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にゃん娘と作る文明開化  作者: かわち乃梵天丸
第二章 火打石入手への旅路
29/90

旅の支度1 見慣れぬ木

 僕は火打石を取りに行くにあたっての残件項目を確認する。

 

・食料 七日分

・飲料水 七日分


 以上だ。

 食料は干物でまかない、飲料は夏みかんで水分補給をする事で何とかなりそうだ。

 これさえ有ればギリギリではあるが飢えや喉の渇きに困る事は無いだろう。

 生魚を食べたいとの苦情は出るだろうが、そこはにゃん娘たちに理解してもらうしかない。

 だだ七日分ともなるとそれを持って行く箱が必要だ。

 素手で持っていくとなると夏みかん五個か六個が限界で、とてもじゃないか一週間分にはならない。

 水分の少ない夏みかんを長旅の飲料水代わりにするには一人当たり一日一〇個。

 四人で七日間だから二百八十個。

 だいたい三百個だ。

 段ボール箱五箱分?

 いやもっと多いかな?

 かなりの分量になるのは間違いなく、とてもじゃないか素手で持っていける量じゃ無い。

 となると必要な物がさらに増える。

 

・食料 七日分

・飲料水 七日分

・運搬道具


 理想はリアカーみたいな台車だが、石のナイフしか無い現状だと車輪や車軸が作れる気がしない。

 リアカーを作るのは無理だ。

 となるとやはり箱と言う事になるんだが、釘が無い状態で夏みかんを入れた重さに耐えられる箱を作れるんだろうか?

 釘が大工道具として一般に普及する前の江戸時代以前には木組み工法と言って、釘を使わずに木材に出っ張りや凹みを付けてそれの組み合わせで釘を使わずに組み立てる工法が使われていた。

 でもそれは精度の高い加工が前程。

 少なくともノコギリやカンナやノミが必要。

 石のナイフしか無い僕には作る事は到底無理だ……。

 まあ、道具が有ったとしても僕の工作技術では到底作れる気はしないけどな。

 木工は無理だ……。

 諦めよう。

 となると、代わりになる物を探さないといけない。

 僕はそれを探しつつ辺りを散策する事にした。

 考え事をしながら川沿いを歩く。

 気が付くと海岸にまで出て来てしまった。

 なんと海岸でとんでもない物を僕は見つけた。


 ヤシの木だ。


 この前、洪水で海岸まで流された時は命が助かった安堵感で心がいっぱいで全く気が付かなかったがかなりの数が海岸沿いに生えている。

 僕はヤシの木に更に凄い物を見つける。


「これは!」


 ヤシの木の上には沢山のヤシの実が沢山なっていた。

 よくマンガで砂漠を旅している旅人が飲み水代わりにヤシの実の汁を飲むという描写を見たことが有る。

 今でいう携帯飲料みたいな物だ。

 ヤシの実が有れば飲料水の確保の問題は一気に解決だ!

 間違いなくいける!

 僕は木の根元に落ちているヤシの実を持てるだけ拾い……とは言っても三個だけだけど、それを拾って村へと戻る。

 村へ戻ると河原で寝転がっていたにゃん娘たちが僕の持つヤシの実を見て興味津々で集まって来た。


「これはなんにゃ?」

「これはヤシの実と言って、飲み水の入っている実だよ」

「飲み水が入ってるのかにゃ? この実に?」

「ああ、とっても美味しい飲み水らしいぞ」


 僕はヤシの実を両手で割ろうとするが、硬くて割れない。

 アニメだと、いとも簡単にヤシの実を割るんだけど、どうなってるんだよ?

 現実はそう甘くは無かった。

 ヤシの実の表面をよく見ると、それは殻じゃ無くてかなり太い繊維で覆われていた。


「なんだこりゃ?」


 僕はそれを必死にむしる。


「まだかにゃー?」


 夕やけが僕の顔とヤシの実の間に潜り込んでヤシの実を覗き、邪魔をして来る。


「まだだよー」


 僕は必死にヤシの実の繊維をむしると、中からかなり大きな種の様な実が出て来た。


「これか!」


 アニメでよく見るいかにもヤシの実と言った感じのつるりとした表面の実が出て来た。

 僕は石のナイフでグリグリとドリルの様に突き立ててその実に穴を空ける。

 でも、結構殻が硬くてなかなか穴が開かない。

 穴が開いたのは一〇分後だった。

 中から甘い匂いが漂う。

 僕はその穴に口を寄せて一口飲んでみた。

 ほのかな甘みを持つ汁が口の中に広がる。

 冷たくはないが、ほんのり甘くさっぱりした果汁が僕の口いっぱいに広がった。

 忘れていたジュースの味だ。


「う、うめー!!」


 それを聞いた夕焼けが騒ぎ出した。


「のませて、のませて―! わたしも飲みたいにゃー!」


 夕焼けにそれを渡すと、夕焼けは一気に汁を飲み干した。


「お、おいしいにゃ! おいしいにゃ! すごいにゃ! これはすごいにゃ!」


 夕焼けは、ヤシの実の果汁のあまりの美味しさに恍惚とした表情をしている。

 喜んでもらえた様でとても嬉しい。

 今度は夕焼けを見た天色が黙って無かった。


「お、俺にも飲ませてくれよ!」

「飲みたいのか?」

「もちろん!」

「じゃあ、これの皮をむしってくれ」

「うおりゃーーー!」


 僕が天色にヤシの実を渡すと、よっぽど飲みたいのか力まかせに一瞬で皮の繊維をむしり取った。

 はええ!


「ほれ、剥いたぞ」

「は、はやいな」


 剥いた実を僕に無造作に渡す。


「ここに穴を開けないといけないから少し待っててくれな」


 僕が石のナイフで穴を空けてると、待ち切れなくなった天色が催促してる。


「まだか? まだなのか?」

「ちょっと待ってくれよ。ここに穴を開けないと飲めないんだ」

「そこに穴を空ければいいのか?」

「そうだけど、ちょっと硬いんで待ってくれな」


 待ち切れなくなった天色が言った。


「王様。それを貸してくれ。俺が開ける」


 僕がヤシの実を天色に渡すと、天色は実を地面に置き両足で挟んで固定。

 とっても大きな石を手に取る。

 ちょっと前にこの河原で火打石探しをした時に、夕焼けと天色がぶつけ合って割った大きな石の欠片だ。

 それで、叩き割る様にヤシの実の先端に叩きつける。


──スパーン!


 小気味いい音がしてヤシの実の先端を切り飛ばした。

 天色は空手の達人がビール瓶の飲み口を空手チョップで吹き飛ばす様にヤシの実の先端を切り落としたのだ。


「すげー!」


 僕が一〇分も掛けて開けたのを一瞬でかよ!


「どうだ? すごいだろう?」


 そう得意気に言った天色は、割った実に口をつけゴクゴクと飲み干す。


「うめーー!! これは、うめー!」


 一瞬で飲み干して、物足りないのか穴の中に指を入れ果汁が残って無いのか確認している。

 ヤシの実の中から指を取り出した天色が不思議そうに指先を見ていた。

 白い粘り気の有る液体が指に纏わりついていた。


「なんだこりゃ?」


 天色は鼻を近づけ匂いを嗅いだ後、それをペロリと舐めた。


「うお! 何だこりゃ? これもうめー!!」

「ココヤシのココナッツオイルですね。果汁と一緒に混ぜて飲むととっても美味しいですよ」


 そう月夜が説明。

 天色は美味しそうにそれを食べる。

 夕焼けは天色の真似をしてヤシの実に指を入れるが穴が小さくて、指が入らなくて半泣きだ。


 見かねた天色が石で実を叩き割ってやると夕焼けは大喜びで殻の内側に張り付いたココナッツオイルを食べた。

 僕は遠慮して飲みたいと言い出せない月夜に声を掛けてやった。


「お前も飲むか?」

「余ってるなら……」

「最後の一つあるから、お前が飲めよ。俺、海岸で浴びる様に飲んで来たからさ」


 まあ、飲んだというのは嘘だけど。

 月夜が飲みたがってるから、僕はさっき飲んだ一口でいいや。


「ありがとう」


 月夜は天色に開けてもらったヤシの実の中身を指でかき混ぜて一口飲む。


「美味しい」


 そしてそれを物欲しそうに見ていた天色に渡す。


「ココナッツオイルと果汁を混ぜた物をココナッツミルクと言うんです。飲んでみて下さい。さっきと違ってコクがあるので一味違って結構いけますよ。夕焼けと分けて飲んでくださいね」

「お、すまないな。お前はもういいのか?」

「一口でお腹一杯です」


 こいつ、また遠慮してるな……。

 バレバレの嘘じゃないか。

 天色はココナッツミルクを一口飲む。


「こ、これも美味いな! さっきのは凄くすっきりしてたけど、今度のは凄く濃厚でコクが有る!」

「飲ませてー! 飲みたいにゃ!」


 天色は飲ませてと催促する夕焼けにヤシの実を渡す。

 それを受け取ると大喜びで飲み始める。


「うまいにゃー! おいしいにゃー!」


 ヤシの実はにゃん娘たちに大好評。

 僕達は、河原でひと時の涼を味わった。

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