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8.遺跡隠しダンジョン



 さすがに有名な最前線で戦っているパーティはレベルが違う。つか、こんな中レベルなダンジョンのボス相手だと、ほんとコテンパンって奴で、実に簡単に倒してしまっていた。強すぎてボス戦の参考にもなりゃしない。

 

 ――ま、こっちもボス戦見るのが主目的じゃないからいいんだけどな。

 

 ボスが消え去って拍手で四人の健闘をたたえた後、一人ボスの間の壁をよじ登って、ダンジョンの一番高い場所に着いた。

 ランダムに並べられた石作りの壁の間から背の高い草が生い茂り、朽ちた遺跡を彩っている。

 一番高い場所から見下ろす石造りの迷路に、夕日が差し込んで複雑な影を作り出していた。

「おぉーっ。絶景絶景」

 風邪から復帰してきたらアイツらに見せてやろうと、写真を何枚か撮って下に降りる。すると何故だかクリスたちがまだボスの間に居た。しかも黒狼が壁を叩いたり床を這ったりしている。

 たぶん、何か隠し部屋か、隠し宝箱とかあるって情報を得て来たんだろうなぁ……と予想しながら、一応聞いてみる。

「…………何捜してんですか?」

「見ての通り、探知中です」

「邪魔するなよ」

 黒狼の言葉には『はぁ』と生返事をしておいた。

 上に登って景色堪能して、写真撮ってる間に探知終了していないということは、隠し部屋や隠し宝などを見破る探知スキルのレベルが、この部屋の隠しを見つけるためのレベルに足りていないんだろう。

 そう判断してボスの間を鑑定してみると、探知レベル25と出た。

 黒狼に直接言うと色々面倒そうなので、端のほうに立っていた3人に寄って行った。

「やぁ。もう帰ったのかと思ってたよ」

「ちょっとボスの間登って景色を眺めてたんです」

「ああ、そういうのもいいね」

 青騎士はいつも爽やかな笑顔だ。顔も北欧系の美形で、隣に並ぶ美魔女のサラさんと並ぶと美男美女で目の保養だ。ロリっ娘は萌えないから、スルーの方向で。

「ほぉお。どんな景色だったのです? レンさん、スクショ撮ったの見せて下さい」

「あ、私も見たいな」

 クリスとサラさんに写真を見せながら、青騎士に何気なく言ってみる。

「ところで、この部屋の探知レベル25ですけど、黒狼さんのスキルレベル……足りてます?」

 それを聞いた途端、黒狼さんの行動がビタッと止まった。

 

 ――あ、届いてないんですね。もう分かりました。

 

「レンさん、どうして探知レベルの数値が分かるんです?」

「ああ、鑑定のスキル持ってるから。それでボスの間を鑑定しただけ」

「そんな物まで鑑定できるんですか? 私、初めて聞きましたっ!」

「それなりにレベルが上がったら、鑑定できるものの幅も広がるんだよ」

「成る程……。鑑定出来るのが最初はアイテムだけだから、アイテムだけだと思ってスキルレベルを上げる人があまりいないのかも知れないね」

「それよりどうする? ルーの探知レベル、25になるのは、まだまだよ? 折角ここまで戻ってきたのに……」

 モデルのような栗色のロングの巻き髪のサラ姉さんが、片頬に手を当てて困ったようにため息を零す。

 隣でおっさん疑惑のロリっ娘クリスも顔を顰めていた。

「ううーっ、困ったものですねぇ。ルーもずっと探知を使っていたから、大丈夫だという目論見が崩れちゃいましたね……」

「レベルが足りないんだから仕方ない。レベルが上がるまで、ここは後回しにするしかないだろう」

 青騎士がそうまとめると、黒狼がこころなしか、しゅん……と俯いている。

 

 ――大きな図体でしゅん……って、可愛いわー。中身アレだけど、撫でてぇ!

 

 そんな気持ちを抑えて、腕組して壁にもたれかかりながら、さり気なく言ってみる。

「探知レベル26あるけど、条件付で代わりにやろうか?」

 四人の視線が一斉に集まる。

「ほほほ、本当ですか? レンさん!」

「あら、丁度いいじゃない。……けど」

「君の言う条件次第だな」

 さすがリーダー。青騎士は抑えるべきところがよく分かっている。

 利用できるものは利用する。しかもタダじゃないことに文句がない。器のデカイ人だ。

 隣で嫌そうな顔をしている黒狼とはえらい違いだ。

「条件は、この先のダンジョン、ゲストとして一緒に行くこと。そう難しい条件でもないと思うけど、どうする?」

 青騎士は考える間もなく即断した。

「俺は別に構わないが、皆はどうだ?」

「クリスも賛成です。ルーのレベルが上がるのを待つよりこのまま隠しに入りたいです」

「同じく、ね。ルーもそう牙を剥かない。レン君がここにいて手間が省けたくらいに考えなさいよ」

「ちっ」

 美女に窘められる狼男。ちょっとツボだ。

 悔しそうな黒狼は放っておいて、取引成立だ。

「こちらからも一つ条件がある。ここの隠しの情報は掲示板とかに流さないで欲しいんだが……」

「あ、オッケーです。掲示板は見る専門なんで、黙ってます」

 などと話しつつ、リーダーの青騎士とリングを合わせてゲスト登録を済ませる。


 ゲストは、レベル差のあるプレイヤーを招待して、一緒に行動するだけで経験値の10%を分けてもらえるというシステムである。

 戦闘でも敵に狙われることなく、時々補助として参加可能という安全ポジションだ。

 レベル格差があっても同じパーティが組めるようにとのシステムである。今回のように必要なスキルを持っている人をゲストとして一時的に招いたりもすると、攻略が効率よく進められるというのが公式ページの紹介文だ。


「んじゃ、チャチャっと探知しますか」

 にやりと優越感たっぷりの笑顔を黒狼に向け、分かりやすく悔しがる黒狼をからかってから、探知スキルを装備してボスの間を一瞥する。

 リングから専用画面が飛び出して、目の前に固定される。それを通して部屋を見ると、隠されたモノが赤く光って見える。

 ボスが居た位置の背後……飾り壁の一部が光っていた。それをさらに詳しく調べると、操作手順が表示される。

 飾りは突起になっていて、スイッチになっているようだ。

 

 ――右に三回、左に一回、最後に押し込む……。

 

 ガコンっと大きな音がして、ボスが居た真下の床が動き始めた。

「隠し階段、か……」

「この先は適正レベル45~55です。高いですねぇ」

「それも鑑定なんですね? 意外に便利なものですね」

「その分、戦闘系のスキルはさっぱりだけどねー」

 鑑定もレベルを上げればこんな警告文まで出してくれる。

 

 ――しかし、一人なら絶対降りないぞ、こんなレベル高いダンジョン。一体どこまで進んだらこんな隠しの情報を得て来るんだか……。真面目に攻略するのもきっと楽しいんだろうなぁ。

 

 適正レベルを聞いても、4人はさすがに余裕の表情だ。たぶん適正レベルはクリアしているのだろう。

 盾役の黒狼を先頭に、慎重に階段を降りていく。

 ゲストなので最後尾を付いていきながら、『しまった! ゲストじゃなくて、黒狼をわっふわっふする条件にすればよかった!』と気付いたが、もう遅い。

 まあ、折角珍しい隠しダンジョンに安全について行けるのだから、楽しむとするか。

 

 

 通路の脇に張り巡らされた細い水路がほんのりと光っている。二人並べるくらいの幅の通路を、先頭の黒狼は足音を消して進んでいく。

 その後ろに魔法系のクリスとサラさんが二人並び、一番後ろが青騎士なのは、背後から敵が来るのを警戒してのことだろう。

 索敵スキルで周辺サーチをするが、敵はひっかからない。いないのか、レベルが足りずにまだ見えないのか。こういう箱系ダンジョンだと、一室にモンスターが固まっている可能性もあるか。

 

 ――自分が安全ポジションにいるとはいえ、ゲストに入れてもらったんだから、敵情報くらい見つけたら言うかー。

 

 索敵と地図の画面を同時に出しながら、何事もなく、一本道を歩き続けること数分。

 前方に黄色い光が見え始めた。

 黒狼が壁に身体を沿わせ、中を覗き込む。

「…………広間のようだ。敵の姿は見えない」

「索敵でも反応なし。で、部屋鑑定したら『古代獣の間』って名前出ました」

 そう言うと、クリスとサラが頷きあい、ぽつりと小声で呟いた。

「情報通り、です」

「行こう」

 どうやら古代獣――攻略サイトによれば、召喚獣の類――に関しては彼らの予定通りらしい。

 警戒しながら、広間へと歩を進めた。



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