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11.ゲームは余裕があってこそ


 ゲームをして遊ぶには、時間と生活と精神的に余裕が必要である。

 スリープダイブオンラインでは、寝ている間にできるため、遊ぶ時間は十分得られる。ただ……生活に余裕が無くなると、正直ゲーム好きであろうと、ゲームしている精神的余力が残っていないものだ。

 決算や棚卸しや新人対応やあれやこれやで、会社に居る時間が異様に増える時期になり、精神的余裕はゼロだ。

 幼馴染たちにしばらくゲームに入らないことをメールすると、同じように忙しくなった奴がいた。ラエラとシローと合わせて三人はしばらくドロップアウト。残ったアリーシアとハイドが一緒に行動しているらしい。ヨイチは相変わらず一人先を走っている。

 折角グリフォンの卵を孵して、グリフが生まれて、頑張ってエサやって成長させていこうと思っていたのに、ハイドにまかせっきりだ。

 ハイドから、ケータイの方にたまにメールが来て、ゲームスクショの写真つきで状況を知らせてくれる。

 そんなこんなでゲームから離れて過ごし、やっと忙しい日々から解放された頃に、長年買い続けていたRPGのシリーズ最新作が発売された。

 SDオンラインとは違う、普通のTVでやる普通の置き型ゲームだが、これはこれで大好きなので、当然購入。

 で、当然それで遊び始めた。

 このゲームが終わったらまたダイブしよう。

 

 

 そんな感じで、ノーマルゲームを堪能し、そろそろSDにダイブしようかなぁと、ずっと切っていた機械の電源を入れると、機械についている画面にお知らせという文字が点滅していた。

 確認してみると『アップデートの必要があります。ネットに接続し、アップデートを行ってください』と表示が出た。

 しばらくネットもつなげていなかったので、情報が止まっている。

 

 ――そういえば会社の社食でSDが変わったとかいう話が耳に入ったが、やりたくなるので聞かないようにしていたんだよな……。

 

 久しぶりに自宅のPCを立ち上げて、SDオンラインのページに行くと、トップページに大きくお知らせが書かれていた。

『このたび、スリープダイブオンラインは大幅アップデートを行いました。新しいデータを付属機械にダウンロードして下さい』

 画面の指示に従ってダウンロードを開始して、別のタブを開いてノーマルなニュース一覧と、SDの掲示板を覗いてみる。

 ノーマルニュースには端的にアップデートが開始され、プレイ人数がまた増えたという事が記されていた。

 掲示板の方は、入らなくなった日から、過去の書き込みを辿ってみると、まず、最初に設定されていた魔王を退治したパーティが出て、アップデートはそれをクリアすれば行う予定だったらしい。

 SDオンラインはその都度ラスボスを用意し、クリアすれば次のボスを含んだアップデートを行い、世界を広げている。当然、レベルの上限もそれに合わせて修正される。

「戻ったらそれなりにレベル上げたつもりだったのに、まだまだ低レベルってことになってそうだなぁ……」

 普通のRPGならレベル40は中盤もしくは終盤で、無理すればクリア出来る場合もある強さだが、新たにアップデートされたSDでは、レベル上限が150になると書いてあった。

 ダウンロード画面に戻すと、まだ30%しかいっていいない。

 こういう取り込みって時間がかかるんだよな……。

 PCを放置し、風呂に入って出てきてもまだ70%で、PC弄ってネットサーフィンしていたら、寝落ちしていた。

 

 

 週末は出かけていて疲れ、会社の同僚の引越し作業を手伝って疲れ、結局SDに復帰したのは月曜日の夜だった。

 一番最初にダイブしたときと同じ、神殿の個室で目を覚ました。

 久しぶりに自分で作ったアバターの顔になり、色々と鏡の前で顔を作ったりして確認してしまう。

「うーん。やっぱりリアルな作りだ。ここ最近運動してなかったし、ちょっと狩りしてカンを取り戻すかな」

 すると、リングから音声案内が流れた。

 

『ここはライーデル王国、中央神殿、目覚めの部屋。冒険者様お久しぶりです。お帰りなさいませ。冒険者様が王国を去った後、王国にたちこめていた脅威はさりました。一階の大聖堂にて神官にお会い下さい。神官より新たな祝福がございます』


 ――例のラスボス制覇は脅威かぁ……次の脅威は何になるのか……次なる魔王ってやつかな?

 

 開発も大変だなぁと思いながら、神殿の一階にある聖堂へと向かった。

 神官さんの基本チュートリアルは省略され、魔王が倒され平和になったものの、次なる脅威「凶悪なドラゴン」が各地に被害を与えているという話をかなり長い時間語られた。

 魔王によって抑えられていた勢力が台頭してきた……という流れのようだ。

 次は空飛ぶドラゴンか。倒すにはこっちも飛ぶ必要が出てくるうえ、一定の位置にいないようだし、より倒しにくくしてあるのか。

 神官さんの話に真面目にうんうん頷きながら聞いていたら、またおまけを貰えた。

 

 ハイポーション×5

 MPポーション×3

 

 何故だか中身がグレードアップしていた。

 それだけ、敵が強くなったってことかな? 嬉しいような悲しいような……。


 外へ出ると、突風による横殴りの雨が地面を叩きつけていた。

 今までのSDオンラインは常に晴れという『天気って何?』って仕様だったのが、改善されたらしい。

 天候に関しては開発が間に合っていないとか、他にデータスペースを割り振ったからとか、雨に打たれたくないって意見が多いとかまぁ、理由は色々言われていた。

「久々にダイブして、いきなり雨か……なんか気が滅入るなぁ」

 さすがに西洋風ファンタジー世界に傘はなく、道行く人たちは皆雨に打たれて歩いている。

 仕方なく、アイテムボックスの中からフードつきのマントを取り出し、装備する。これでびしょ濡れにはならないだろう。

 視界が悪い、ブーツに水を弾くスキル補正とかかけたら染みてくるのを防げるかってくらい雨が酷い。

 こんなにリアルに降らせなくてもいいのに。

 ブツブツ文句を言いつつ、とりあえず鍛治の町まで行きつつ、戦闘でカンを取り戻して、町に着いたら皆に連絡してみよう。

 門をくぐった先の草原の向こうに、雷鳴が落ちるのが眼に映った。

 

 

 一人での戦闘スタイルは、気配を消しての背後からの先制である。レベル差があれば一撃で終わる。

 卑怯というなかれ。正面からバカ正直に向かっていったら効率悪いし、防御低いから下手したら大打撃をくらう可能性もある。

 雑魚敵を蹴散らし、この辺りの敵に変わりはないと判断する。ドロップアイテムも以前と同じものだった。

 となれば、拡張した分のマップが未知なもので、これまで行ったことのある場所に関しては変更なし、ということだ。

 そのまま鍛治の町まで戦いながら歩いていると、見たことのない敵が出てきた。見た目はまんま蛙。巨大な蛙は結構不気味で、近くにいた女性のソロプレイヤーが巨大蛙を見て悲鳴を上げて逃げて行った。

 雨で蛙ということは、天気によって限定で出現するモンスターがアップデートで作られたとみて間違いないだろう。

 何か面白いものを落としていたらいいな……と歩きながらアイテム一覧を表示させる。

NEW! にカエルのモモ肉ってのがあった。完全に料理アイテムだな……。

 それにしてもアイテムの数が多い。整頓してもごちゃごちゃと数があるアイテムたち。

 

 ――そう言えば、時間かかるからって、全然売り払ったりしてなかったな。

 

 アイテム整理はまず、冒険者ギルドのクエスト掲示板に行き、そこで採取や収集クエストをチェックする。

 自分の持ち物の中に必要な素材が揃っていれば、掲示板に張られたクエストメモが赤く光るので一発で分かる。

 メモに腕のリングを近づけると、管理画面がリングから現れる。

『ドキドキキノコ×4 納品いたしますか? OK? NO!』

 画面のOKにタッチすると、リングから小さな4つの光がメモに向かって発射された。メモの前に『クリアー!』と文字が浮かんで、メモ自体が掲示板から消える。

 これでクエスト終了。報酬分、所持金が増えている。

 採取収集はわざわざ依頼人の元へ行く必要もない、お手軽クエストである。

 同じ要領で光っているクエストを全部クリアし、ある程度アイテムは減ったが、まだまだある。

 無作為にアイテムを盗むと後々困るなぁ。もっと計画的に盗まないと……。

 常にぶんどるで攻撃している上、レベルが上がって盗む確率も上がっているので、何に使うのかよく分からないアイテムも大量だ。

 下手に売り払って後で必要になる……何て可能性もゼロではない。


 ――うーん……とりあえず、装備しない装備品は店で売り払って、食材は料理スキルで料理にして売ってしまおう。その方が高値で売れるし。


 大通りの脇に置かれたベンチに座って料理スキルを発動させ、作れるだけ料理を作っていく。

 現実でもこんな機能があれば、料理作りたくない気分の時に便利なのにな……まぁ、そこがゲームなんだけど。

 画面操作連打で料理を作りあげ、近くの雑貨店に入って売り捌くと、それなりの金額が手に入った。

 料理のスキルも地味にレベルがあがったし、もっと上げれば料理屋サブちゃんのように、料理を食べたらステータス上昇の効果がかかるようになるだろう。

「さて……連絡、連絡っと」

 フレンド登録を行っている面々は、ダイブしていれば表示される。皆ダイブしているようだ。

 メールを打ち、雨避けで纏っていたマントを脱いで、そのままアイテムボックスに放り込んだ。

「おっ、ハイドだ。返事早いなぁ…………何々……」


『すぐ合流しよう。グリフがそろそろやばい』


 ハイドさん、やばいって何ですか?



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