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3.夢のツリーハウス



 狼さん――ハイドは頭一つ分身長が高く話すときは常に見上げている。名前は某ミュージシャンではなく、ジ○ルとハイドから取ったらしい。

 ハイドは、いつもの自分と違う自分になりたいという願いからつけたものの、SDのようなリアルなアバター操作だとそうそう変わらないなぁとため息をついていた。

 ゲーム理由は色々だと思いつつ、索敵で敵を捜しながら歩き回る。

「索敵があるとモンスター狩りの効率がいいな」

「こっちもハイドがいてくれるから、盗みが出来てすげーありがたいよ! やっぱ一人より二人だなっ」

 ハイドには、ゲームに誘われた経緯やレベルがある程度上がればパーティを組む予定だと話してある。それを踏まえて、それまで間は二人で組むことで合意した。

 スライムの出る草原も飽きてきたので、次の街がある西方面に行くか、やや強い敵のいる東の荒地に行くか、話し合う。

「ハイドの攻撃力があれば、囲まれない限り荒地でもいけそうな気がするんだけど……」

「まずは試して、ダメなら逃げればいいか。それでもスキルは手に入る」

 そして初心者二人は無謀コースに舵を切ったのである。結果はもちろん、失敗である。

 一匹目は二人がかりで攻撃をしかけ、何とか倒せたが、やっぱり無理だと引き上げようとした時に、やばそうなトカゲ戦士が三匹も近付いてきた。鑑定しても名前以外表示されないということは、レベル差がある証拠だ。

「やばい、逃げるぞ!」と叫んで背を向けた。

それを三回繰り返して、街に逃げ帰ってきた。

 何とか惨敗は免れたが、走って疲れて、二人で顔を見合わせて馬鹿笑いした。

「やっぱ、無謀だったなぁ! 何あのトカゲ戦士! シミターとかめっちゃ高そうな武器持ってた!」

「ははっ。必死に逃げたお陰で、俺もとんずらとダッシュのスキル覚えてる」

「地道に無理せず出直そうぜ。っと、その前に、屋台で一息つこう」

 商店が並ぶ通りは、色々な屋台が出ている。野菜ジュースのような飲み物を買って、中央広場の公園でベンチに座った。

「野菜ジュースかと思ったら……HP回復効果がある回復ジュースだってさ」

「レベル上がった分、HP減ってたから丁度いいな」

 天気もいいし、吹く風も気持ちいいし、何よりあんなに走ったのは久しぶりだった。

 現実だったらあんな追いかけてくるトカゲ戦士から逃げられなかっただろう。最近運動なんて全くしていない。

「全力疾走なんて久しぶりだったなぁ」

「普段運動しないのか? ジムに通ったりとか?」

「インドア人間で、運動嫌いだからなぁ」

「戦闘の動きがいいから、得意かと思った」

「まぁそれは、ハイドと一緒でいつもと違う自分って奴になりたい気持ちがあるからねー。頑張ってます!」

「なるほど」

 座って通りを眺めていると、チラチラとハイドは見られている。他に狼の頭部を持つ獣人がいないためだろう。

 これはこれで、それなりに可愛いもふもふだと思う。

「なぁ、ハイド。ちょっとその耳とか、触らしてくんない?」

「…………何かアイテムくれたら考える」

「ええーっ」

 ちょっと抗議の声を上げると、ハイドはあたりまえだろうと切り返してきた。

「考えてもみろ。いい年して頭撫でられたいと思うか? 嫌に決まってるだろう。見返りでもなければ、ダメだ」

 ごもっともな発言にそれもそうだと頷いて、アイテム画面を広げる。拾ったり盗んだりしているので、初期アイテムばかりだが、それなりにアイテムは増えている。

 こっちが交渉する気だと分かると、ハイドは苦笑い――狼の顔なのでなんとなくだが――した。

「仕方ない。回復系のアイテムで手を打ってやる」

「やったっ! 最初に神官からもらった回復薬があるから、それ渡すよ」

 アイテムを渡して、しばしもふもふを撫でさせてもらった。昔犬を飼っていたので、頭撫でたり耳撫でたり、さすがに喉を撫でるのは手で払われてしまったが……。

 触り心地のいい毛並みで、これからもアイテムと交換でお願いしますと頼み込み、たまになら……と了承を得たときにはガッツポーズをしてしまった。

 ハイドは呆れつつも、自分も犬好きだから気持ちは分かると言ってくれて、改めてこの人いい人だなぁという思いを深めた。

 

 

 夕方になると、いつもフレンド登録した幼馴染連中からチャットが入って、夕飯を一緒に食べることになった。

 ハイドも誘ってみたのだが、かなりの人見知りのようで丁重に断られた。無理強いすることでもないので、気が向いたら言ってくれといっておいた。

 夕飯は大抵酒も飲める酒場の一角を陣取って、プレイの報告やら発見やら、リアルの話やら、いつもの他愛もないお喋りだ。

「そういえば、このゲーム内だったらアレが実現する可能性があるよな……」

 侍風味戦士のシローがぽつりと零した言葉に、金髪エルフのラエラが食いつく。

「んん? アレって何よ、シロー」

「ほら、昔さ。子供の時に、ツリーハウスをよっしーのじいちゃんが作ってくれただろ? その時に、大きくなったら、皆で住む家を作ろうって話をしてたの、覚えてないか?」

 猫耳のアリーシアと顔を合わせながら、記憶を辿る。

 ツリーハウスは覚えている。アリーシアが木に登れなくて、シローとよっしーと三人で何とか皆で登ったのはいいが、降りるときにまた一騒動あった。

 ――ラエラとはっちゃんが梯子を持ってきてくれたんだよなぁ。あの時は六人でよく遊んだっけ。

 思い出が膨らみ本題から離れつつあった思考を、アリーシアが戻してくれた。

「ああっ、思い出した! そういえば言ってたね。皆で同じ家に住めたら毎日遊べるって! そうか……SDだったら確かに土地買って家建てることも出来るねっ」

「家建てるって、何か途方もなく金かかりそう……」

「そりゃ、かかるけど。このゲームは長く遊ぶつもりだし、最終目標を家購入にしてもいいんじゃないかな? 六人で買えば一人頭の金額も減る」

 シローの言葉に、一瞬思考が停止した。

「……六人? ひょっとして、よっしーとはっちゃんもこのゲームやってるのか?」

 今いない幼馴染はてっきりゲームをしていないと思い込んでいたので驚きだ。

「やってるよ。よっしーは発売直後に買った猛者だし。はっちゃんは……強制?」

「そうそう。レンと同じで興味無さそうだったんだけど、無理矢理プレゼント攻撃第二段で、はっちゃんにも贈ったから! 今日からダイブするように手紙も添えたよ」

 ――アリーシアは無邪気に言うが、ちょっぴり脅し入ってませんか? ソレ?

「来てるなら、何で二人は一緒に飯食わないんだ? 久しぶりに話したかったなー」

「ああ……。よっしーは一人無双するために修行中だって言ってて、かなり遠い場所にいるし、会いたいなら会いに来い! ってさ。はっちゃんは色々慣れるまでは一人で頑張ってみたいって」

 しばらく会っていない、この場にいない幼馴染二人の昔話に花を咲かせた後、シローが場を仕切った。

「よしっ! じゃあ、俺達の最終目標は家購入で共同生活! ラスボス倒しは他人に任せよう!」

「「「賛成っ!」」」

 家の件について参加するかどうか、よっしーとはっちゃんにはシローが連絡を入れてくれるらしい。相変わらずマメな奴だ。ありがたい。散々飲み散らかした後、皆に案内されて宿屋で一緒に泊まった。

 

 

 そんなこんなで、ハイドとはそれからゲーム時間にして数日――実際にはまだ就寝しての初日になるが――朝合流して一緒に一日回り、夕食前に解散という流れで一緒に過ごした。

 段々と二人の連携とかも出来る様になり、モンスター狩りも楽しい。

 ゲーム内四日目の途中、フィールドをてくてく歩いていると、ハイドのリングからけたたましい音が鳴り響いた。

「うわっ! 何だ? 警報か?」

「違う違う。もうすぐ起床時間だ。ログアウト十分前になったんだろう」

 例のチュートリアル神官さんの言っていた目覚まし時計だ。四日目の途中ということは、ハイドの睡眠は七時間程か。

 これから大量にダイブしている人が起きてログアウトしていくのだろう。

「先に起きるのか。じゃあ、街に戻ろう。また明日、ダイブしてきたらメールくれ」

「もうすぐレベル10を超えそうだけど、いいのか?」

「大丈夫大丈夫。ちゃんと言っておくからさ。ハイドと一緒に狩するの、楽しいし」

「……ありがとう、レン。またな」

「おお、またなー」

 街に戻り、中央広場のセーブポイントから、ハイドはログアウトして行った。

「さて、惰眠を貪る予定だから、後四時間……二日はうろつけるな」

 再び一人になったので無茶は出来ない。ステータスの整理をしようとテイクアウトのパンを購入して、公園の木陰に座り込んだ。

「レベルもちょっとは上がったし、そろそろギルドのクエストとか、受けてもいいかなぁ」


 レベル9

 HP560・MP170

 短剣9・軽装備6・盗む4・索敵8・鑑定7

 

 NEW! 回避・防御・必殺クリティカルのスキルを覚えました。


 戦っている間に覚えたらしい。スキルが増えると単純に嬉しいものだ。ただ、装備しなければレベルが上がらないのが痛い。

「レベル10になればスキル装備が一つ増えるから、増やしてからちょっと入替えて、草原でスキル上げをしてみるか」

 お知らせにも『NEW!』の文字が点滅しており、開いてみる。

 

 NEW!

 スキルポイントが溜まっています。新たなスキルを入手して、上手に戦いましょう!

 

 スキル一覧を開くと、取得できるスキルが白く表示されている。灰色のものはポイントが足りないスキルだ。ポイントはまだ一度も使っていないので、そこそこ溜まっている。何か役立ちそうなスキルがないかと捜す。

「一人で戦うし、複数攻撃的なスキルがあれば便利だよな。うーん……武器が短剣だから、無理があるのか?」

 ゲームの製作陣の戦略にまんまと嵌っている。スキル選びが超楽しい。

 いつものRPGなら単にレベルを上げて力押しで敵をねじ伏せることも多いが、ここは違う。ハイドと一緒に組んで分かったことは、SDで物を言うのは現段階では戦略だ。

 スキルの装備数は初期で五つ、最高十個である。

 スキルは三段階に分かれ、初級・中級・上級がある。

 ポイントで取得出来る初級スキル以外にも、条件により取得できるスキルも多数存在する。特定のモンスターを倒せば手に入るもの。

 複合条件――イベントクリアやボスクリアなど――を満たせば発生するものがある。

 初級をマスターすれば中級にランクアップし、且つ新たなスキルを獲得出来る。

 上級も同様でランクアップでしか獲得出来ない。

 上級スキルまでの道程は長い。

 開発チームのコメントによれば、このゲームは複数のチームプレイが基本ではあるが、一人でも楽しめる仕様になっている。地道にコツコツスキルを増加していけば、一人ボス攻略も一人無双も可能であるという。

「どんだけ寝たらそこまで行き着くのかねぇ……」

 一人無双もやってみたいが、それはまだまだ先の話だ。現時点で有用そうなスキルは――。

「連打とか……あ、一閃――横並びなら同時攻撃――にしよう。便利そう」


 スキル……短剣9・軽装備6・回避1・索敵8・一閃1

 

 スキルを入れ替えし、ついでに武器屋に寄り道して、ナイフをダガーに買い換えて、買い忘れていた革の帽子も購入して、準備はばっちり。

「うっし、やるか! スキル上げ!」

 気合を入れてフィールドに向かった。相手は……スライムのいる草原だ。

 草原にいるモンスターは、スライムと角ラビット、後はヘビとかが低レベル。虎とかライオンとか、恐竜っぽいのがところどころに分布している。

 縄張りに入らなければ、高レベルのモンスターは襲ってこない。後はヘビの毒に注意すればいいくらいだ。

 新しいスキルの一閃が便利で、索敵で敵を捜して、回避でかわして一閃でほふる――という良いパターンで嵌った。

 武器も買い換えて攻撃力が増えたお陰で、草原の低レベルモンスターは一人でも問題ない。

 結局楽しんで一日スキル上げで終了してしまった。

 

 

 次の日の朝。リングのステータス画面で確認すると、フレンド登録したメンバーが全員ログアウトしていた。やはり寝汚く昼まで惰眠貪るのは少数か……。

 さすがに毎日スキル上げもつまらないので、予定変更して、調合のスキルを取得して、アイテム調合で遊んでみることにした。

 調合やら錬金やら合成やら鍛治やら、ゲームには色々あるけど、普通のRPGでほぼすっ飛ばしてしまうのが常だった。

 話の展開さえ面白ければ良し! というゲーマーだったので、そういった生産系のコンプリートに興味がなかったのである。

 ――アイテム拾いまくってたら、大量になったからなぁ。これでいいもの出来たらラッキーだよな。

 調合は神殿内に調合道具の揃った施設が併設されていて、無料で貸し出されていると説明書きがあった。

 生産が好きなプレイヤーはお金を貯めて自分の工房を持ったりするらしい。

 ――作るのも極めれば楽しいだろうけど、何かめんどくさそうで敬遠してしまうんだよな……。

 現実時間は昼前なので神殿は人も少なく、すぐに部屋を借りることが出来た。

「さて、何をどうすればいいのやら?」

 わからないながらも、すり鉢に薬草を入れて、とりあえず潰してみた。

 薬草は潰すとヨモギの様な匂いがして、強烈にヨモギ餅かヨモギ団子が食べたくなってきた。起きたら買いに行こう。

 思考を脱線させながら、チュートリアルの調合の基本を見つつ、色々適当にアイテム調合で遊びまくった。

 新しいアイテムが出来上がれば、かなりテンションが上がって調合は楽しかった。

 結局食わず嫌いならぬ、やらず嫌いだったことが判明した。

 



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