火打石への旅路2 村を出て
「みんな聞いてくれ! 昨日も話したように今日はあの火打石の取れる山まで歩いて行くことにします。お日様がいっぱい詰まった火打石を取りに行くのです」
「あんな遠くの山に行くのかにゃ?」
「そうだぞ。何日も掛けて歩いて行くんだ。何度も寝て何度もご飯食べてそれでやっと到着するぐらいの距離なんだ。すっごく遠いぞ」
「その旅のためにご飯を色々集めてたんだにゃ」
「そうだぞ。じゃあ、みんな準備はいいかな? 出発前におしっこちゃんとしとけよ」
「おしっこわすれてたー! 川まで行ってくるにゃ!」
「おおう、俺も一緒に行くぞー!」
夕焼けと天色は川に用を足しに行った。
「月夜は行かなくていいのか?」
「ええ。もう済ませてあります」
「やっと旅に出れるな」
「はい。やっとですね」
「これで火打石が手に入ればいいんだけど」
「入りますよ。絶対」
「ならいいんだけどな」
すぐに夕焼けと天色が息を切らせて戻って来た。
「待たせたにゃー」
「よし出発だ!」
僕らはかごを背負うと村を後にして、火打石の取れる山へと歩き出した。
留守の間の村が心配だったが、この辺りなら僕ら以外の人間は住んでいないので旅の間に村が乗っ取られる事も無いだろう。
万一乗っ取られる事になっても、大岩を掲げる天色を見た時点でお帰りになると思うので心配は要らない。
旅は道もなにもない平原をひたすら歩く事から始まった。
僕の降り立った地を超えさらに進む。
最初は芝生の様な背の低い草しか生えていなかったが、徐々に草の丈が高くなる。
膝の高さの草になり腰の高さへと徐々に草が生い茂る。
気が付くと胸の高さのススキの様な草を掻き分ける様にして進んでいた。
「道も何も無いんだけど、ちゃんと辿り着けるんだろうか?」
「あの山を目指してひたすら歩いていれば大丈夫ですよ」
月夜は自信有り気な顔をする。
博識な月夜がそう言うのなら大丈夫だろう。
僕は安心して歩を進めることにした。
ただ、他にも心配する要素はある。
深い谷や流れの速い川が僕らの進行を妨げることだ。
その事を月夜に聞いてみた。
「切り立った崖とか、底の見えない深い谷が現れたらそれ以上進めなくなったりならないかな?」
「見た感じ、この大地はそのような侵食が起こる程、古い大地とは思えないですけどね……そのような不安要素はそういう状況に遭遇してから考えましょう」
「そうだな。そんな事は心配しようがしまいがどうにもならない事だしな。山へ向かってひたすら歩こう」
「はい」
僕らは山へと歩を進める。
そんな中、月夜が呟くように言った。
「むしろ行きよりも帰りの方が大変……」
「なぜ?」
「山へ向かうにはあの山自体が目印になりますが、村へ戻るには何か目印になる物が有りますか?」
「あの僕らが作った小屋とか」
「王様……あんな小さなものがここから見えると思いますか? それとも王様にはあの小さな小屋が見えるんでしょうか?」
「ううう……ごめんなさい。目印なんて有りませんでした」
「最悪、戻れない事も考えておいた方がいいです」
村に戻れなくなるだと?
月夜は気になる事を言った。




