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 日曜日に着るためにすずなは女の子らしい服を何枚も買った。あの男はすずなを女子だと思っていないらしい。女の子らしくなる努力もしろと言われた。メイクもバッチリ決めておけば、きっと秀馬も少しは女子だと認めてくれるかもしれない。

 喫茶店に行くと言っていたが、秀馬が外に出たくないとわがままを言ってきたので、すずなはマンションに行く羽目になった。インターホンを押すと、はいはいという面倒くさそうな返事が聞こえた。

「あたし。来たよ」

「そうか。鍵開いてるから勝手に入れ」

 出迎える気もなしか……。さすが冷血男だと改めて感じた。

 以前秀馬が風邪をひいた時、ここに来たのを思い出した。必死だったので気付かなかったが、よく考えると同級生の男子の部屋に入るなんてとても貴重な体験だ。しかもすずなは父親の部屋にも入ったことがない。急にどきどきと胸が速くなる。二人とも十六歳の高校生なのだ。いつもとなりにいるので麻痺していた。

 秀馬は横になり本を読んでいた。すずなが目の前に来ても反応しない。

「秀馬くん、ちょっと」

 そう言うと目玉だけ動かした。

「何か用か」

「何か用かじゃないでしょ。あたしのことお客さんだと思ってないでしょ」

「まあな。嫌ってほどそばにいるし」

「あのねえ……」 

 ゆっくりと秀馬は起き上がった。すずなを頭のてっぺんから足の先まで眺めてから口を開いた。

「随分と派手な格好してきたな」

「あんたに女の子らしくしろって言われたから」

「そうだっけ?覚えてないな」

 いらいらしてきた。これじゃあ学校と同じではないか。秀馬の心を開かせたくてこうして誘ったのに意味がない。

「どっか座れよ」

 すずなが椅子に座ると、逆に秀馬は立ち上がった。台所に行きジョウロを取り出した。

「あたしがやるよ」

 しかし無視をされ奥の部屋の中に入ってしまった。そんなに花が大切なのか。花よりも人に気を遣ってほしいものだと考えた。

 ふとベッドの下に何かが見えた。そっと近くに寄ってみると、黒いビニール袋があった。中には雑誌が入っているようだ。だがビニールが黒くて表紙はわからない。

 すずなの頭の中に一筋の光が走った。もしやこれは「子供は見てはいけない本」ではないか。秀馬も男子なのだから少しは可愛い女の子に興味があってもおかしくない。すずなはこっそりビニール袋を覗こうとした。果たしてどんな表紙が……。

「勝手に人のもん見んな」

 真上から呆れた声が聞こえ、きゃあっと小さく悲鳴をあげた。

「びっくりさせないでよ」

 秀馬にビニール袋を奪い返されてしまった。

「どうせいやらしい雑誌だとか考えたんだろ」

「だってよく男の子はそういう本、ベッドの下に隠したりしてるんでしょ」

 恥ずかしくなり顔が赤くなっていく。

「ほーう……。俺が如何わしいもの見て喜んでるって?」

 すずなは秀馬の性格を思い出した。確かにそんな姿は想像できなかった。

「じゃあ何の本が入ってるの?」

 すると秀馬はビニール袋から雑誌を取り出した。表紙には『花、植物の育て方一〇〇』と書かれていた。

「女よりも花の方が好きなんでね」

 全く予想していなかった。意外過ぎて頭がおかしくなりそうだ。

「ええっ、嘘でしょっ」

「嘘でしょって、お前は俺がいやらしい雑誌読んでる男子になってほしいのか」

「いやいや、全然。花と植物の方がいいけど」

「だろ。ていうか男はみんなエロいことしか考えてないみたいに思うのやめろ。男に失礼だ」

 すずなは横を向いた。男子と付き合ったこともないのだから、そんな気持ちなどわからない。

「紛らわしいことしないでよ。あんな……黒いビニールに入れてあったら、何かまずいものって思っちゃうでしょ」

「いいだろ別に。表紙が汚れないようにビニールに入れてるだけだ」

 秀馬の不機嫌そうな表情を見て、くるりと後ろを振り返った。

「はいはい、ごめんなさいねっ」

 またバカにされたと感じ、悔しくなった。

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