火打石への旅路4 夕焼けの肩
太陽が天高く登ろうとする頃になると、今まで元気だった夕焼けが急に大人しくなった。
見ると額から汗を浮かべ、眉を寄せている。
「どうしたんだ?」
「かごの肩ひもが肩に食い込んで痛いにゃ」
「どれ見せてみろ」
夕焼けのカゴを降ろし、肩を見てみると右肩の肩ひもの部分が当たっていた場所が真っ赤になっていた。
昨日肩ひもが食い込んでいた部分と同じ場所だ。
血が出る程じゃ無かったが、赤く腫れ上がっていて皮膚が剥けるのも時間の問題だ。
「痛かっただろう? なんで早く言わなかったんだよ?」
「昨日カゴを直してくれたのに、言いにくいにゃ」
「お前が遠慮するなんて似合わないぞ。今度は早く言うんだぞ」
「ごめんにゃさい」
ここままでは進めそうも無い。
夕焼けの肩への負担を減らす為に、カゴの中身を減らす目的で食事を摂る事にした。
「ちょっと早いけど、ここでご飯にしよう」
「やったー!」
「夕焼けのカゴの中の夏みかん全部と、ヤシの実を一人一個づつ食べよう」
「えー! わたしのカゴのを食べちゃうのかにゃ? わたしのカゴの食べ物が無くなったらごはん抜きになるのかにゃ?」
「ないないない。カゴの中の食べ物はみんなの物だから心配するな。僕のカゴのも天色のカゴのも月夜のカゴの中身の食べ物はみんなの物だ。夕焼けも食べていい」
「ぜ、全部食べていいのかにゃ?」
口を半開きにして、よだれを垂らして目を見開いている夕焼けの顔が怖い。
こいつ、本当に全部食べそうだよ!
「全部は食べちゃダメだぞ」
「ちぇっ!」
天色にヤシの実を開けて貰いヤシの実を飲む。
結構長い時間歩いたので、飲むと乾いた喉にココナッツミルクが染み込む。
「ぷはー! うめー!」
「美味しいな!」
「おいしいにゃ!」
「おいしい!!」
あまりの美味しさに、普段は感情を表に見せない月夜まで思わず大声をあげていた。
その後、夏みかんも食べると、夕焼けのカゴの中身の重さが三分の一ぐらいになった。
これなら肩が痛くてもどうにか背負えるだろう。
昼食を終わりカゴを背負った夕焼けに聞く。
「どうだ? これならいけそうか?」
「カゴが凄く軽くなったから大丈夫にゃ。もう痛くないにゃ。王様ありがとうにゃ」
「僕だけじゃ無くて、荷物を持っているみんなのおかげだから、みんなにも礼を言うんだよ」
「みんなありがとにゃ」
「きにすんな」
僕らは再び歩き始めた。
一時間程歩いただろうか?
丘が途切れると同時に森へと辺りの景色が変わった。
スギやヒノキに似た針葉樹系の木々が生える森。
間違いなく森ではあるのだが、僕は激しい違和感に襲われていた。
何かがおかしい。
その原因はすぐに解った。
動物が居ない。
鳥どころか虫さえ一匹も居ない。
いったいこの森はどうなっているんだ?
僕は静か過ぎる森に違和感を抱いた。




