丘探索4 魔界の豆
「ところで、坂道の工事の方は出来たか?」
「ええ、夕焼けと天色が頑張ってくれたのでちゃんと出来ましたよ。激しい雨の日でも坂で滑って登れないと言う事は無くなると思います」
「みんな頑張ってくれたんだな。ありがとう」
「村造りは俺たちに任せろ! 特に力仕事は俺に任せるんだ!」
「王様も、みかんありがとうにゃ」
坂道作りで疲れていたのか朝が早かったのかせいなのか、にゃん娘たちは小屋に入るとすぐに深い眠りに落ちた。
僕も歩き疲れたせいかにゃん娘たちの寝息を聞きながら横になっていると、すぐに眠りに落ちた。
翌朝、僕は耳元の大声で起こされた。
「王様ー! 王様ー! 起きてにゃー!」
夕焼けが僕を大声で揺り起していた。
「ど、どうした? 何かあったのか?」
「昨日のやつ食べようよー! あの緑の食べようよー!」
「ああ、そうだな。食べるか」
夕焼けが僕を大声で揺り起すので、みんな目が覚めて置き上がった。
「なんだ? 随分と起きるの早いな? 夕焼け」
「昨日の緑のを食べるのが楽しみで寝てられなかったにゃ」
「ああ、あれか。昨日もう一つ取って来たやつだな。王様が取って来るものは何でも美味しいから、俺も楽しみだ」
三人のにゃん娘を引き連れて、小屋から出る。
夕焼けは言われもしないのに倉庫の中に入って、枝豆の束を取って来た。
「さあ、配るにゃ。早く配るにゃ!」
「ちょっと待ってな……いま食べられるとこと食べられない所をわけるから」
このまま渡すと、夕焼けが茎ごと食べかねないので枝豆の房を茎から外す。
あんまり気にしなかったけど、何種類かの豆を取って来たようだった。
一つは普通の枝豆みたいな感じの房だけど、もう一つはもう少し長くて豆のくびれが見えなくていんげんの太い感じに見える。
それをにゃん娘達に配る。
一人五十房ぐらいずつで、ちょっとした食事になる分量だった。
「いっただきますー!」
夕焼けは豆を鞘ごと鷲掴みにして頬張ろうとする。
「ちょっとまった!」
僕が声をあげると夕焼けが手を止めた。
「何で止めるにゃ? おいしそうなのに……」
「房ごと食べたらダメだ! こうやって中身を出して……」
僕が房を剥いていると大声が僕の耳元で鳴り響いた。
「食べたらダメ!!」
月夜だった。
「解ってるよ。だからこうして房を……」
「それを食べたら死にます!」
「ま、まじで?」
この、ずんぐりしてる方の豆が毒入りの豆だったか?
僕の顔面から血の気が引いた。
「ちょっと食べるの止めて!」
僕はにゃん娘達から豆の鞘を奪取る様に集めると、それを仕分ける。
「こっちの太いのが食べれない豆だった。ごめん、こっちを食べないでくれな」
「いいえ、違います。豆と言う食べ物自体に毒が含まれているのです」
「え? なんで? もう一つのは枝豆だろ?」
「はい、枝豆です。大豆の完熟する前の房です」
「枝豆はとっても美味しい物だぞ? 枝豆なら毒なんて入ってないし、すごくおいしいぞ。本当は茹でた方が美味しいけど、生でも十分食べられるぞ」
僕は月夜が言っている事が信じられず、枝豆を一粒取って口の中に入れる。
そして噛み砕こうとした時に月夜が言った。
「死にますよ」
「枝豆だよ?」
「枝豆だから死ぬんです。食べたら胃が焼けただれて死にますよ」
「こ、これは魔界の枝豆?」
「そんなもの枝豆とは言いません。地球の枝豆と同じものです」
「なら毒でも何でもないだろ? 枝豆の完熟した大豆は畑の肉と言われてるぐらいだし。むしろ健康にいいはずだろ?」
「それは大豆の話ですし、枝豆が食べれるのは火を通した時の話です。火を通せば毒が分解されるので食べれますが、生の枝豆を食べたら確実に死にます」
「なんだって!?」
「レクチンと言う毒素が含まれていて、それは凝血性の毒で食べると血が固まります」
「ぐは!!」
僕は慌てて口の中に含んだ豆を吐き出す。
「なので枝豆を生で食べてはいけません」
「みんな悪い。これは捨てる事にする」
「えーー!! すっごく楽しみにしてたのに?」
必死に抗議する夕焼け。
「食べたら死ぬぞ? それでも食べるのか?」
「……解ったにゃ。我慢する」
僕はそれを捨てた。
月夜が言うには、自然に生えている食物で生で食べられるのは食べられることを前提として進化して来た植物だけで、大抵の植物には他の動物に食べられない様に自己防衛として多かれ少なかれ毒を含んでいるそうだ。
豆類にはレクチンと呼ばれる凝血性の毒素が含まれていてる。
特に豆類にはその毒が多く、数粒食べただけで嘔吐をする程の猛毒らしい。
ちなみに、レクチンはインゲンマメ、大豆=枝豆、ジャガイモなんかに含まれてるそうだ。
そう言えばジャガイモを生で食べたけど、よく僕死ななかったな……。
当たり前と思っていたことが死の危険を孕んでいると知り、大自然の恐ろしさを知った一日であった。




