火打石の山4 火打石
俺が夕焼けを洞窟の出口に連れて行こうとしたが夕焼けはその場に留まった。
「キラキラ光る石は要らないのかにゃ?」
「もうすぐ太陽が沈んで真っ暗になるから、探してる時間は無いんだ」
「探す時間は要らないにゃ」
「え??」
「ここの壁に埋まってるにゃ。でも、固くて一人じゃ取れないにゃ」
見てみると、岩壁の中にこぶし大のキラキラ光る金属質の石が埋まっていた。
「これは火打石か?」
僕は月夜に聞いてみた。
「はい、これは間違いなく火打石です!」
「夕焼け! 良くやった!」
普段冷静な月夜も少し興奮気味だ。
俺は天色に火打石を壁から引き剥がすのを頼んだ。
「天色! 悪いんだけど、このキラキラ光る岩を取ってくれないか?」
「まかせろ! うりゃー!」
天色は力を込めると、簡単に壁から火打石を引き剥がした。
「よし、日が落ちる前に戻ろう!」
僕らは念願の火打石を手に入れ、洞窟を後にした。
*
僕たちは日が沈む前に大慌てで洞窟の中の闇から逃げる様に飛び出して来た。
手には念願の火打石を手にしている。
太陽は沈む寸前で、遠くの山の稜線の上から僅かに顔を見せているだけだ。
手にした火打石を見てみる。
それは石と言う名前からイメージしていた黒っぽい石では無く、完全に金属と言っていい様なギラギラと光る金属質の塊だった。
僕は月夜にそれを見てもらった。
「これ、火打石だよな?」
「間違い無く火打石ですね」
「やった! 遂にやったな!」
「やりましたね」
「でも、本当に惜しい事をしたよ。二個取れば、今夜から火が起こせてたき火が出来たのになー」
「それ一つだけで火を起こせますよ」
「これ一つだけで火が起こせるのか?」
「はい」
僕は火打石を振ったり、擦ったり、地面に叩きつけたりしてみたが、火なんて全く出なかった。
横に座り僕の姿を見ていた夕焼けが大笑いしてる。
「王様何してるにゃ? 王様見てると面白くて飽きないにゃー」
「うっさい! 黙れ!」
もちろん、本気で怒った訳じゃない。
笑いながら夕焼けにそう言った。
色々とやってみたがどうしても火が出なかったので、腕組みしながら飽きれ顔で僕を見ていた月夜に再び聞いてみた。
「一つじゃどうやっても火が出ないんだが、どうやって使うんだ? これ」
「火打石って、どうやって使います?」
「火打石と火打石をぶつけて火花を出す」
「ですね」
「でも、持っている火打石は一つしか無いぞ?」
「じゃあ、とりあえず固い物で叩いてみましょう」
「固い物っていうと、石のナイフだよな?」
僕は手持ちの石のナイフで火打石を叩いてみた。
最初は火花が出なかったが、何度か繰り返しているうちに……。
──バチーン!
キラキラと雪の結晶が静かに舞い降りるような火花が出た。
一瞬で消えたがとても明るい光だった。
その火花はすっかり暗くなった景色の中で映えた。
「うお! お日様だ!」
「おおー! 本当にお日さまにゃ!」
僕の様子を面白がって見ていた夕焼けと天色が歓声を上げる。
「これが火花か!」
「きれいにゃ!」
一瞬で消えたけど、本当に綺麗な火花だった。
僕たちは念願の火打石を手に入れた。




