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にゃん娘と作る文明開化  作者: かわち乃梵天丸
第二章 火打石入手への旅路
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火打石への旅路10 最後のお魚

「月夜は多少無理してでもこの先へ進んだ方がいいと言うんだな?」

「はい」

「お前を信じていいんだな?」

「信じてください」

「よし、僕はお前を信じる!」


 危険なのはわかっているが、僕は月夜を信じてこの先に進むことを決意した。


 *


 今まで無限だと思っていた時間が有限である事。

 そのことを月夜から告げられた僕はこの旅を少しでも早く成功させる為にまだ寝息を立てて寝ていた夕焼けと天色を揺さぶり起こす。


「夕焼け、天色! 起きてくれー! 朝だぞー」


 天色はすぐに起きてくれたが、夕焼けはいつもどうりすぐには起きてくれなかった。


「むにゃむにゃ、おうさま、食べきれないにゃ」

「夕焼け、朝だぞー。起きてくれー」

「おうさま、そんなに食べられないにゃ」

「起きないな……」


 僕はカゴの中から干物を取り出すと夕焼けの口に放り込む。

 すると、夕焼けは寝ながらくちゃくちゃと音を鳴らしながら、干物をしゃぶり始めた。


「むにゃむにゃ。おいしいにゃ!」


 僕はその干物を夕焼けの口から取り出すと、こう言った。


「お魚が逃げたぞ! 夕焼け、早く捕まえないとお魚が逃げるぞー!」


 夕焼けはばねが弾けるように飛び起きると、四つん這いとなり辺りを見回した。


「お魚はドコに逃げたにゃ!?」

「ここにいるぞ」


 夕焼けの目の前に指で摘まんだ干物を突き出しふらふらと揺らす。


「あれ? 夢だったのかにゃ?」

「夢だぞ」

「おっかしいにゃー。確かにお魚食べてた気がするんだけど」

「そうか。じゃあ、これでも食べてくれ」

「ありがとにゃ。夢の中でお魚食べたと思ったら、朝から本当にお魚にゃ! うれしいにゃ!」


 夕焼けは受け取った干物をしゃぶり始める。


 既に夕焼けの目は完全に覚めてるようだ。


「これが最後のお魚だけどな」

「え? 最後? もう食べられないのか?」

「お魚の干物は日持ちしないからな。悪くなる前に優先して食べてたんだ」

「そうにゃのかー。もう食べられないのか……」

「この旅の途中ではもう食べられないな」

「残念にゃ」


 夕焼けはさっきまで満面の笑みを浮かべるほどの喜びようだったのに、今は笑顔が吹き飛んでこの世の終わりの様にしょげている。


「早く火打石を取って村に帰ろうぜ」

「そうするにゃ」


 朝食を終えた僕たちは、先へと進む事を再開した。

 森は相変わらず鬱蒼とした感じで薄暗く、注意して歩かないと木の根に足を取られてつまづきそうな感じだ。

 そんな感じの森の中を二時間ぐらい先に進むと、突如森を抜けた。

 空には雲一つない青空が広がり、太陽の強い光が射して目がくらむ。

 久しぶりに見る太陽は目が痛くなるほど眩しい。

 そして、あの山が目の前にそびえ立っていた。

 火打石が取れると月夜が言った山だ。

 それが視界一杯に広がっていた。

 まるで手の届きそうな範囲だ。

 僕は傍らに居た月夜に話しかける。

 

「あと少しだな」

「ええ。あと三〇分もしないで着きそうですね」

「長い道のりだったな!」

「はい。本当に長い道のりでしたが、みんな頑張りました!」


 森を抜けて一分程先に進むとなぜ森から抜けたかという理由を知ることとなった。

 森を抜けたのでは無い。

 谷が現れたので森が途切れているだけだったのだ。

 しかもその谷は底が見えない程深い。

 谷は崖となってその下に川が流れている。

 しかも幅が十メートルぐらいだ。

 幅が十メートルも有るので走って飛び越えるわけにもいかない距離だ。

 どうやら、川の流れで台地がえぐれて出来た谷の様だ。


「これはずいぶん深い谷だな。深さ三〇メートルはあるぞ」


 それを聞いた天色が大きな体を屈めて恐る恐る谷を覗き込む。


「うひゃー! これは落ちたら痛いぞ!」

「死ぬ死ぬ。落ちたら間違い無く死ぬぞ! 体の頑丈な天色なら痛いぐらいで済むかもしれないけど、他の人だったら痛いじゃすまないって。たぶん即死だ」

「そうか?」

「そう。絶対そう」

「王様、思った以上に弱っちいな」

「僕だけじゃないよ。落ちたらみんな死ぬ」

「皆んな、ほんと弱っちいな」

「この谷どうする? 底には川が流れてるみたいだけど、この深さだと飛び降りるわけにもいかないしなー。ジャンプして飛び越せる距離でもないし。ここを渡れないとなると上流か下流に回り込まないとダメだから最悪丸一日ぐらいの回り道になってしまうな」

「おし! 俺に任せろ?」

「任せろって?」


 天色は僕の胴を両手で掴むと頭の上に抱え上げる。

 どこかで見たことある体勢だ。

 川で大岩を投げる体勢。

 何をしようとしてるかはすぐに解った。

 僕を向こう岸に放り投げようとしてる。


「やめ! やめ! やめろ! やめろ! 天色やめろ! お前何しようとしてるんだよ!?」

「俺が、王様を向こう岸に渡してやるぞ」

「どうやって?」

「どうやってって、ばっかだなー、投げるしかないだろ? 王様の背中に羽が生えてて飛べるなら別だけどな」


 やっぱ投げる気だよ!


「やめろ! やめてください! お願いします!」

「王様、遠慮しなくていいぞ」

「遠慮じゃねーよ! この距離投げられたら怪我するよ! 骨がポキポキ折れるよ! 運が悪かったら首がぽっきり折れてそのまま死んじゃうから!」

「王様、そんなに弱っちいのか?」

「そうだよ! 弱っちいよ! だから止めてくれ」

「そうか……悪かった。すまなかった」


 天色はすまなさそうに僕を地面へとゆっくり降ろした。


「でも、王様。ここを渡らないといけないんだろ?」

「渡れれば早いけど、渡れないからな。これだけ深い谷だと橋でも渡さないと渡れないし、上流へ回るしかないだろうな」


 僕は自分で言ってて気が付いた。

 橋でもあれば……?

 橋……橋を渡してしまえばいいのか?

 丸太の橋の橋ならどうにかなるかもしれないぞ。

 でも、木を切り倒す道具はどうする?

 道具なんてない。

 倒木を使うか?

 倒木みたいな朽ちた木なんて使ったら渡ってる最中に折れてしまうかもしれないな。

 なら、道具なしに力任せに木を引き抜くしかない。

 そんな事できるのか?

 僕には無理だ。

 でも、天色なら。

 天色の怪力なら出来るかもしれない。

 天色ならきっと出来る!

 俺は天色の怪力に賭けてみる事にした。

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