23.クエストライセンスとメダリオン/【火継の鉄扇】<クリエイトアイテム・メダリオン>
依頼ギルドのカウンターで狐嬢が待っていた。試験結果であろう書類を眺めている。
トシキとレティがカウンターまでやってきたのに気付き、狐嬢は顔を上げる。
「お待ちしておりました。トシキ様、レティ様ともに試験合格でございます。依頼ライセンスの発行となります」
その言葉を聞いて、トシキは胸をなでおろした。
技能試験において全く正解できなかったトシキだ。もしかしたら合格は無いかもしれないと思っていたのだ。
「よかったぁ……」
「よかったですね、トシキ様」
狐嬢が書類を確認すると、トシキとレティのそれぞれを見る。
「トシキ様はCランク、レティ様はAランクからのライセンス支給となります。よろしくお願いします」
「ランク……ですか?」
「トシキ様、依頼ギルドはランク制になっているのです」
疑問符を浮かべたトシキに、サーシャが笑顔で解説する。
「実力に見合った依頼でなければ、依頼を受ける方も、依頼をお願いした方も不幸な結果となってしまいますよね。なので、依頼に難易度を設定し、階級によって受ける方を制限しているのです」
「僕Cで、レティさんがAですね」
「戦闘試験と技能試験の結果、家柄や話し方、振る舞い方などを考慮したのち、厳正な目で審査しております」
サーシャの説明に狐嬢が補足した。戦闘力試験は合格だったが、トシキは運よく【武器力解放】を使い放題の状況だったが故の勝利だ。レティとの地力の差を考えればこの結果は当然とトシキは受け止めた。
ともかく、これで依頼ライセンスを手に入れた。これから依頼をこなすことでお金を稼ぐことができるようになるはずなのだ。
「それでは、クエストライセンスを発行します」
いつの間にか準備していたのか、猫耳さんが薄く緑色に光る鉱石をトレイに載せて持ってきた。
掌に握り込めそうなほど小さな鉱石だ。数は二つ。
引き付けられるようにトシキの目が吸い付く。こんな鉱石は今までどんな本でも見たことがない。
「この特殊な鉱石でクエストライセンスを創ります。トシキ様とレティ様の魂の在りようを形にしますので、複製は不可能です。ご安心ください」
狐嬢の雰囲気が変わった。
いつの間にかその手には閉じられた扇が握られていた。狐嬢が懐に閉まっていた武器、【火継の鉄扇】だ。
ほう、とほのかな光が【火継の鉄扇】に灯る。見る間に二つ、四つ、八つと増えていき、鉱石を中心に円陣を作っていく。
「どうぞ」
狐嬢が鉱石を握るように促した。
トシキは恐る恐る手の内に握る。ぎゅっと握りしめると、手の中で見えなくなった。
レティも同じく手の内に鉱石を握り込んだ。
「――――<道具創生・メダリオン>」
優しく頬を撫でられるように、心の奥底に触れられた気がした。決してそれは不快なものではない。だが、深くまで見られることは少しの気恥ずかしさを伴った。
吸い込まれるようにして、円陣を作っていた光が手の中に吸い込まれた。おそらくは鉱石へと取り込まれていったのだろう。
トシキはそっと掌を拡げた。
そこにあったのは一枚の徽章だった。
そこに彫られているのは一対の翼を広げる生き物。
羽根は一枚一枚が鋭く尖っている。
嘴は細く、目は無い。つるりとした流線形のフォルムは、いかにも速そうに見えた。
緑色の鉱石を使ったはずなのに、なぜか鋼を連想させる鈍い銀色に変わっていた。
(これは、『鳥』でしょうか……?)
狐嬢がトシキの手からそっとメダリオンを取り上げる。穴が空いている部分に丈夫な細い紐を通し、ネックレスとして首から提げられるようにしてくれる。
これがライセンスになるということなのだろう。
「『剣翼持つ鉄の鳥』。羽ばたく時はどうぞ、周りをよく見てくださいね」
「あ、は、はい……!」
狐嬢の言うことはわからない。だが、巫女の宣託めいてトシキの心に届いた。
狐嬢は向きを変えると、レティからもメダリオンをそっと取る。
レティのメダリオンは何やら大きな樹のように見えた。太く立派な根や幹、枝葉の樹だ。だが、なぜかその樹にびっしりと茨が巻き付いている。どうも樹の内側から出てきた茨が絡みついている意匠なのだ。
「これは……。いえ、私が口を差し挟むことではありませんね」
「……」
レティは無言で狐嬢からメダリオンを受け取った。首からかけると、ブレストプレートの内側にすぐに隠してしまった。
(もう少し見たいと思ったのですが……)
「それでは、これからも依頼ギルドをよろしくおねがいします」
トシキ達はさっそくファルタイガー討伐の依頼など、すぐにできそうな依頼を受けることにする。
狐嬢と猫耳さんが揃って頭を下げるのに見送られ、トシキ達は依頼ギルドを後にした。
中央都市北のファルンドマ草原にトシキ達はやってきた。ファルタイガーの討伐のためだ。
「お前も度胸ついてきたんじゃねぇか? 討伐依頼を受けようって言うなんてな」
レティがファルタイガーを殴り飛ばしながら、嬉しそうに言う。
ファルタイガー討伐の依頼は、トシキが受けたいと言ったからだ。ほかに受けた依頼も、ほとんどが討伐系の依頼だ。
「レティ! 戦闘中は集中しなさい!」
「こいつら程度に遅れはとらねぇよ、っと!」
サーシャの射撃を身に受け、ファルタイガーが動きが止まる。その隙にレティが連続で拳を叩き込んだ。【夜冥猫の拳】が紫色の光の線を空中に引いていく。
その度に重い打撃音がして、ファルタイガーの身体が地面に沈む。
「【解放】!」
トシキも何もしていないわけではない。
力ある詞に従い、【スコップソード】が光と散る。
<ピットフォールトラップ>。
急に出現した落とし穴にファルタイガーがはまり込んだ。そこをサーシャの矢が上から狙い撃ちにしていく。
レティを包囲しようとするファルタイガーから、トシキは落とし穴に嵌めていた。
手頃な値段だった【スコップソード】を何本か購入してある。
トシキが簡単に【武器力解放】を使うには市販の武器を使うのが一番なのだが、【鉄の剣】や【鉄の槍】など武器屋に売っている武器だと値が張ってしまう。
【スコップソード】はその点、道具として売られている分、武器よりは安く済むのだ。
「ファルタイガーの牙でツルハシを作れば、僕一人で依頼をこなすこともできるはずです。すみませんが、レティさん、サーシャさん、お手伝いしてください!」
トシキは状況を見ながら二度、三度と【スコップソード】を【解放】していく。残弾数は減っていくが、どうやらこれで決着がつきそうだった。
◆
トシキが選択したのは、武器の素材を集めることだった。
それも、『召喚系』の武器力を持つ素材だ。
戦闘能力が低いトシキでも、召喚したモンスターがいれば戦うことができる。まずは<サモンタイガー>狙いでファルタイガーの牙を集めるのだ。
(それに、いつまでもお荷物なのは困りますから)
心の中でトシキは呟く。
前衛としてのレティ、後衛としてのサーシャ。トシキは現状できる役割りは、荷物持ちくらいなものなのだ。
(僕が自分自身を守る力を手に入れないといけませんね)
やはり【武器力解放】を使っていくことをトシキは考えていた。
モンスターの素材を武器にした時に、素材となったモンスターを『召喚』することが多いとトシキは睨んでいる。
いろいろ試すためにも、お荷物にならないためにも、ファルタイガーの牙を手に入れておきたいのだ。
「よっし、ラストぉ!」
レティの高らかな声が辺りに響く。
最後のファルタイガーが脳天に拳を喰らい、一撃で頭蓋骨を粉砕されるところだった。
ファルタイガーの討伐依頼をこなすと同時、トシキが手に入れたファルタイガーの牙は二十三。
そのうちの二十をトシキはほぼ徹夜でツルハシに改造したのだった。
【次回予告】
武器を持つと重くて動けない。遠距離武器を試すトシキ。
ファルタイガーの爪を使った武器の真価はいかに。
レティ「外れたな」
トシキ「外れましたね」
次話:24.遠距離武器と咆哮/【草原虎の爪矢】<ハウリングアロー>




