土器作り4 初めての焼き物
「さてと、これに火をつけるよ」
僕は枝に火打石で火を点けた。
すぐに枝は燃え始め、枝の小山全体が燃え出すのにはそれほど時間が掛からなかった。
枝はすぐに燃え上がり、少し暗くなった河原を太陽のように照らす。
「すごい火だにゃ」
「危ないからあんまり近づくんじゃないぞ」
「どうせならお魚も焼けばよかったにゃ」
「焼き魚かー。でもこれだけ火が強いと、お魚もあっという間にコゲ焦げになっちゃうぞ」
「そか。じゃあまた今度焼き魚を作ってにゃ」
そんな事を話していたら三〇分ほどで枝が燃え尽きた。
細い枝なので燃え上がりも早かったけど、燃え尽きるのも早かったようだ。
僕は燃えさしの灰の中から焼きあがった鍋を取り出すことにした。
枝が全て燃え尽きて、完全に火が消えたのを確認してから僕は鍋を取り出す作業を始めた。
バーベキューで炭を掴むのに使う金バサミが無いので木の棒で代用。
木の棒で灰の中から鍋を掘り起こす。
鍋はすぐに見つかった。
棒で鍋の側面をコツンと突いてみると、焼く前の粘土のふにゃふにゃした感じとは違い、石のように硬くなっている。
色は悪いがレンガのように焼きあがった。
「よく焼けたな」
鍋が焼き上がったのを知ると僕は待ちきれなくなり灰の中から鍋を取り出そうとしたが、素手で触るとまだまだ鍋は熱かった。
「あっちちちち!」
その声を聞いて今まで黙っていたにゃん娘が言った。
「熱いのかにゃ?」
「まだちょっとな」
「じゃあ、もっと後まで鍋を取れないって事かにゃ?」
「いや、この熱い灰の中に入ったままだとなかなか冷えないから取り出すよ」
そう言って僕は鍋の中に棒を入れ強引に持ち上げた。
鍋は灰の中から取り出された。
ちゃんと焼けていた。
ちゃんとした鍋の形をしていた。
それを慎重に焚き火の無いところに降ろそうとすると、突然真っ二つに割れた。
「なっ!」
「うわ!」
鍋は落ちた衝撃で粉々に砕け散ってしまった。
「こわれたにゃ」
「壊れたぞ」
「割れたな」
「割れたのか」
「割れたにゃ」
呆然として割れた鍋の破片を見つめる三人。
「なんで割れたんだろう?」
「王様が乱暴に鍋を灰の中から取り出したからじゃないのか?」
「そうにゃ、きっとそうにゃ」
「ちょっと取り出しに焦ったかな? でも結構厚めに土鍋を作ったから棒を入れて持ち上げたぐらいじゃそう簡単には壊れないと思うんだけどなー」
「でもわれたにゃ」
「割れたものの事をいつまでも言っても仕方ない。もう一度最初から焼直そう」
日が殆ど落ちてほぼ暗闇の中、二度目の鍋焼きが始まった。
今度は焼き時間も延ばして倍の一時間だ。
小山の中に土器を入れ火を点けた。
途中何度も枝をくべて火力が落ちないようにしっかりと見張っていた。
そして一時間後、二つ目の鍋が焼き上がった。
「やけたけど、さっきのとは形がちがうにゃ」
「ぺっちゃんこだな。縮んだのか」
「縮む事は無いと思うが……取り出してみる」
二度目の鍋焼きも失敗に終わった。
今度は焚き火の中で鍋が真っ二つに割れていたのだ。
「また割れてた」
焼き物をやったことが無いのでなんで割れるのかよくわからなかった。
まあ、何度か焼いていればそのうち成功するんじゃないかと言う気がする。
再度鍋を焼こうと思ったら、辺りが真っ暗になっていた。
もうとっくに日没の時間を過ぎていたようだ。
「もういっかい焼くかにゃ」
「もう一個有るぞ」
だが辺りは陽が沈んで真っ暗。
新月なのか月明かりが辺りを照らす事は無かった。
このまま作業しても、真っ暗なので火傷や火事なんかの事故が起きるかもしれない。
そう思った僕は今日の作業を辞めることにした。
「今日はもう日が沈んでるからやめとこう」
「あきらめるのかにゃ?」
「あきらめたらそこで終わりだぞ!」
「あきらめないさ。でも今日はおしまい」
その日はそれ以上の作業はせずに、僕らは寝る事とした。
チート持ちが開拓村に転生するラノベの話だと次々に現代知識で新しい物を作れるんだけどな。
鍋なんてあっという間に稼いだお金で町に行って買い揃えるイメージ。
それがなー。
火を手に入れるのは命がけ。
鍋を作ろうとしても簡単には出来ない。
簡単に焼けると思った土鍋だったけど、世の中そんなに甘い物じゃなかった。




