土器作り9 白い器
「次は石を砕く道具を作らないと。小学校の理科の授業で使った砂をすり潰した白い陶器の器と白い棒みたいなのを作ればいいのかな? あれなんて名前だったかな?」
頭の中には白い器と白い棒のイメージが沸くんだけど名前が全く浮かんでこなかった。
そりゃ小学校の理科の実験で使ったきり大学生になるまで一度も使った事無かったもんなー。
あれなんて名前だったっけ?
まあ今は一人で居るんだから名前なんてどうでもいいけど思い出せないと気持ち悪い。
「あの小さな小鉢、いや、すり鉢みたいなのとあの棒……ん~なんだっけ?」
必死にあれの名前を思い出そうとする僕。
「乳……乳……なんだっけ?」
思い出せそうで思い出せなくてすごく気持ち悪い。
それで必死に唸りながら思い出してると……。
「えーっと……、そう! 乳鉢! 乳鉢と乳棒!」
ふと名前を思い出した。
漢字のテストで思い出せない漢字をさんざん悩んだ末に思い出した時の気持ちよさ。
それに物凄く似ている。
それにしても『にゅうぼう』ってなんてエッチな響きの言葉なんだろう。
なんて事を思いつつ。
なんでどっちも名前に乳が入るのかよく解らないが、きっと乳白色とかそんないいかげんな事から付けられたんだろうな。
そういう命名の仕方だったらカラスが黒鳥となるしあひるも白鳥って事になってしまう。
まあ、今の俺には関係ないどうでもいい事か。
土器の話に戻ろう。
乳鉢は陶器だから簡単には作れないな。
今は土器を作るのにも四苦八苦してるぐらいだもん。
乳鉢は土器よりも明らかにハードルが高い。
となると、代わりの物を探さないと。
そうだな……粘土をすりつぶす為に使うんだから柔らかい物じゃダメだから材質は岩。
くぼみのある岩で乳鉢の代用をして乳棒は細長くて硬い小石で代用だな。
やる事が決まれば簡単だ。
河原を探してみよう!
「お! これならいけるかも?」
河原を探し始めて三分ほどでいい感じの岩が見つかった。
平たい少し大きめの硬い岩。
幸運にもその岩の真ん中に乳鉢の代用になるべくわずかな窪みが出来ていた。
「よし、これで粘土を砕いて粉にするぞ!」
粘土は小石等の余計な物が殆ど含まれていなかったので柔らかく容易く砕け粉になった。
それをかき集めヤシの実の殻にしまうと新しいヤシの実から新しい粘土を取り出して粘土を砕く作業を繰り返す。
すぐに粘土を粉にする作業は終わった。
「よし、次はこれをふるいに掛けるぞ!」
僕はザルの中にヤシの実の中身を広げる。
ザルと言っても以前作った背負いカゴにかなり似ている。
「ザルに粉を入れてこれを振れば……あっ! 粉を受ける物を作るのを忘れてた!」
僕は慌てて目の細かいゴザをツタで編んだ。
「これで受け側も大丈夫。さあザルで粘土をふるいに掛けるぞ」
僕はザルを丁寧に揺する。
──ザッザッザ!
──パラ パラ パラ
すると綺麗な粉となった粘土がザルの網目から出てゴザの上に積みあがった。
ザルの中には完全に砕けきれなかった粘土の粒が残っている。
「よし、いい感じだ!」
ふるいに掛けられた粉を手に取ると小麦粉の様にサラサラしている。
まるでパウダーの様だ!
粘土の粉が出来たぞ!
粘土の粉を再びヤシの殻にしまう。
これで粘土の準備は出来た。
あとは捏ねるだけだ。
粘土を捏ねる準備を始めるために崖の上の粘土捏ねの穴に移動すると夕焼け達が帰って来た。
「ただいまにゃー!」
「ただいまー!」
「おう! おかえり! みんなで出かけて何してたんだ?」
「うつわ作ってたにゃ」
「器?」
「これにゃ!」
夕焼けは天色の持っていた白い塊を取ると僕の目の前に持ってきた。
石で出来た器だ。
「え? 器?? 本当に器だ」
見るとそれは石の様な物で出来た器だ。
厚さ二センチメートルぐらいの石で出来た器。
それもかなり軽い。
完全に器として使える物だ。
でも、土器作ろうとしてるのにこんなものが有ったら僕の今やってる作業は全く意味ない事なんじゃないか?
最初から土器なんて作らずにこれ使えばいいんじゃね?
月夜が作らせたんだろうけど僕の今までの努力を無視して酷いことするな。
僕は少し怒り交じりでため息をついた。
「こんなもの作ってたのか」
「石のボールです」
月夜がすました顔でそう答えたので、さらに怒りが膨れ上がった。
思わず月夜に突っかかるように怒鳴る。
「なんで僕に声も掛けずこんなもの作ってたんだよ!? 僕の努力を無にするような事して! ほんとに酷いな! 土器なんて作らずに、最初からこれ作れば良かったじゃないか!」
「何言ってるんです? これは王様の為に作ったんですよ」
「僕を嘲笑うためにか!」
「何言ってるんです! 粘土を捏ねる為に必要だと思ったから作って来たのにそんなこと言われるとは思ってもいなかったですよ」
月夜は月夜らしくなく、怒りを露わに見せる。
僕のため?
何を言ってるんだ。
自分の知識を見せびらかして土器の一つも作れない僕を嘲笑うためだろ?
いいかげんな事言うなよ!
僕もいい負けずに必死に反論する。
「こんなもの有るなら土器なんて作る必要ないだろ!」
「これが鍋になると思います?」
「なるだろ。こんな立派な器。ボールじゃなくどう見ても鍋にも使える立派な物じゃないか!」
「これが鍋になるわけないでしょ! 軽石ですよ、軽石! 手軽に加工して作れると言う事で断熱効果のある軽石で作ったボールが鍋になるわけないじゃないですか!」
「え? 鍋にならないの?」
「なりません!」
月夜が作って来たボールを見ると確かにそれは穴ぼこだらけの軽石で出来ていた。
「確かに軽石だ……」
「水漏れする軽石が鍋になるはずないでしょ。そんなことも知らなかったんですか?」
「ごめん」
「地面に掘った穴で粘土を捏ねたらまた失敗すると思ってみんなで作って来たのに、感謝される事は有るにしてもここまで怒鳴られるとは思っても無かったですよ!」
「ごめんなさい。本当にごめん」
僕は土下座をして誠心誠意謝り続けた。
さすがに二〇分も謝り続けると、さすがに月夜も許してくれた。
「仕方ないですね。ボールが出来るか出来ないか解らないので王様をぬか喜びさせると悪いと思って言わずに軽石のボールを作ってた私にも非は有るので今回は許しますよ」
「ありがとう。ゆるしてくれるのか」
「今回だけですからね」
「ああ、ほんとごめん」
「本当は手伝って一緒に土器づくりをしたいけど、これからご飯の準備しますから王様は一人で土器づくりの作業をしててください」
「わかった。すまない」
僕は一人で作業をすることにした。
軽石のボールが有ると作業が捗った。
軽石なので水の浸透性が良くボールからすぐに水が抜けてしまうが粘土を捏ねるには適度な水分量に抑えられるのでかえって都合が良かった。
僕はボールに粘土粉と水を入れ捏ね続ける。
今までの土に掘った穴と違い、粘り気のある粘土らしい滑らかな粘土に練りあがった。
いける!
これなら絶対にいける。
僕は土器焼きの成功を確信した。




