土器作り1 パン
火が手に入ってから僕たちの生活は激変した。
焼き魚が食べられるようになったのが大きい。
やはり生や干物を食べるのとは段違いに美味しい。
匂いが違う。
味も濃い。
僕はにゃん娘たちとたき火の横に集まって、朝食の焼き魚を食べていた。
取れたての魚をはらわたも取らずに木の棒に挿してたき火であぶる。
それだけのシンプルな料理だ。
だがそれがたまらなく美味しい。
「王様、お魚は焼くとすんごく美味しいにゃ!」
「そうだろ、そうだろ」
「俺も焼き魚が好きだぞ。美味しいから食べてるだけで口の中がよだれがいっぱいになるな」
「火を手に入れた王様えらいにゃ」
「火って本当にすごい物なんだな。俺も火を手に入れた王様はえらいと思うぞ」
「そこまで褒められると、少し照れちゃうな」
「照れていいにゃ」
「照れていいぞ」
いきなり王様としての評価がうなぎ登りの僕。
みんな褒めちぎるから、照れるぜ。
「火を手に入れたのは僕だけじゃなくてみんなが頑張ってくれたお蔭なんだけどな。ちょっと間違えばみんな死んでたかもしれない位の旅をして手に入れたんだし」
「じゃあわたしもえらいにゃ」
「じゃあ俺もえらいんだぞ」
「そう、夕焼けも天色も月夜もえらい。みんな偉いんだ」
「みんなえらいえらい」
「火が手に入ったから、これからは今まで食べられなかったものも食べられるようになるんだ」
「食べ物が増えるのかにゃ?」
「食べ物が増えるのか!! ど、どんなものが食べられるようになるんだ? 王様!?」
「そうだなー。今まで食べられなかった芋とか米とか小麦とか食べられるようになるぞ」
「こめ? こむぎ? なにそれ? おいしいのかにゃ?」
「なんだか聞いたことも無い食べ物が出てきたぞ!」
「んー。じゃあパンでも作ってみるか」
「パン? またまた聞いたこと無い食べ物でてきたぞ!?」
「ぱん? なにそれ? おいしいのかにゃ?」
「おいしいぞ。真っ白でふんわりふわふわしてて香ばしくて、でも外はパリパリしてるんだ」
それを聞いてよだれを滝のように流す夕焼けと天色。
「ふわふわだって!」
「パリパリらしいぞ!」
「真っ白だって!」
「でも香ばしいらしいぞ!」
「どんな食べ物なんだろう。想像できないにゃ」
「王様が作る物だから、すごい食べ物なんだろうな」
「そんなに期待されると、ちょっと作りづらいんだけど……」
「早く作ってにゃ!」
「早く頼む!」
にゃん娘たちから熱い視線を送られながら、僕はパン作りをする事となった。
だが、それを聞いていた月夜が冷めた目をして言った。
「本当にパンを作る気なんですか?」
「そのつもりだけど?」
「本当にパンを作れると思っています?」
「火が手に入ったことだし、作ってみようと思うんだけどダメか? ご飯を炊くのと違って、小麦さえ有れば作れるからな」
「小麦だけでは無理です」
「え?」
「材料だけでも最低限小麦粉、発酵の為のイースト菌、塩、油、そして発酵を促進する為の砂糖が必要です」
「そんな物無くても小麦をこねて焼けばパンになるんじゃないか?」
「なりませんよ。カチカチで一口食べただけで歯が折れるぐらい硬いパンなら出来ると思いますが」
「マジかよ!」
「しかも小麦粉を捏ねるにはボールみたいな器が必要ですし、焼くにはオーブンが必要です」
「簡単じゃないな」
「作るならもう少し簡単な物から始めるべきです」
そうか無理なのか。
「悪い。夕焼け。パンは今は無理だ」
「えー! さっき言ったばかりなのに……王様しょっぼいにゃ」
「期待させるだけ期待させやがって! 王様ショボいぞ!」
さっきまでの絶賛は何処に消えたといった感じで、いきなり王様としての評価を落としまくる僕だった。




