旅の支度4 三本の矢
「うわーん! 王さまー」
夕焼けは僕の顔を見るとボロボロと涙を流して泣きだした。
「どうしたんだ?」
泣いていてばかりで話にならない夕焼けの代わりに、天色が理由を教えてくれた。
「ヤシの実を入れて帰って来る途中に、カゴの底が抜けたんだ」
「え??」
見ると、クズの蔓が千切れてカゴの底が破れていた。
ヤシの実の様な重量物を入れるのにはクズの蔓では耐久度が足りないのだろうか?
これは困ったな……。
試しに僕の編み上げたカゴに夕焼けを入れて持ち上げたら、数センチ持ち上げただけですぐに底が抜けた。
素材を変更しないとダメなんだろうか……?
入手性のいいクズの蔓のままで何とかならないのかな?
僕は月夜に聞く。
「カゴの底が抜けたんだけどどうすればいいか解るか?」
「カゴのどこが破れてますか?」
「底だよ」
「底のどこですか?」
「どこ?なのか?」
僕はカゴを改めて調べてみる。
すると、どれも骨となる縦の蔓の部分が切れていた。
「骨の部分の蔓が切れている」
「じゃあ、その部分を強くすればいいのです」
「どうやって?」
「それは王様ご自身がお考えください」
「蔓以外の素材を使うって事か?」
「違いますよ。毛利元就の三本の矢って言う話を知っていますか?」
「あれだろ? 一本の矢ではすぐ折れてしまうけど、三本の矢に束ねた物なら折れにくいと言う事で、兄弟揃って仲良く協力して協力しなさいって言う逸話だろ?」
「それを知っているなら答えは既に出てるじゃないですか」
「束ねろって事か? 骨になる部分にはロープの様に編んだ蔓を使えって事だな?」
「はい、正解です」
月夜はそう言ってほほ笑んだ。
「みんな、すまない、やり直しだ。今度は蔓を編んで束ねた物を骨とする」
僕は蔓を三本編んでひも状にして、さらにそれを三本編んでロープ状にした。
引っ張ってみたが簡単に切れず、力持の天色でも裂くのに力が居る程の強度だ。
今までとは段違いの強度だ。
念には念を入れて骨となる部分には三本蔓の紐を三本使って編んで作ったロープを使い、横糸となる部分には三本蔓の紐を使う。
それを使ってカゴを編み上げる。
見るからにしっかりしたカゴが出来上がった。
「よし! 夕焼け入ってみてくれ」
「わかったにゃ!」
夕焼けがカゴの中に入る。
そして天色がカゴの縁を持ち持ち上げる。
今度は底が抜けなかった。
耐荷重テストは成功だ。
「大丈夫にゃ!」
「天色。カゴをちょっと揺すってみてくれ」
「わかった」
ガゴを揺すっても底が抜ける事は無かった。
さらに念を入れてテストをしてみる。
「よし、夕焼け。その中でジャンプしてみてくれ」
夕焼けが籠の中でジャンプしても底が抜ける事はなかった。
今度はさっきのカゴとは比べ物にならない位のかなりの強度の様だ。
「よし! 完成だ!」
僕はそのカゴに編み上げたロープでカゴの底近くの壁に輪を取り付け、その輪とカゴの縁の間に肩ひもを取り付ける。
「よし、今度は月夜と夕焼けでカゴに入ってみてくれ」
「わかったにゃー」
「はい」
カゴに夕焼けと月夜を入れて背負ってみたが、底が抜ける事も無く肩ひもも切れることは無かった。
強度は十分だ。
長旅に耐えられるしっかりとしたカゴが完成した!
火打石の旅への大きな課題が解決した。
後は七日分の食べ物を用意するだけだ。
僕はこの旅への手ごたえを感じつつあった。




