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にゃん娘と作る文明開化  作者: かわち乃梵天丸
第二章 火打石入手への旅路
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火打石への旅路7 足らない食糧

 朝飯の干物と夏みかんを食べ終えると、再び歩き始めた。

 向かうのはもちろん火打石の取れる山である。

 もちろん道なんて物は無い。

 道なき道をただひたすら山の有る方向に向けて歩く。

 まばらに生えている大木の間を縫って歩く感じだ。

 昨日と同じく定期的に夕焼けに木の上まで登ってもらい、夕焼けの指示する方向に進む。


 この、大木しか存在せずに果物が取れない鬱蒼うっそうとした森の中で迷ったりはぐれたりしたら待つのは「死」だけだ。

 一人で走り回って迷子になりそうな夕焼けを冷静沈着な月夜と手を繋いで歩かせて、僕は天色と一緒に後を歩く。


 夕焼けのカゴに荷物を入れれば荷物の重さで少しは落ち着くかとも思ったが、肩の傷がまだ癒えてない夕焼けに荷物を持たせるのは可哀想なので空のカゴだけを持たせていた。

 辺りの全く見えない森の中では、ちゃんと山へ向かって歩いているか確信は無かったが四人の中で一番幼い夕焼けを信じて進むしか無かった。

 目的地の見間違いとかさえ無ければいいんだがな……。

 木の上に登れるのは夕焼けしかいなかったので、本当に正しいのかは確信が持てなかった。

 この日、一〇回目ぐらいの方向確認をしに木の上に登った夕焼けが降りて来た。


「方向はこのままで大丈夫にゃ」

「そうか。ありがとう」

「どういたしましてなのにゃ」


 得意気な顔をした夕焼けがそう言った。


「ところで、この森は何処まで続くんだ?」

「たぶん山のふもとまで続いてるにゃ。ずっと森にゃ」

「そうか。後どの位かわかるか?」

「それは解らないけど、きっともうすぐ到着にゃ」

「わかるのか?」

「だいぶ山が大きく見える様になってきたにゃ」

「だいたいでいいんだけど、後どの位で到着だ?」

「わかんにゃいけど、掛かってもあと一日か二日かにゃ?」

「そうか……二日か……」


 これは大変な事になってしまった。

 元々用意していた食料は一週間分。

 もし山に到着するのがあと二日なら片道四日掛かる事になる。

 しかも、今ある食料は荷物の重さを辛そうにしていた夕焼けと月夜の分を意識して減らしたために予定のペースより早く消化してしまっている……。


 僕は改めて今ある食料を確認してみる。

 出発時には四カゴが満タンだった。

 天色と僕のカゴは今でも満タンだ。

 夕焼けのカゴは空。

 月夜のカゴは今朝の時点では半分程だったが、今の時点は残り四分の一を切っていて夏みかんと干物のみだ。


 カゴが二つと四分の一。


 たぶん、月夜のカゴの中身は今夜の食事と明日の朝の食事で消えてしまうだろう。

 となると、残りのカゴは二つだ。

 既に出発二日で食料のほぼ半分が無くなっているのは大誤算だ。

 元々の予定は七日間の旅。

 カゴが二つなら少なくとも三日半持たないとマズい。

 残りカゴが二つで往路の残り二日と、火打石探索の一日、そして帰りの四日の計七日を持たせることが出来るのか?


 否!


 無理だろう。

 どう考えても無理だ。

 道中で食べ物を採取できるんじゃないかと考えてたが、現実はそんな甘い物じゃ無かった。

 この森の中では魚の獲れる川が無い。

 針葉樹しか生えていないこの森では甘い果実を生らせる木も無い。

 探せばキノコ位は見つかるとは思うが、キノコにはカロリーが殆ど無いので食べても無意味だ。


 どうする?

 このままでは飢えるぞ?


 でも、ここでこの事を皆に打ち明けていいのか?

 この深い森の中で、この絶望的な状況を打ち明けていいんだろうか?

 解決策も無いのに、にゃん娘達を無駄に不安がらせるだけではないのだろうか?


 今ならまだ帰れるぞ?

 でも帰ったらまた準備するのに時間が掛かる。


 どうする?

 わからない……。


 どうしていいのかわからない。

 僕は答えを出せないでいた。

 日がかなり傾いてきたので、この日の移動はここで終える事にした。


「よし、今日はここで移動はおしまいだ。食事にしよう!」

「やったー!」

「お待ちかねの食事だな!」


 僕は危険と知りつつ、今まで通りの分量の食べ物を分配する。

 本当にいいのか?

 今夜の食事は魚の干物だ。


「今日の晩御飯は魚の干物だぞ。大事に食べろよ」

「ありがとにゃー」


 夕焼けは干物を満面の笑みで受け取る。

 これでいいんだよな……。

 そう心の中で思っても、僕の表情は沈んでいた。

 夕焼けと天色は受け取った干物をおいしそうに食べる。

 月夜がそんな僕の表情を見て察したのか、心配そうに見ていた。

 僕は月夜と視線が合ったが、心を見透かれている気がしてしまい思わず目を反らしてしまう。

 僕は無言で干物を食べた。

 そんな僕を見て、心配そうな表情を浮かべた夕焼けが声を掛けてくる。


「王様。どうしたのか? お腹痛いのか? いつもと違って元気無いにゃ」

「ん? 僕は元気だよ!」


 空元気からげんきを出して返事をする。


「それにしては全然話してなかったにゃ」

「歩き疲れただけだよ。心配かけてごめんな」

「そうか。それならいいにゃ」


 月夜は僕の傍を離れ天色の所に行きじゃれ始めた。

 僕は悩み事はあったが寝床を作り、日没と同時に横になる事にした。

 横にならなければ明日に響く。

 きっと今日は悩んで寝れないだろうと思っていたが、旅の疲れが出てきたのか僕の意識はすぐに闇に飲まれ眠りに落ちた。

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