土器作り6 焼き物の原理
「一つ目の問題点が生地の乾燥不足とすると、二つ目は何が問題なんだ?」
「二つ目は鍋を作る粘土の生地です。この生地では焼き物として耐えられないでしょう」
「この生地はあまりいいものじゃないと言うのは解ってる。小屋の近くの土を間に合わせに使ったんだ」
「なんでちゃんとした粘土を用意しなかったんですか? どう見ても焼き物には向いている土とは思えないんですが? 一目見ただけで解ると思うんですが?」
「ダメなのは解ってたよ。理想的な土では無いのは。でも鍋を焼く為に粘土を探さないといけないわけだろ? そうなると火打石の時みたいに、またそれで何日も作業が止まってしまうのだけは避けたかったんだ」
「なるほど。そう言う事ですか」
月夜は僕にも聞こえるようにため息をついた。
現代知識を持っているはずなのに全く役に立てずに心が痛む。
それでも、僕は自分の思考を弁解するように話を続ける。
「急ぎだからここにある土を捏ねてみると結構いい感じに粘りが出て焼き物用として使えるんじゃないかと思ったんだけど、本当にこれじゃダメなの?」
「ここの土が粘土状なのは置いておいて、焼き物用としては最悪に近い土です」
「最悪って……。鍋の形を形作れない砂ならそう言われても仕方ないと思うけど、鍋の形状をこれだけ作れる土なら焼き物用の土としてはいいんじゃないの?」
「土がダメと言うのは粘土状になるならないの話では無いのです。土そのものがダメと言う事なのです」
「どういう事?」
「土って科学的に大まかに分けて二種類有るって知っています?」
「二種類の土って砂と泥?」
「違います!」
〇.五秒で即否定かよ!
はえーよ!
でも土の種類って砂と泥しかないよな?
それとも赤土と黒土?
そうか!
そっちの方だったか!
「解ったぞ! 赤土と黒土だ!」
「なにを言ってるんですか、王様は……」
片手で額を抱えて、頭が痛いと露骨にアピールされる。
「ぐぬぬ」
「ここでは科学的な話をしてるんです。火山岩を起源とする無機物の土が一つ。主に植物の堆積物を起源とする有機物の土がもう一つです」
「ほう」
「砂を微粒子化したと言ってもいい無機物の土。もう一つは作物を作るのに有用な有機物の土です。作物を作る場合は有機物の土が有用で、豊かな土と言う場合は大抵この有機物の土を指します。でも今は焼き物を作る為の土です。有機物の土は焼き物用の土としては百害有って一利無しの存在です」
「そうなのか!」
「ところで焼き物を焼くって科学的に言うと何をする事か解りますか?」
「焼き物か? 土を焼いて作った形状を固めて保持する事?」
「もっと詳しく言うと?」
「もっと詳しくと言われても……。高温で土の中の水分を追い出して石のように焼き固める事かな?」
「全く違いますね」
「全くか……」
「じゃあ、質問を変えます。土は何で出来ていますか?」
「さっき言った無機物の砂?」
「その砂の成分、いや組成は?」
「組成ってどんな成分かって事?」
「そうです」
「えーっと砂の成分だよな? 鉱物、その中でも特に石英かな?」
「そうです。砂のほとんどは石英です。本来、火山岩が風化し砕けた砂は様々な鉱物を含みますが、それらは時間と共に風化し最終的には石英が主な成分として残ります。石英って何の素材か解ります?」
「それなら知ってるよ。石英はガラスの原料さ」
「そうです。焼き物と言うのは土の水分を飛ばして固めるのではなく、石英を熱で溶かし融着させる事なのです」
「そうだったのか!」
「となると、焼き物用の土としては何が邪魔か解りますね?」
「有機物だね」
「そうです」
俺は焼き物の原理がなんとなく解ってきた。




