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【伝説の武器】、僕にください!  作者: 葦 時一
はじめてのいせかい
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7.武器素材と簡易武器作成/【一角兎の角槍】<ユニホーンピアース>

 レティにつれられてやってきたのは、街の西に位置する工房区だ。

 大通りと多くの店舗が並ぶ商業区の隣に位置する工房区では、毎日製造された武器や防具、服や道具など様々な品を市民に届ける。

 通りの歩く人も商業区とは趣が異なる。鍛冶ハンマーを担いだドワーフさんや、刀鍛冶っぽい作務衣を着たダークエルフの男性。親方っぽいオークとそれを囲む弟子の人間たち。そういった光景が広がっていた。


 焼き菓子を頬張りながらトシキとレティは歩く。商業区の移動屋台で購入したフロランタンだ。動くサトウキビ(シュガーケイン)から採れる砂糖から作られるキャラメルをふんだんに使っている。薄切りのナッツもナッツ型植物モンスターを原料にしているらしい。味が濃いのでちょっと飲み物が欲しくなってくる。


「それで、何をしようっていうんだ?」

「はい。武器を造ってみようと思うのです」

「いや、お前、そんなに軽く造れるもんじゃないだろ?」

「何も【鉄の剣】や【鉄の槍】をいちから造ろうというわけではないのです」


 しゃべっているうちにトシキは目当ての店を発見した。

 武器屋ではない。武器屋のための素材を主に扱った店だ。モンスターを倒して素材を得る。その素材を使って武器を造る。もちろんそれもいい。だが、モンスターから素材を集めなくても、こういった店で買えばいいのだ。きっとあると踏んでいたが、やっぱりあった。


 トシキは店の中に入る。電気街のジャンク屋のような雰囲気がそこには漂っていた。雑然と積み重ねられた様々な物品にはそれぞれ値札が付いている。透き通るようにきれいな鱗や、なめされた革。炎をついたままの布など、不思議な素材がたくさんある。


 その中でトシキは尖った角に目をつけた。ニンジンくらいの太さと長さ。先端が危険なくらい尖っている。どうやら一角兎という兎型モンスターの角だという。値段は焼き菓子と同じくらいで手ごろだ。作成に必要な素材も合わせて、トシキは持てるだけ買い込んだ。

 疑問の顔をしているレティを連れて、再び街の外に出る。人のいない木立の中を選んで、さっそくトシキは作業を開始した。


 ちょっとした木の棒の先端に角をくっつけると、革紐で固定する。何度かやり直して、完全に固定されるのを確認した。出来上がったのはニンジンに柄を付けたような不格好な槍だ。


 ――――【一角兎の角槍】。


 完成と同時に武器名が浮かび上がってくる。うまくいったことに、トシキは内心で喝采をあげた。


 そう。武器を造ればいいのだ。

 自分で武器を造れば、【武器力解放】の武器を調達できる。


(でも、もうちょっと格好のいい武器がいいかもしれません……)


 【一角兎の角槍】を持つ自分は、かなり原住民らしくなっていた。ジャングルの奥地で生活しそうな勢いだ。


「よし……。いきます。【解放(リリース)!】」


 さっそく試し撃ちだ。造ったばかりの【一角兎の角槍】は光輝くと弾け飛んだ。<ユニホーンラビット>の文字がゆらりと消えた。再び光が集まると、一匹の角の生えた兎が召喚されていた。


「……一角兎(モノホーンラビット)だな」

「…………」


 一角兎はぴすぴすと鼻を動かすと、あたりをふんふんと嗅ぎまわる。その動きは愛らしいのだが、どうにも強そうに見えない。

 トシキは一角兎のわきに手を差し入れると、持ち上げた。特に暴れたり噛んだりする様子はない。おとなしくトシキの手の中に収まっている。


「モンスター……ですよね?」

「そうだな。暴れたりしねえな。野生のは靴を貫通して穴空けてくるくらい気性が荒いんだぜ」

「僕が召喚したウサギだからでしょうか」

「たぶんな」


言いながらレティが一角兎をトシキから取り上げると、ボールのように脇に抱え込んだ。


「まあ、肉は美味しいらしいぜ」


 食べるつもりだろうか。一角兎が慌てたようにバタバタと足を動かすが、レティのホールドからは逃げられそうにない。

 トシキは、ちょっと落ち込んだ。


「この調子だと、全部ウサギになってしまいますね……」

「じゃあ、もうちょっといい槍を造ってみろよ」

「なるほど」


 トシキは気を取り直して、再び【一角兎の角槍】を造る。今度は出来上がった槍の角部分を磨いて鋭くしたり、持ち手に布を巻いたりして、より武器として洗練された姿にしていく。

 かなりの時間を使って、ようやく武器として見られるようなものが出来上がった。名称はやはり【一角兎の角槍】だが、さっきよりは手ごたえをトシキは感じていた。


「【解放(リリース)】!」


 ――<ユニホーンピアース>。


 今度は先ほどとは違う光文字を残して、スキルが発動した。光がとがった形に変形し、木の幹をえぐり取る。太い木が揺れるほどの威力で、幹に大穴が空いた。

 一角兎の毛並を撫でていたレティが、音に驚いて顔をあげた。感心したような眼を向けてくる。


「いいんじゃねえか?」

「うん。そう思います。でも、このレベルの威力になるまで、ちょっと手間がかかりすぎますね。時間のある時はできるだけ造るようにしないとダメということです」


 【武器力解放】はとてもギャンブル性の高いスキルだ。武器によってスキルの効果が変わってしまう。その上、一度使った武器は消滅してしまい、再び使うことができない。

 狙った時に狙った効果を出したいのならば、同じような武器をいくつか用意しておく必要があるのだ。店で売っている武器をあてにしていると在庫がなくなった時にスキルを使えなくなってしまう。そうならないように自分で武器を造る必要があるだろう。


(それにしてもです……)


 トシキはちらりとレティを見た。一角兎を高い高いをするかのように空中に放り投げて遊んでいる。

 ダークエルフだし、目つきは悪いし、言葉遣いも乱暴だし、ごはんは奢らされるし、自分優先でクエストを取ってきてしまうけど、レティは優しい。

 そう、トシキは感じていた。今回もこうやってついてきてくれている。

 なんだかあったかい気持ちが、あふれ出してきた。


「レティさん、ありがとうございます」

「……なんだよ、いきなり。気持ちワリィ」


 顔をしかめてみせるレティ。その本心は感じられるというのは、気のせいだろうか。


「これからも、よろしくお願いしますね」

「ま、何も問題がなけりゃ、な」


 ニッと笑ってレティが言った。




「おい! そこの! 転生者トシキだな!?」


 いきなりな声がかかった。

 人がいないはずの木立の中に、どやどやと三人の男が入ってくる。三人ともが似ている服装をしているのは、何かの制服だからだろう。

 手には警棒、腰にはサーベルが下げられていた。


「……議会の犬が何の用だよ」


 レティの目が厳しいものになる。警戒心も隠さずに、噛み付くように低く言った。いつのまにか手には【夜冥猫(プリオナイラス)の拳】が装着されていた。いつでも戦闘体勢に入れる。


「貴様……ッ! セントラルの治安を守る我々に向かって!」

「よい! その者に用は無い」


 三人のうち比較的年齢の若い男がいきり立つのを、年配の男が止める。どうやらこの人が一番偉いらしい。

 その一番偉い人は、トシキをしっかりと見据えると、高らかに言い放った。


「転生者トシキに対し、セントラル議会より警告が出ておる!」 

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