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にゃん娘と作る文明開化  作者: かわち乃梵天丸
第二章 火打石入手への旅路
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火打石への旅路8 意味深な言葉

 今日も朝日が昇る直前に目が覚めた。

 頬を撫でる冷たい風の冷たさと寒さで目が覚めたのである。

 この陽の直接差さない深い森の中では、明らかに今まで住んでいた河原にある村とは気温が違った。

 それが朝になると顕著になる。

 陽が差さないので寒いのは当然といえば当然。

 それに風が吹かないために、湿気が森の中に溜まっているのか寒さで朝霧の様な物まで出て、寒さに一層拍車を掛ける。


 村にある小動物の巣の様な粗雑な作りの小屋でも、防寒には役立っているんだなとありがたみを再確認した。

 そういえば僕がこの世界に辿り着いてすぐの時、大岩の上で雨に濡れた時はものすごく寒かったけど小屋が出来てからは雨が降ってもそういう寒さに凍えた記憶は無い。

 今回の旅で火打石が手に入れば火を起こせる様になるので、雪が降ったとしても二度と寒さに凍える事は無いだろう。

 その為にもなんとしても火打石を手に入れなくてはならない。

 だが、今回の旅には大きな問題があった。


 食糧問題だ。


 予定よりも食糧の減りが早く、このままだと旅の途中で食糧が足りなくなるのは目に見えていた。

 ここで『食糧の分配を大きく減らして行けるとこまで行く』か『安全策を取ってここで引き返す』かの選択で悩んでいた。

 僕は目が覚めたものの立ち上がる気力が起きずに膝を抱えて旅の方針を悩んでいると、僕の後ろから目を覚ました月夜が声を掛けてきた。


「眠れなかったんですか?」


 その声はいつもの突き放すような声ではなく、月夜らしくないとても優しい声だった。


「いや、眠れたよ」


 そう視線を合わせずに言った僕の姿を見て、僕が悩んでいるのを見透かした様に言った。


「悩み事なんですね」

「ああ」

「どんな悩みなんですか?」


 勘のいい月夜に隠し事をしても仕方ないと、僕は腹をくくり相談することにした。


「食糧の減りが予定していた量よりもずっと早いんだ。すでに食糧の半分を食べてしまい、このまま旅を続けても食糧が足りなくなるのは目に見えている。皆の安全を考えてここで諦めて帰るか、多少の無理はしても行き着くとこまで行く方がいいのか考えていたんだ。月夜だったらどうする?」

「私ですか? 私なら皆の安全を考えて戻った方がいいと言いたいとこですが……、このまま進んで大丈夫だと思いますよ」


 そう言うと月夜は僕の傍らまで来ると、背中側から僕の胸に両手を回して包み込むように軽く抱きしめてきた。

 そして耳元で囁いた。


「王様は考え過ぎなんですよ。一人で頑張りすぎです。もっとみんなの事を信頼してみてください。でも頑張る王様を私は嫌いじゃないですよ」


 いつにもないやさしい口調で月夜がそう言った。

 いつもの厳しい口調の月夜とは別人の感じだ。

 まるで怯える子猫を抱くお母さん猫のような感じだ。

 思わず甘えたくなる。

 現実を忘れてずっと甘えていたい。

 そんな感じのする抱き方だった。

 僕はあえてその心地良く抱く腕を振りほどいて、月夜の目を見ながら気になっている点を月夜に聞いてもらった。


「昨日、木の上から辺りを見た夕焼けの話だと、この先は火打石の取れる山の麓まで深い森が続いてるとの話だった。当然この森の中では水や食料を手に入れる事は出来ない。残り二日分の食糧と水分で、この先と山からの帰り道分の食糧が足りるとはとても思えない。それに、今帰るならば失う物は時間だけで、皆の身に危険が及ぶ事は無いと思う。それでも進んだ方がいいと思うか?」

「食糧なら大丈夫ですよ」

「なにか食糧のあてが有るのか?」

「あてはないです。でも、女の勘です」

「勘かよ! お前らしくないな」

「ですよね」


 月夜の言葉を聞くと、ふと可笑おかしくなって二人して笑った。


「でも、ここで帰ったらこれまでの旅がすべて無駄になって、また最初からやり直しですよ?」

「たかだか四日間の無駄だろ? たったの四日に僕たちの命を張るだけの価値は無いと思うんだ。僕には時間だけは無限にあるし」

「本当に四日間だけで済むんでしょうか?」

「四日だけだろ?」


 月夜の口調は先ほどまでの優しい口調ではなく、理知的であり冷たい口調に戻っていた。


「いいえ。火打石を手に入れるという事で考えるのならば四日では済みません。四日を無駄にして村に戻った後、再度準備をする事になるでしょう。今度は失敗しないように食糧を多く持っていける手段を考えたりするんじゃないですか?」

「たぶんそうなるだろうな。村に帰った後、今のカゴでは無く夕焼けや月夜の肩が痛まないような運搬方法を考えて、もっとコンパクトで日持ちのする食糧を探すことになると思う」

「そうなると二週間、いや二か月ぐらいは掛かるんじゃないでしょうか? それでは貴重な時間を無駄にし過ぎます」

「でも、二か月遅れようが三か月遅れようが失うものは時間だけだ。いくら遅れようが僕は月夜も天色も夕焼けの命を失いたくない」

「もしその遅れが全員の命に関わると言ったらどうします?」


 月夜は意味深な事を言った。

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