

「え?? 鍋作るんだよな?」

「そうです」

「じゃあ、これで間違えてないよな?」

「完璧な物を作れるならそれでもいいんですが、本当にその作り方で完璧な物を作れますか?」

「それは……」

「空気が入って割れたんじゃないですか?」

「……はい」

「じゃあ、私の言うように作ってください」

「お願いします」

「まずは底の部分を作ります」

「底?」

「土器の底です。土器の形でいきなり作り始めるよりも、底から少しづつ作っていきます。その方が生地に空気が入ったり生地が薄くなる部分が出来にくくなります」

「なるほど!」


 月夜は粘土を手に取ると底になる部分の粘土を僕に手渡してきた。

 拳二つ分ぐらいの大きさの粘土だ。

 思ったよりもかなり少ない。


「これを土器の底にしてください。ちゃんと空気を抜いて下さいね」

「随分と粘土が少ないんだけどこれで底を作るの?」

「はい。これで直径一五センチメートル、厚み二センチメートルぐらいの丸い底を作ってください」

「随分と小さいな」

「実際古墳から出土する土器も底が小さいものが多いです。現代社会でよく見かける三十センチメートル以上の底の土鍋はちゃんとした温度管理の出来る窯が無いと反ってしまい焼くのは難しいでしょうね」

「そうなんだ。じゃあ、この粘土で底を作るとしてその先はどうするんだ?」

「壁を作るんですよ。このひも状の粘土で」


 月夜はひも状の粘土を手に持っていた。

 ひも状と言ってもちょっと太めのキュウリ位の太さ。

 空気を抜いた粘土棒だ。

 それで輪を作る様に底に粘土を載せ一段づつ壁を作っていく。

 だが月夜の粘土細工は口ほどにはうまく無く所々歪んでいる。

 壁を作るが余りにも不器用なので僕が作ることにした。

 壁を作り、その上に少しだけ円周が広くなるように次の壁を積み、上下の壁を接着する。

 壁は徐々に積み上がりやがて完成した。


「こんなもんかな?」

「そうですね、こんな感じです」


 粘土を積んで壁を作り終えると高さ三十センチメートル超えぐらいの細長の土器が出来上がった。

 意外といけてる感じ。

 でも鍋としては使いにくそうだ。

 形としては鍋というよりも壺に近い。


「随分と細長な鍋になっちゃったな」

「いいんですよ、これで。ガスで五徳の上に載せて調理するんじゃ無くてたき火で調理するんですから。背が低いとたき火の灰が中の料理に入っちゃいますからね」

「なるほど。それで背が高かったんだな。後は二週間位倉庫の中で陰干しか?」

「理想はそうなんですけどね。今すぐ焼きたいんじゃないですか?」

「まあな」

「焼きましょう」

「今焼いたら水蒸気で割れるんじゃないのか?」

「慎重に焼けば大丈夫ですよ。それに割れてもまた作ればいいだけの事ですし」


 そういうと月夜はめづらしく笑顔を見せた。

 僕が鍋焼き用たき火の枝の山を積み上げると月夜が止めた。


「いきなり本焼きをしたらダメです。まずは遠火で弱めの火であぶる感じで乾燥焼きするのです。まずは土器から一メートル半の距離で円状に取り囲むように枝を積んで、火を点けて一時間程乾かすのです。陰干しの代わりに乾燥させるんです」

「まずは焼かないで乾燥させるのか!」


 月夜は土器から一メートル半の距離で丸く囲んで枝を並べる。

 火を点けると土器を中心に火の輪が出来上がった。


「こんな感じで乾燥させるんです」


 乾燥は火の管理が重要だ。

 火が消えないように、かつ激しく燃え上がらない量の枝をつねにくべる。

 最後に少量の枝を入れて中から乾燥させる為に燃やした。

 一時間後乾燥が終わった。

 土器の表面を見ると色が変わっている。

 それにヒビもない。

 乾燥は成功したようだ。


「次は本焼きかな?」

「はい」


 僕が枝の山を土器の上に積み上げようとすると月夜が止めた。


「いきなりそんな大火力で焼いてはダメです。徐々に枝を増やして火力を少しづつ上げるのです」

「少しづつ枝を増やしていく感じでいいのか?」

「はい、そんな感じでお願いします」


 小さなたき火は徐々に枝を増やした事で一時間ほど掛けて巨大な炎へと変わった。

 炎はゴウゴウと音を立てて燃える。

 たき火からまき散らした火の粉が丘の上の小屋に燃え移らないか気が気でならなかった。


「これ以上枝をくべないでください」

「これ以上燃やすと、小屋迄燃えちゃいそうだもんな」

「なにいってるんですか。小屋の事なんて考えていませんよ」

「と言う事は焼き上がりか?」

「いえ、まだです。これから最後の仕上げに入ります」


 火の勢いが収まると月夜はどこからか探してきたのか長い枝で鍋を無造作にひっくり返した。


「ちょっ! 土器をひっくり返して割れたらどうするんだよ」

「もうこれぐらいの事じゃ割れませんよ。最後の仕上げをします」


 そういうと月夜は土器にまた枝をこんもりと積み上げた。


「二度焼きか?」

「いえ、焼きが甘い底を焼いているのです」

「ああ、なるほど。今まで地面に接してて火に当たって無かったから焼きが甘いのか」

「あとは明日の朝までこのまま置いて冷めれば完成です」


 僕は次の日の土器の完成が待ち遠しくて、その日はよく眠れなかった。


 *


 翌朝、日が昇ると同時に目が覚めた。

 土器の焼き場に向かうと土器は綺麗に焼き上がっていた。


「出来たぞ!!!」


 一人歓声を上げる僕。

 土器は真っ黒だったが綺麗に焼き上がっていた。

 ヒビも割れも何処にもない。

 あとはこの焦げを洗い落とせば完成だな。

 川に持って行って焦げを洗い落とす。

 焦げを落とした鍋はこげ茶色に焼き上がっていた。

 植木鉢みたいな綺麗な赤い色じゃないが苦労したぶん愛着も沸く。

 僕は土器を作り上げた!

 月夜に手伝って貰ったので僕一人の力ではないが、僕が作ったのには変わらない。

 僕は土器をまるで優勝カップを掲げるように朝日の中で天高く掲げた。

 僕は誇らしげに朝日の中に勲章を掲げたのだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ