丘探索5 麦チョコの様な物
僕は昨日崖から取って来た銅らしき小さな塊を月夜に見せる。
それはお菓子の麦チョコが解けて何個かが固まったような形をしていて鈍く光っている。
多分金属なのは間違いないが、それがなにかと言われるとはっきりとは答えられない。
「月夜。ちょっと悪いんだけど、これを見て貰えないかな?」
「なんでしょうか?」
「これは銅と思うんだけど、間違いないよな?」
「これは珍しい物ですね」
「珍しい? 銅じゃ無く金とかだったか?」
「そんな訳ありませんよ。これは銅です」
「そうか。でも銅なんだろ? それじゃありふれた金属で全然珍しくもなんともないじゃないか」
「こんな純度の高い銅は珍しいですよ。自然銅と呼ばれている純度の高い鉱石です」
「これで純度が高いのか?」
どう見ても泥や砂混じりで麦チョコの出来損ないの様なこの銅が純度が高いとは思えない。
一〇円玉でよく見た、あのピカピカな感じの銅とは全く違うんだけど。
「現代ではどういう形で銅を入手してると思います?」
「銅の鉱石を掘ってるんだろ?」
「少し違いますがその答えでいいとしましょう。その鉱石に含まれる銅はどれぐらいの比率だと思います?」
「二十パーセントぐらい?」
「そんなに沢山含まれていませんよ」
「五パーセントとか?」
「一パーセント未満です。一般的には〇.五パーセントと言われています」
「マジでそんなに少ないのか?」
「嘘ではありませんよ。だから銅の塊ともいえるこの鉱石は珍しいと言ったのです」
たしかにその含有量でここまで金属として形作られているのは凄いと思う。
でも、銅が〇.五パーセントしか含有してなければ金並みに貴重だよな?
「でも、そんなに少量しか取れないとなるとかなり貴重な金属って事にならないか? 銅なんて十円玉に使われてるぐらいの安い金属だろ? それが貴重なのか? 銅なんて金属の中では一番安い金属だろ?」
「現代社会では大規模に採掘精製していますからね。大規模に採掘精製すれば安価でも採算が取れるのです。それに銅は副産物みたいな物ですからね」
「副産物?」
「銅はレアメタルの副産物なのですよ。レアメタルを取る為に大規模な採掘精製をしているので、副産物としてかなり安価に出回っているのです」
「なるほど……じゃあ、もし火を手に入れてもこの自然銅という物が手に入らないとなると、銅の精錬と言うのはかなり難しいのか?」
「そうですね……純度の低い銅の鉱床から量に任せて銅成分を取り出す現代の生産方式ですと、精製の過程で電気分解や化学添加剤が必要ですから生成は限りなく不可能に近いぐらい難しいとしか言えないですね」
「そうだったのか……」
銅なんてステンレスやチタンなんかから比べると金属の中で一番入手しやすいゴミ同然の金属と思っていたけどそんな事は無かったのか。
当たり前だったものが、実は全然当たり前じゃ無い。
僕は少なからずカルチャーショックを受けた。
「まあ、王様は道具を持たずにこの様な鉱石を入手できたんですから、入手性での心配はしなくていいと思いますよ」
「そうか、良かった。じゃあ、後は火が手に入れば銅を作れるって事だな?」
「そうですね。道具は必要ですが、間違いなく作れると思います」
「ありがとう。希望が見えて来たよ」
「王様は私たちの希望ですからね……頑張ってくださいね」
「ああ。もちろん頑張らせてもらうよ。じゃあ、火打ち石の入手に向けて本格的に活動を始めるか!」
銅を生成できることを知り、火打石の入手に向けて新たな決意をする僕であった。




