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にゃん娘と作る文明開化  作者: かわち乃梵天丸
第二章 火打石入手への旅路
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火打石の山9 雷雨

 翌朝、夜明けと共に目が覚めた。

 夜明けの小鳥のさえずりが聞こえる。

 横で寝ているにゃん娘を見る。

 天色は疲れているのか豪快にいびきをかいて寝ていて夕焼けはいつもの様に寝言を言っている。


 「王様……火はすごいにゃ」


 月夜は……月夜だけが居なかった。


「どこに行ったんだろう?」


 普段から冷静な月夜なので突拍子とっぴょうしもない行動を取る事は無いだろうからそれほど心配では無かったが、少し気になった。

 僕は辺りを探してみる。


「月夜! 居たら返事してくれー」


 月夜を呼びながら辺りを探していると少し山を登ったところの勾配のきつい斜面に月夜はいた。


「どうしたんだ? 姿が見えなかったから心配したぞ」

「王様起きたんですか」

「起きたんですかじゃないよ。何も言わないで居なくなったら心配するじゃないか!」

「私が起きた時には、王様が気持ち良さそうに寝息を上げて寝ていたのであえて声を掛けずに出てきました。それとも寝ている所を起こして出掛けると伝えてから出てきた方が良かったですか?」


 月夜なりの気遣いだったみたいな。

 声を荒げた自分を悔いる。


「そうか。きつく言ってしまってすまなかった。ところで、ここで何をやっているんだ?」

「草から着火用の綿毛を集めてたんですよ。これは雨に濡れると火が点かなくなるので乾いたヤシの実の殻の中で保存しておいてくださいね」


 月夜は手のひら一杯の綿毛を僕に手渡した。


「これを集めててくれたのか。ありがとうな」

「どういたしまして」

「さ、みんなを起こしてご飯を食べたら出発しようぜ。村へ帰ろう!」


 その日はひたすら歩いた。

 行きと違って微妙な下り勾配の坂道となっているせいか足が早まる。

 あと、歩く事に慣れて来たのも大きいんだろうな。

 かなり早いペースで歩いた。


「今日も結構な距離歩いたな」

「ずいぶん早いペースで歩いていますね」

「このペースだと明日の昼ぐらいには森を抜けて、夜には村に帰れるかもしれないぞ。これなら食糧の事で悩む必要なんて無かったよ」


 だが世の中はそんなに甘くは無かった。

 翌日、朝から雨が降り続いた。

 かなり激しい雨だ。

 僕が川に流された晩の様な豪雨。

 森の中なので土砂降りの雨で直接濡れるという事は無かったが、木々の枝葉をすり抜けて降ってくる滴で結構濡れる。

 昼前に森の端までどうにか来たが森の先に有る草原では土砂降りが待っていた。

 土砂降りは視界が真っ白染まり先が見えなくなる程の密度を持っている。

 おまけに雷まで鳴っている。


「豪雨はともかく、これだけ雷が鳴ってる中を先に進むのは落雷が少し怖いな。ここで雨宿りをするか……」

「その方が賢明ですね」


 その日一日、雨が降り村を目の前にして足止めを食らう事になった。

 だがそれだけでは済まなかった。

 翌日も雷雨が続いた。

 しかも風もかなり吹いていた。

 こんなに雷雨が続くのは日本じゃありえないことだ。


「どうする? 今日の昼でヤシの実が尽きるんだけど、この雷雨のまま進むか?」

「雷雨が続いてるならここにいた方がいいと思います」

「雷雨で雨宿りするのは解るんだけど、そうそう雷なんて落ちる物じゃないし今日中には食糧が尽きてしまうんだぞ」

「あの小屋に落雷したらどうするんですか? あの小屋は何もない草原の中ではあの辺りで一番高さのある建物ですよ。落雷するならあの小屋に落ちるのが一番確率が高く一番危険です」

「マジか!?」

「安全を考えるならこの地に留まるべきです」

「でも、食べ物はどうする? このまま居たらいずれ餓え死ぬぞ?」

「村に戻っても、これだけ雨が降っていると川が増水して漁は出来ません」

「そう言われてみれば、それもそうだな……」

「それに、非常食を用意してあります」

「非常食?」

「こんな事もあるかと思って私が村を出る時に用意しておきました」

「月夜は干物の時もそうだったけど結構そういう所がマメと言うか気が利くよな。きっといいお嫁さんになれるぞ」

「や、やめてくださいよ」


 恥ずかしさで爆発するんじゃないかと思うほど顔が真っ赤になっている月夜。


「素直に褒めてやっただけのに、なんでそんなに照れてるんだよ」

「何でって……男の人は、あの、その、一人だけで、結婚するとなると……相手は王様だけで……」


 うわ、やべ!

 そういえば男は僕一人だけだ。

 いいお嫁さんになれるって事は、この中で唯一人の男の僕と結婚することで……。

 僕と結婚するって事はもろプロポーズだよな……。

 って、僕何言ってるんだよ!

 めっちゃ恥ずかしいじゃないか!

 それに月夜なんて口だけの女だぞ。

 全然可愛くないし!

 ぜんぜん可愛くないし!!

 いや、ほんとはちょっと可愛いし気になるけど……。


「いや、ぼ、僕と結婚してとか言ってるんじゃなくて、一般的に言ういいお嫁さんになれるかと……」


 僕も爆発しそうなぐらい顔が真っ赤になって俯いてしまった。

 僕と月夜が俯いていると、いつもと違う様子の僕らを見て夕焼けが話しかけて来た。


「二人して顔を真っ赤にして座りこんでどうしたのにゃ? お腹痛いのか?」

「な、何でもないぞ」

「そうにゃのか。それならいいにゃ」


 僕は照れ隠しに月夜に話しかけた。


「と、ところで月夜。さっき言ってた非常食なんだけど出してくれないか?」

「はい」


 月夜はカゴの底からヤシの葉に包まれたちょっと大きめの石ころの様な物を取り出し、地面の上に広げた。


「これはもしかして?」

「はい、ジャガイモです」


 それは丁寧に洗われて泥が落とされた綺麗なジャガイモだった。

 でも、ジャガイモって食べれなかったような?

 意地になって無理して食べたが、ものすごく苦かった記憶が有る。


「ジャガイモって食べれなかったんじゃないのか?」

「ええ、生なら確かに食べれません。でも今なら火が有るので美味しく食べる事が出来ますよ」


 火を通せばジャガイモは普通に食べられるんだった。

 すっかり忘れてたよ。


「そうだよな! 俺たちは火を手に入れたんだから、ジャガイモも食べれる様になったんだよな。火を手に入れた後の事も計算に入れて食糧を確保しておいたなんて、月夜は本当に賢いな。きっといいお嫁さんに……はっ!」

「なっ!」


 またまた二人して真っ赤になって俯いてしまった。

 そして、またまた夕焼けが様子を見に来た。


「大丈夫かにゃ? まだ顔真っ赤にゃ」

「な、なんでもないよ」

「今日の王様、少し変にゃ」


 僕と月夜を見て不思議がる夕焼けであった。

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