旅の支度6 最後の晩餐
僕らはお魚を手慣れた手つきで捌き、カゴに入れ海岸へと運ぶ。
ヤシの実取りと干物作りを同時に行うためだ。
もちろんカゴは四人とも背負っている。
これには意味が有った。
取ったヤシの実のを運ぶ為なのはもちろんの事、カゴの耐久試験も兼ねている。
旅の途中で壊れたら困るのでもし壊れるなら旅に出る前に壊れるか使えるかの見極めをしたかった。
海岸に着くと砂浜に落ちているヤシの実を集めるが波で流されてしまったのか殆ど見つからず、十個しか集まらなかった。
「旅の水分補給分には全然足りないな……こりゃ困ったな」
「あの木の上には沢山あるぞ」
ヤシの木の上を見ると、確かにヤシの実が沢山生っていた。
でも、とてもじゃないが登って取りに行ける高さじゃ無い。
「あの木をブチ折ってやろうか?」
天色が得意気な顔で言う。
「ダメダメダメ! 折ったらもう、二度とヤシの実を手に入れられなくなるだろ」
「そう言われるとそうだな……」
「わたしが取って来るにゃ!」
夕焼けはヤシの木をかけ登る。
まるで猿のように器用にヤシの木を登っていった。
木の先端まで高さ一五メートルは有ると思うがそれを五秒ぐらいで登りつめたのだ。
「すごいな」
「夕焼けはすばしっこいからな」
「いっくよー」
そう言うと、夕焼けがもぎ取ったヤシの実をポトポトとヤシの木の根元に落とす。
五個ほどのヤシの実が砂浜に落され、あっという間に一本のヤシの木からの採取が終わった。
天色がヤシの実を剥いて、中身を取り出す。
月夜がそれをカゴに収める。
僕は暇でやる事無し。
仕方ないので、海水で魚の開きを洗って干物を作っていました。
一時間ほどで一〇本程のヤシの木からカゴいっぱいになる程のヤシの実を集める。
およそ六〇個だ。
「一人当たり一日二個分ぐらい採れたかな?」
「ですね。それぐらいは有ると思います」
僕は気になっている事があった。
ヤシの実を満載したカゴの底が抜けるかどうかだ。
蔓を編んで強化はしてみたものの少しだけ不安だった。
だが、それは杞憂に終わった。
「どうだい? カゴは抜けたりしなかったか?」
「大丈夫だ。問題ない」
「大丈夫ですね」
「大丈夫にゃ。でも……」
「でも?」
「重くて肩が痛いにゃ」
夕焼けの肩を見てみると肩ひもが擦れて赤くなっていた。
こりゃとても長旅には耐えられそうもないな。
僕は慌ててカゴの肩ベルトの改良に取り掛かった。
原因は簡単だ。
背負い紐が細いから肩に食い込む。
そこで背負い紐の太さを太くして帯状に背負い紐を改良した。
それを背負ってみると肩に食い込む事も無く前ほどは痛くないとの事。
改良した背負い紐を取り付けたカゴを夕焼けに背負わせる。
「どうだい? まだ痛いか?」
「さっきよりはだいぶ楽になったにゃ」
よし、カゴは完成だ。
次は夏みかんだ。
「夏みかんを取りに行くぞー」
「「おー!」」
夏みかんをカゴの三分の一程積んで村に戻る。
「後はこれを詰め込めば旅の準備は終わりだな」
「カゴの中にヤシの実を入れ、その隙間を埋める様に夏みかんを入れる」
皆器用に詰めている。
月夜は不器用なのか夏みかんをあまり詰められなかった様だが、全体では数が足りている様なので僕は特に責める事もやり直す事もしなかった。
「干物は何処に入れるにゃ?」
「上にでも置いておけばいいんじゃないかな?」
「だめにゃ。隙間に入っちゃって取れなくなっちゃうにゃ」
「そりゃ困ったな……」
僕は森に行き、ヒノキの葉を取って来て、それを敷きその上に干物を並べる。
これで、かごの中に落ちる事は無い。
これで完成だ!
日が落ちる前に全てが準備出来た。
僕らはカゴに入りきらなかったヤシの実と夏みかん、そして古い干物を食べる。
かなり贅沢な夕飯で、火打石入手の旅の前祝とした。
明日の旅へ向けてその日は早く寝る事にした。
僕らの明日を創る旅に向けて……。




