5.装備の見た目は大事です
ギルドを結成したものの、相変わらず狼ハイドと二人で組んでいる。シロー・ラエラ・アリーシアは三人組み。ヨイチも変わらずのソロプレイ中。
主な理由は金稼ぎだ。
SDオンラインのモンスターを狩ると、得られる経験値とお金はパーティで分割される。当然、人数が少ない方が、実入りが良い。大人数のパーティはそれなりにレベルの高い敵を相手にしなくてはならないのだが、そこまでガツガツする気はないので、ゆっくり楽しもうということになった。
変わったのは、今まで別々だった夕飯も一緒に合流して食べに行くようになったことだろうか。
ゲームプレイ期間も長くなってきた。
プレイ人口はまだまだ右肩上がりで、最近ではハイドの他にも頭部が獣のタイプの獣人を見かけるようになった。
どうも、最前線で有名なチームの一人に、真っ黒い狼さんが居て、普及率が上がったとか何とか……。
区別の付きにくい50%以上獣化の獣人は、色や模様など、すでに登録した人とは被らないように配慮されている。よって黒狼さんはその最前線にいるはずなのだが、何故今、目の前にその人がいるのだろうか……。
「ふーん。最近俺を真似て半獣人のプレイヤーが増えてきたって聞いてたけど、本当だったんだなー」
そこはかとなく偉そうな物言いに、カチンとくるものがある。
自分が影響を与えたに違いないという自意識過剰っぷりが気に食わない。ハイドが狼頭にしたのはこの黒狼さんの影響ではなく、偶然だ。
「いえ、俺は……」
反論しようとしたハイドを制して、黒狼さんを睨みつける。
「アンタ誰? 何か用?」
黒狼さんはこっちを見下ろして、鼻で笑った。
「初期装備の新人か。お前にゃ用はない。ちょっと同族に声をかけただけだ」
「ぁぁ? 人を見た目で判断するのはよくないんじゃねーの?」
「ちょ、レンっ?」
険悪な雰囲気のまま、目線を合わせて睨みあっていると黒狼さんの背後から声がかかった。
「ルーっ」
「……悪い。礼儀を知らん奴がいてな」
こっそり小声で「礼儀を知らないのはどっちだよ」とぼやくと、黒狼さんの耳がぴくっと動いたが、それに反応する前に、声の主が釘を刺した。
「ルー、あんまり勝手な行動はするなよ。ただでさえ目立つんだから……」
「人のことは言えないだろうが。お前だって『青の聖騎士』ラインハルトだろ?」
そう呼ばれた騎士さんは、初めてダイブしたときに神殿で、神官さんのチュートリアルについて情報をくれた青の騎士だった。
「あー……。あの人が有名な『青の聖騎士』
だったのかぁ」
青の騎士さんは性格の良さそうな人なのに、黒狼は随分偉そうだ。単なるゲームだってのに、嫌な感じだ。そんな二人がなんで一緒に組んでいるのか、大いに謎だ。
去って行く背中を憮然とした顔で見送っていると、ハイドが肩をぽんぽんと叩いてきた。
「レン、どうしたんだ? すぐに喧嘩を買うような性格じゃないだろ?」
「だって、ムカついたしさー。そりゃ攻略メインに遊んでないけど、装備で判断されたのが非常に気分悪い。見た目はかっこいい黒狼の癖に、毛並みイマイチだしっ!」
愚痴愚痴と文句を言っていると、ハイドにまぁまぁと宥められた。
「見た目は初期装備なんだから、仕方ないと思うぞ?」
「ふんっ! これでも一応レベル高いんだぞ! …………たぶん」
最前線パーティだという黒狼に比べればかなり低いだろうが、そこそこのレベルにはなっている。
その要因の一つは、惰眠貪り……。
どうも、人様より睡眠時間が大幅に多いらしく、次の日が休みだと十二時間は余裕で寝ている。酷い時には起きたら夕方だった……とかもある。
寝ている時間が長いということは、このゲームでは多大なメリットが得られる。
プレイ時間=睡眠時間のSDオンラインでは、長時間プレイをしたくても、眠れなければダイブ出来ないのである。
睡眠導入剤や睡眠薬は、ゲームの普及率が上昇してから規制が厳しくなって、そう簡単に入手出来ない。
よって、どんな廃ゲーマーでも急激なレベルアップは見込めないのが現状だ。
睡眠時間が多い分、先にゲームを始めていたラエラやシローよりも、レベルは上になっている。
これは、もう一つの要因も関係している。
元々RPGゲームが好きで、いつも人の話をすっとばし、アイテム作成系もすっとばし、効率の良い方法を考えてプレイをしていたので、その名残が出ただけだ。
いつもと違ってのんびりしようと思いつつ、ハイドと合流して狩りに出ると、経験値計算やら敵の配置やらをメモしまくって、どいつをどう倒せば楽に経験値が手に入るのかを分析した結果、効率はすこぶるいい。
敵を一体一体各個撃破するよりも、複数同時に倒す方が、入手量が増えるとか、殲滅させずに仲間を呼ばす方法とか、スキルにモンスターを集める『笛吹き』があってザコモンスター狩りに重宝するとか……。
皆やっているのかと思いきや、意外にそういうちまちました小細工するプレイヤーは多くないようだ。
――小細工するにもスキルが必要だからだろうなぁ。
小細工用のスキルを、ハイドが起きてログアウトした後、一人でスキルレベルを上げたり、実験したりして伸ばしている。
「たぶんじゃなくて、十分高いんじゃないか? シローたちにも追いついているし……。レンのお陰で俺も始めたのは遅かったのに、そこそこのレベルになっている。この間同僚と話していて驚かれた」
「おぉ、会社でもSDのネタが出るのか? 凄い時代になったもんだ」
「凄いよ。SD内で商談するとか、たまに聞くくらいだから」
「折角現実離れてゲームしてるってのに、また仕事熱心な人たちがいるんだな」
「意外に商談が上手くいくことが多いらしい」
「それも何だかなぁ」
呆れつつも仮想空間内で商談ってのも乙なもんだと笑い合った。
攻略に力を入れてはいないが、装備品はそこそこ充実させている。
いくらゲームでも、自分でアバター操作しているから死ぬのが嫌だからだ。若干の痛みもあるらしいし、痛いのは極力避けたい。
武器・疾風のダガー
防具・革の帽子・布の服・鎖かたびら・革のブーツ・タリスマン・鱗の篭手・銀の指輪
見た目は初期の布の服だが、それなりに防御力を底上げしている。見た目を変えたくないので、何だか意地になっている部分もある。
レベルは現在三十五。スキルを装備できる数も三個増えて、全部で八個可能だ。
レベル35
HP1480・MP370
短剣31・軽装備30・ぶんどる12・索敵22・鑑定29・呼び寄せ8・閃光18・回避17
後は珍しいスキルとして、精霊の祝福を入手した。
泉周辺のモンスターを狩りまくった後、泉の水飲んで休憩していたら、精霊が出現するイベントが発生した。精霊に三つ四つ頼まれごと――泉周辺の魔物倒しやアイテムを渡したり――を終了した後に貰ったものだ。
効果はHPを徐々に回復。
回復量は微々たるものだが、スキルを装備している間はずっと続くので、モンスター狩りのとき非常にありがたい。
このスキルのお陰で回復役がいない二人組でも何とかクエストをこなせたりしている。そして薬草の使用率が下がったのも嬉しい。
調合系のスキルも持っていたのだが、ぶっちゃけ調合作業、すぐに飽きた。
色々、途中まで分析して紙にリスト化していったのだが、いかんせんアイテムの数が多過ぎて、面倒になった。
元々やらないということは、興味がないってことで、好きじゃない限りあれは面倒だわ、うん。
しかし、ぶんどる――盗んだ上に攻撃できる素敵スキル――に盗むからランクアップしたので、素材アイテムは敵から盗み放題だ。
溜まったアイテムを加工すればそれなりにお金になるので、今は調合関係をハイドがやっている。
本業に近いことをさせてスマンと、心の中で謝るが、本人は異様に楽しそうなので問題なしだ。フラスコや乳鉢を片手に器用に薬を作り出す狼男……シュールだ。




