土器作り5 一つ目の問題点
昨日の夜は鍋が気になって眠れなかった。
どうやれば焼けるんだろう?
やはり土?
やはり窯?
そんな事を考えていたら、空が白んできた。
朝になり陽が昇ると共に僕は昨日の割れた鍋を見に来た。
割れた鍋は燃え尽きた枝の灰の中に埋もれていた。
僕はそれを掘り起し、それを手に取る。
しっかりと硬く焼けているが、真っ二つに割れてしまっていた。
「こんなに硬く焼けているのになんで割れたんだろうな?」
僕が鍋の欠片を手に取り調べていると後ろから月夜が声を掛けてきた。
「焼けましたか?」
「ダメだった」
「でしょうね。焼き物はそれ程簡単な物では無いですからね」
「三つ鍋を作って二つ焼いたんだけど、二つとも割れたんだ」
「その割れた鍋を見せてもらえます?」
「ああ、いいよ」
そう言って僕は月夜に割れた鍋の欠片を手渡す。
それを手に取った月夜はしばらく見つめると、溜息まじりに言った。
「随分と酷い仕上がりですね」
「割れたからな」
「割れた事ではなく、この焼き物自体の事です。一言で言えばダメダメですね」
「ダメダメって……そこまで言うか?」
「ダメな物はダメです。そう言えばさっき、三つ作って二つ焼いたと言ってましたね?」
火事が心配で夜は焼かなかったので、残り一つは朝から焼く予定だった。
「残りもう一つはまだ残っていますか?」
「小屋の横に置いて有るよ」
「ちょっと見せてもらえます?」
「ああ構わないよ」
小屋の横に行き、焼く前の鍋を月夜に見せる。
すると月夜が再び溜息を吐く。
「これなら割れて当然でしょうね」
「土が悪いのか?」
「土も悪いですが、基本が全く解ってない感じですね」
「どこがダメなんだよ?」
「ざっと見ただけでも三つは直さないとダメな所が有りますね」
「そんなにか!」
「それを解決しない限り、また割れてしまうでしょう」
「なあ、教えてくれないか? 鍋の焼き方を」
「聞いてしまっていいんですか? あなたは王様なんですよ? これから自らの力で色々な物を作らないといけないんですよ? それでも聞いてしまうんですか?」
また何も教えてくれない意地の悪い月夜だ。
旅の間はあんなにもかわいらしかったのに……。
「それはそうかもしれないけど、僕はこの割れた欠片を見てもどこが悪いのかさっぱり解らないんだよ。これから色々な物を作らないといけないのにこんな事に時間を掛ける暇はないんだ。頼むから作り方を知っているなら僕に教えてくれ!」
「本当に聞いてしまっていいんですね?」
「ああ、教えてくれ。頼む!」
「解りました。王様がそう言うのならば仕方ありません。鍋の作り方を教えたからと言って今後の流れに大きな支障をきたす事も無いでしょう。今回は私が作り方を教えましょう」
月夜は呆れた表情をした後、鍋の作り方の説明を始めた。
*
「この鍋の何が悪いんだ? 三つも悪いとこが有るんだろ? そこまで問題が有るようには思えないけど?」
「一つ目は急ぎ過ぎです」
「急ぎ過ぎ?」
「本来焼き物と言う物は十分に粘土の生地を乾燥してから焼く物なのです。なぜ生地を乾燥させてから焼くか解りますか?」
「乾燥って……どうせ鍋を火の中に入れて焼くと熱で乾くんだから、乾燥なんてさせなくてもいいんじゃないの?」
「何を言ってるんですか! 火の中に入れるんですよ? 水を火の中に入れたらどうなりますが?」
「えーっと、水で火が消える?」
「…………」
ガックリと肩を落とす月夜。
「え? なんか僕、変な事言った?」
「ではですね、微量の水で火が消えない位の強い火力の場合水はどうなりますか?」
「水? 火の中に水を入れたら、水は沸騰するかな」
「そして沸騰した水はどうなりますか?」
「沸騰して水蒸気?」
「そうです。では、その水蒸気はどこに行きます?」
「水蒸気になって……どこかに……」
僕の答えを聞いてまた呆れ顔をする月夜。
「では、その水蒸気が焼き固められた焼き物の中で発生したとして、その水蒸気が焼き物の中から何処にも逃げられないとしたら?」
「えーっと……」
「粘土の生地の中から外に出られないのです」
「生地が水蒸気で膨らむ?」
「そうです。生地の中に入っていた水分が水蒸気となって膨らみ、結果生地も膨らんで割れてしまいます」
「そうなのか!」
焼き物を見ただけで割れた原因がわかる月夜は半端ない博識だ。
僕が王様じゃなく、月夜がこの国を率いた方がいいとさえ思えてしまう。
月夜は僕にもわかるように細かく失敗の原因を教えてくれた。
「水分を含んだままの生地を、火の中に入れて急激に加熱すると水蒸気によって生地が割れる事がよくあります。それを防ぐには少なくとも一週間は天日で生地を乾かして極力水分を飛ばしてから焼くのです」
「一週間もか!」
「少なくとも、ですね」
「じゃあ鍋を作った後、一週間天日で乾かせばいいんだね」
「はい」
月夜から一つ目の問題点を教えてもらった。




