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1.寝ながら遊べるVR

 スリープダイブオンラインは、複数の友人の強い勧めで始めさせられた。

 全員がすでにプレイしている状態だ。

 必要な機械は誕生日プレゼントされるという、やらなければならない状況に持っていかれた。

 RPGのゲームは大好きだが、ゲームは一人で好きな時間に好きなように楽しむものと考えていた。MMOにもVRMMOにも全く手出ししていなかった。

 寝ている間にゲーム世界を旅するという画期的なシステムにより、SDオンラインの利用者は今や携帯電話並みの普及率である。

 ゲームにダイブ出来るのは十六歳以上でなければならいという利用制限があり、小中学生の子供などは指を咥えているらしい。

 

 特殊な装置をベッドの四隅に固定して、後は眠るだけである。

「その前に、キャラメイキングをしろって言ってたっけ……」

 ハマり込んだ友人の言葉を思い出し、装置とパソコンを繋いで設定ページを開いてパスワードを打ち込んだ。ログインしてからこの作業をすることもできるが、入ってすぐ遊べるように作っておけという指示も出ていた。

 SDオンラインでは性別、種族、髪や眼の色などを自由に設定出来る。装置についているスキャン機能を使って自分の身体に近いデータを取り込んでエディタを弄っていく。

「迷った時はやっぱり自作キャラだよなー」

 自分が書いた話の主人公の容姿設定を思い出しながら、パーツや色を変更していく。イメージ通りだと納得出来るまで細かく調整した。

 

 性別・男

 体型・細身

 年齢・二十歳くらい

 種族・人族

 肌の色・やや色白クリーム

 髪の色・つやなし灰色

 眼の色・青

 身長・百六十五センチ

 

 3DCGをくるくる回して確認してから決定した。

 次は初期スキルの選択だ。初級スキルのみだというのにこれまた膨大にある。その中から、シーフっぽいスキルを探す。

 スキル数はピラミッド型になっていて初級スキルの数が一番多く、上級スキルが一番少ない。てっぺんは特殊スキルだ。

「面倒臭い……あまりにも多すぎるだろう……」

 思わず投げてしまいたくなるが、その組み合わせが面白いんじゃないかと友人が力説していたのを思い出し、画面を眺めているとワード検索があり、それで絞り込めるようだ。

「うーん。書いたお話では幸運設定にしたから、幸運が上がるようなスキルは……初期ではないのかなぁ?」

 別の窓を開けて攻略サイトを見ると、幸運スキルはドロップアイテムらしい。

「拾ってラッキー……か。まさに幸運? うーんだとすると盗賊っぽいスキルを選択するか」

 まずは武器防具を選ばないと何にもならない。

 武器は短剣スキル。装備は軽装備スキル。

 二つを選択すると、下着姿だったキャラに服と武器が表示された。

 初期装備のナイフ。布の服は、ジャケットやパンツの形に何パターンかあり、色の変更もできる。

 他の人と被らないようにとの配慮らしい。親切設計だ。

 ジャケットを短めにして深めの青に、インナーを黒。パンツは色の抜けたデニムにして革のブーツを履かせた。あとは渋い色の革の帽子があれば完璧だが、初期装備に頭の装備は付属していないようだ。

「うわー、ほぼ完璧っ! ここまで自分のデザイン通りできると嬉しいなぁ。つか、布の服で満足しちゃうってどうよ……」

 スキルがセットできる残りは後三つ。スキルをマスターすれば装備数も増えていくが、初期設定では五つのみだ。

「やっぱシーフに必要なのは盗みだろ? 後は何かあったら便利そうな……」

 盗みと索敵サーチ……後は拾った物が判別できる鑑定にしよう。

 友人連中に初期には能力補正系のスキルがいいって言われていた気もするけど、シーフはやっぱり盗みがないとねぇ。後は完全に趣味だ。

 索敵で敵の位置が分かれば有利だし、鑑定があれば便利そうだ。

 キャラ設定を終了した後は、色々事前情報を仕入れてから風呂に入って寝るだけだ。

 

 

 寝ている間のみ、ダイブ――ログイン出来るネットオンラインRPGゲーム、スリープダイブオンライン。

 最初は多方面で副作用や眠りの間という他では聞かない手法のため、胡散臭く思われていた。

 ゲームに入っていてもきちんと眠りは取れ、起きた時の身体の倦怠感はない。

 脳がずっと活動をしている状態ではないのかとの疑問の声もあるが制作会社の説明によれば問題ないらしい。また、今のところ諸症状を訴える者もなく、不眠が直ったとの声もあり、広く受け入れられることとなった。

 レム睡眠とノンレム睡眠の波動をキャッチして繋ぐため、無呼吸症候群など不眠症外の人はログイン出来ない。そのことにより、睡眠関係医者への外来が爆発的に増加した。

 通常のネットゲームに夢中になり、睡眠を削っていた子供を心配する親世代からも絶大な支持を得ている。

 ゲームの時間が取れない社会人にも受け入れられ、早く帰って寝るために仕事の効率化にもなっていた。

 また、参加人口の増加による価格の低下から、ますますゲーム人口が増え、仕事から帰って雑事を済ますとすぐに眠る人が増えた。そのため使用電力量が大幅に削減されることとなった。

 国としては喜ばしい事態である。

 国民的人気ゲームとなったSDオンラインでは、ゲーム内の時間は現実とは異なっている。体感時間は加速され、二時間程で一日が経過する。八時間睡眠でゲーム内では四日過ごせる計算だ。このやり応えがゲームユーザーを増やしていた。

 

 通常の就寝時間は十二時だ。そう言うと「無理矢理早く寝ろ」と命令形なメールが返ってきた。

 今まで散々夜更かししていた人間に、早寝は無理だよ……と呟きつつ、風呂入って電気消したら、即効で眠ってしまった。

 目を瞑って五分で眠れるのは特技になるのだろうか。

 

 

 目を開けると、石造りの部屋のベッドの上に横たわっていた。取扱説明書にあった、中央神殿の中の目覚めの部屋ってところだろう。

 起きて、ベッド脇に置いてあった姿見に全身が映っていたので、思わず魅入ってしまう。

 

 ――おおっ! 作ったアバターが動いてるよ! つか、動かしてるのは自分だけども、何か変な感じだーっ!

 

 自分よりも若干身長を高く設定したので、視線がいつもより高いが気になるほどではない。

 CGチックに整えられた顔に触ったり、身体に触ったり服を引っ張ったり、ゲームアバターに感動していると、腕に巻いている腕輪型通信機械――リングからポーンとお知らせアラームが鳴った。半透明な画面が飛び出す。スマートフォンより一回り大きな画面に文字が表示される。

 

『ライーデル王国へようこそ。新たな冒険者様。ここは王都ライーデル中央神殿、目覚めの部屋。一階の大聖堂にて神官にお会い下さい。神官より祝福がございます』


 素直に従って部屋から出ると、そこはもう日本には無い石造りの城の中だった。どっちに進むのかと立ち止まると、リングから矢印が飛び出て方向を示してくれる。これなら迷子の心配はなさそうだ。方向感覚はいい方だから、迷子になることもないけど、友人の一人は生粋の方向音痴だから助かる機能だろう。

 足取り軽く階段を降り大聖堂に入ると、感嘆の声が口から零れた。

「おぉ~~~~っ」

 巨大なステンドグラスから差し込む光が神秘的に教会内を彩っている。

「すげぇなぁ……」

 感動してその景色に魅入っていると、後ろから冒険者が足音をたててやってきた。

「ここで感動ってことは、君、今日始めてダイブしたのか?」

 声をかけられて隣を見ると、髪の毛も眼の色も青い男が立っていた。顔はいうに及ばずちょっと硬質な感じの北欧美形だ。

 プレートメイルに兜、腰に下げた幅広の剣の鞘も銀色で統一されて煌びやかな装備品を身に纏った男だ。目指すは聖騎士ってところだろうか。

「そうそう、VR初体験中なんだ。今までネットゲームに手を出してなかったんだけど、スリープダイブは友達に強引に誘われてさ。すごいよなぁ、ゲームの進化って……」

 昔のファ○コン時代を思い出し感慨深く呟くと、青の騎士も笑いながら頷いて同意した。

「進化か……確かに寝ている間にできるゲームが開発されるとは思いもしなかったからなぁ。俺もSDじゃなければ、やれる時間が取れないわ」

「友達も同じこと言ってたよ。社会人に長時間プレイは難しいもんなぁ」

「初心者ってことは、これから神官とのチュートリアルか」

「なるほど! 神官の祝福ってチュートリアルなのか!」

「操作方法とか、世界設定とか、ゲームの最終目標とか、一通り聞いたらステータス画面でも確認できるようになるけど、スキップしないで真面目に聞くとボーナスもらえるから、頑張れ」

 青の騎士は爽やかな笑顔で去っていった。カッコイイな、おい。背中に向けて叫んでお礼を言ったら、片手を上げてきた。ますます態度がスマートだ。

「いい人だ。いい情報くれたし……今度会ったら名前聞こうっと」

 その後神官のチュートリアルを飛ばさず真面目に聞き終わると、回復薬と解毒薬をそれぞれ三つずつもらえた。これがボーナスらしい。

 大抵のゲームの始めは回復アイテムって重要でそれなりに数も必要になるし、ありがたいことだ。

 神官に教えられたとおり、リングに触れてステータスを出してもらった薬を道具画面に放り込んだ。

 

 回復薬×3

 解毒薬×3

 

 取り出しも確認していると、リングがまたポーンと音を奏でた。

 画面トップに戻すと、メールマークが表示されている。SDオンラインに誘ってきた友人からだった。

『もうダイブ出来た? 合流しよーぜ。待ち合わせ場所は目覚めの神殿前の広場の時計台前で。後、作ったアバターの特徴教えてくれー』

『おぉ! 今神殿から出るところ。アバターの特徴は……』

 返事を打っていると、またメールが来た。

『さっきの無し! 当ててみせるから、アバターの特徴は言わないで! 待ち合わせ場所は変わらずで! すぐに行くから』

 了解と簡潔に返信して、神殿前広場の時計台前で待ちながら、歩き回るプレイヤーを眺める。

 戦士に魔法使いに僧侶に、コスプレの嵐であるが、皆CG顔なので違和感はゼロ。ネットで見た海外の人の高度なコスプレみたいだ。

 人間以外の種族も多い。エルフにドワーフ、後は獣人色々。猫に犬に狼に兎に熊に虎に……あとはなんだったか、とりあえず多い。

 このゲームに誘ってきた、いつもつるんでいる三人の友人中二人も人間以外の種族を選んだと言っていた。

 友人三人の会話を片耳で聞いていた情報に寄れば、一人は『美形美人エルフ』一人は『猫耳もふもふ癒し系』もう一人は『寡黙で渋い侍』――思わず和服でも着ているのかと突っ込んだのは、数日前だ。

 寡黙侍は、服装がシンプル軽量な鎧で、黒髪でポニーテールなストレート髪の青年アバターにしたらしい。髪型だけで判断したのかと思いきや、切れ長の和風美形に設定したと作った本人に自慢された。

 なのでこちらはすぐに相手がわかるが、向こうは果たして気付くだろうかというのが問題だが……。

 ――余裕で気付くだろうな。付き合いの長い幼馴染の三人は、書き散らかしたものも大抵読んで感想までくれるし、自作キャラでも古参だし、絵も何度も描いてるしなぁ。

 これだけCG絵似せて気付かぬはずもなく、すぐに『美形エルフ』『猫耳娘』『渋い侍』に取り囲まれた。

「「「見つけたーっ!」」」

 美形エルフはものすごい起伏激しい完璧ボディの美女だった。背も高く、見下ろされている。少しきつい眦が女王様風味だ。ついつい胸の谷間に視線が向いてしまう。

「おおーーっ! 本当だ! 聞いてた通りエロエルフだっ!」

「言うと思ったわ!」

 突っ込まれつつ、次に目を移す。

 猫耳の娘はほんわかおっとりとした雰囲気を纏った美少女。身長は目線が同じくらいだ。柔らかそうな素材の薄ピンクのケープを着ていて、よくみれば胸もそれなりにある。

「こっちは……隠れ巨乳?」

「そう! 理想を体現してみた!」

 堂々と言い切る君が好きだよ、うん。

 それを聞きながら渋い侍が笑っている。

 侍風味は和風な顔立ちと髪型でいい雰囲気が出ている。装備は普通に西洋風だが、色が渋く鈍い銀色。身長も三人の中では一番高い。

 自作設定に沿って身長が低目なのを少し後悔した。これぐらい高い身長になってみたいという願望もあるのだ。

「背が高いのも良かったなぁ……」

「つか、やっぱそれでアバター作ったんだ。おかげで一発で分かったけど」

「まさかアバターでリアルにレンを見れるとは思わなかったわぁ。まぁ、あの話のレンの性格はあんたにそっくりだけどさー」

「服の色まで弄るとは……初心者の癖にやるなぁ」

「へへへーっ、ゲーマー歴は長いからね。ちょっとこだわってみました! 所で、三人は名前、何にした?」

 このSDオンラインでは、他のVRMMOでよく見られる、アバターの頭上に名前が表示されない。表示されるのはフレンド登録した人間だけと設定されている。

 相手の名前が知りたければ、フレンドになるか直接聞くしか方法がないのである。

「じゃあ、ついでにフレンド登録もしてしまおう」

 侍がリングを装備した手を差し出してくる。それを握り返してフレンド登録と言えば、登録されると神官さんの説明にあったので、実行する。

「フレンド登録」

 リングからポーンと軽快な音が響いて、侍の頭上に控えめな名前の表示が出現した。

 

 シロー

 

 ほぼ本名……こいつ、考えるの面倒になってまんまつけたというのが丸分かりである。こっちも人のことは言えないが……。

 後の二人ともフレンド登録していった。

 美人エルフはラエラ。ほんわか猫耳はアリーシアだった。

 一通り互いのアバターについてわいわい言いあった所で、シローが話題を切り替えた。

 この辺りの仕切りっぷりが、現実世界とまんま同じというのが当然なんだが笑える。

「そろそろ移動して、初狩りでも行くか?」

「そうだね。レンの獲物は短剣だから、前衛かな?」

 ラエラはエルフっぽく弓持ってるし、アリーシアは杖を持っている。

「シローが戦士、ラエラが魔法使い、アリーシアが僧侶?」

「「「そうそう」」」

 その後、最初のスキルを何にしたかという話になり、索敵があると分かると斥候を命じられた。

 とりあえず、敵見つけて来いってことですね、はい。



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