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9.古代獣の卵

 ゲームのために早寝を心がけていた最近では珍しく、ちょっとばかり夜更かしした後ダイブすると、風邪が治ったハイドからメールが入ってた。

『久しぶりにSD入った。ダイブしたら連絡して。合流しよう』

 リングを起動してチャットを送る。

「お疲れ、ハイド。久しぶりー。治って何より」

『レン、久しぶり。合流地点はどうする?』

「家風亭って宿屋の一階の酒場で」

『了解。じゃあ後で』

 ハイドに話したいことがたんまりある。

 青騎士のこととか、クリスのこととか、サラさんのこととか、あの黒狼のこととか。

 古代獣のこととか、な。


 ***

 

 古代獣の間に入った後、見た目は可愛い栗鼠タイプのモンスターがわらわらわらわら湧いて出てきた。

 一匹だけなら問題のない相手だが、いかんせん数が半端ない。

 壁の一角を背に陣形を組んで、4人が片っ端から倒し続けているのだが、数が減った感じがしない。もしかして、何かの増殖タイプの罠でもあるのかも知れない。

 ゲストで狙われないのを利用して、探査で部屋中を探っていく。

 が、ない。

 罠なんて、なーんにもない。

 これは純粋にこの数の雑魚敵を殲滅する必要があるクエストなんだろうと判断できる。

「これ、どうも全部倒さないとダメみたいですねぇ」

「ま、マジで? そろそろMPがまずいわっ! 後5発で尽きるから、一旦回復するわ」

「補助、回復はまだ余裕がありますっ」

「ルーに防御補助を継続、各個撃破に徹しろ」

「「「了解」」」

 四人の連係プレーは息の合ったものだった。

 目の前の無双に圧倒されて何もしなかったわけではない。ぶっちゃけ、こっちのレベルが低くて、手を出す間がなかったのだ。

 レベルの高い人が一閃を使うと、物凄い威力だ。一度に五匹以上が後方に跳ね飛んで光に変わって行く。

 まさに吹き飛ばすって奴で、いつかこの域に行けるといいなぁ……と素直に思った。

 結局役に立ったのは、弱点属性をサラ姉さんに言ったことくらいだ。後は、敵が何匹いるかのカウントダウンをしたり、応援したことくらい……。

 うーん、全く役に立ってない。

 見事に敵を全滅にし、息を切らしてへたり込んでいる四人に、アイテムボックスから回復効果のあるジュースを渡していく。

「お疲れ様ーっす」

 他の三人は素直に礼を言って受け取ってくれたのに、黒狼は壁に凭れて腕を組んだまま動かない。

「別に毒じゃーねし、HP回復効果もあるから、飲めよ」

「…………」

 黙っている黒狼の交差する腕の間にジュースの容器を突っ込んで、無理矢理渡す。

「いらねーって」

「飲んどけって。こっからがたぶん本番……だろ?」

「あん?」

「さっきの雑魚(青騎士たちのパーティにとって)は前哨戦。この部屋の名前が『古代獣の間』なら、でっかい獣が出てくるはずだろ?」

 その可能性に思い至らなかったのか、黒狼はハッと顔をあげ、渡したジュースのストローを口の横に咥え一気に飲み干した。

 

 つづく!

 

「っておい、レン。『つづく』はないだろう、『つづく』は……。早く続きを話せよ」

 ハイドがすかさず突っ込んだ。だが、続くのだ。

「だって、飯来たし食べたらまた話すからさ。五分待って」

 最初にハイドと出合った時と同じゴゴイチのカレーがテーブルにやってきた。この臭いを嗅ぎながら、待ての状態で話を続けるとか、それって拷問だ。

 ハイドも食べ始め、お互い早食いなので、きっちり五分で食べ終わった。

「あー美味かった。満足満足」

 腹をさすりながら水を飲み干すと、ハイドの視線が突き刺さるのを感じて、話の続きを思い返した。

 


 HPとMPの回復が終わった後、部屋に異変が起こった。

 部屋の中央に光る球が出現し、次第に光と質量を増し始めたのである。まさに、ボス出現といった演出だ。

 光の塊は巨大な鳥の形を取った後、光の膜が弾けて割れた。RPGでもよく見るエフェクトだが、生で見るとかなり綺麗だ。

 古代獣は巨大な鷲――グリフォンだった。

 羽を広げた威嚇行為にうっかり見惚れていると、耳をつんざく咆哮が広間に響き渡った。

 それが戦闘開始の合図だった。

 とはいえ、先ほどの雑魚戦と同じく、角の壁を背にしての戦闘で、四人は順調にグリフォンのHPを削っていく。

 ゲスト扱いで狙われないとはいえ、あの輪の中から外れてしまったので、結構怖い。



 ***

 

「なんで輪から外れて別の場所にいるんだよ?」

「黒狼さんにジュース渡した後、ついついぼーっとグリフォンの出現見てたら、戻り損ねちゃってねー」

「レン……ゲストとはいえ、気抜き過ぎじゃないか?」

「そうなんだよなー。まさかこっち振り向くとは思わなかったもんなー」

「え!?」


 ***


 グリフォンのHPがレッドゾーンに入った瞬間、奴は後ろを振り返った。

 背後だから攻撃範囲外だと思い込んでいたばっかり、対応が遅れた。

 グリフォンの鋭い嘴が、頭上から振り下ろされて…………一撃で終了した。

 

 

 それを聞いたハイドが驚き、音を立てて椅子から腰を浮かした。

「レンだけ死に戻ったのか?!」

「うん、そう。正解」

「何故だ? 対グリフォンはその4人で、お前はゲストだったんだろ?」

 ゲストが襲われるのは、4人が全員死んだ後のはずである。至極まっとうなツッコミに、頬をかいて苦笑いを浮かべる。

「うん。だって『盗む』で物盗んじゃったからねー」

「…………はぁあ?」

 スキル盗むは、背後から行うと成功率が格段に上がる。もちろん、格上の敵でも可能なくらい成功率が上がる。

 グリフォンが背中を向け、青騎士たちを相手に戦闘を繰り広げているのを観戦していて、つい、出来心が……。

 今ならかなりの確率で、隠し召喚獣の貴重な物が盗める……という悪魔の囁きに負けたのである。

「いや~初めて死に戻りしたけど、それなりに苦痛だわ、アレ」

「それよりも、レン……戦利品は? 一体何を盗んだんだ?」

 ハイドが興味津々で聞いてくる。

 顔が無意識ににやける。

 リングを操作して、アイテムボックスからグリフォンから盗んだ貴重品を机の上に置いた。

「グリフォンの卵」

 両手に乗るくらいの大きさの、茶色いまだら模様の卵だ。

「これ、まさか食べようとか思わなかっただろうな?」

「さすがハイド。よく分かったなぁ。冗談でサブちゃんに渡して調理してもらおうとしたら、怒られた」

「そりゃそうだろう。……で、これは卵から孵ったりするものなのか?」

「さぁ? 全然情報も無いもんだから、割れるの怖いし、とりあえずアイテムボックスに放り込んでる状態だ」

 レアな物を手に入れて浮かれて、目が覚めて起きてから、速攻で攻略ページを見に行ったのだが、やはり古代獣というもの事体がレアらしく、有益な情報は何も無かった。

 どうするべきかと悩んで、サブちゃんの飯屋に行って、冗談で言ったらかなり本気で怒られた。

 クリスに連絡を取って情報を得ようかとも考えたのだが、一緒にくっついて行って、こんなの勝手に盗んだって分かったら、トラブルかなぁ……と思い、クリスに聞くのは保留にしている。

 まぁ、皆が風邪から復帰したら相談しようと、グリフォンの卵はアイテムボックスに放置だった。

「でさ、どうすればいいと思う? コレ?」

 ハイドは腕を組んで唸り始めた。

「まずは、クリスさんたちに、卵のことを言うべきだと思う。ゲストでくっついて行ったんだし……。レン、一人で死に戻った後、クリスさんから連絡は? フレンド登録してるんだろう?」

「ああ、戦闘終了後に合ったけど、その時はアイテムボックスにこんなのが入ってるとは気付かずに、普通に会話して終わっちゃったしなー」

「いつ気付いたんだ?」

「ゲーム内時間で三日後。アイテムボックスってまめにチェックしないから、気付くの遅れて、クリスたちに言い出しにくくなり、現在に至る」

 言い切るとハイドは「ふーっ」とため息を吐き出して俯いた。

「レン、今すぐクリスさんに連絡しろ。傷はどんどん深くなるぞ。顔合わせ難くなるぞ」

 だよねーと同意して、フレンド登録からクリスティアンにチャットを申請した。

「あ、クリス? ちょっと話があるんだけどさ。今何処? まだ鍛治の町にいる? 前にケーキを焼いていた宿屋でいいか? 悪い、よろしく」

 あっさりと会えることになり、覚悟を決めてハイドと二人、クリスたちが来るのを待つことになった。




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