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【伝説の武器】、僕にください!  作者: 葦 時一
伝説の武器 つくります
23/25

22.技能試験とラフラス/【時空金石の懐中時計】<タイムリバース>

 依頼を受注する声が聞こえる。

 ざわざわとした空間の中、トシキとサーシャはベンチに座っていた。


「トシキ様、残りは技能試験のみですね」

「ええ。楽しみです!」


 サーシャの言葉に、トシキは笑顔で返した。

 戦闘試験をクリアしたトシキは、ほくほく顔で依頼(クエスト)ギルドへと戻ってきている。技能試験は依頼(クエスト)ギルドの中で行われるからだ。


 まだレティの試験は終わってないらしく、その姿は依頼(クエスト)ギルドの中には無い。

 ちょうどタイミングをはかったかのように、ギルド奥の扉からレティが出て来るところだった。


「レティさん、お帰りなさい。大丈夫ですか?」

「……ああ。とりあえず、やるだけはやった」


 げっそりとした顔をしたレティに詳しく結果を聞くのも野暮というものだろう。トシキはそれ以上聞くのをやめた。


「残るは戦闘試験ですね。レティさんならできますよ!」

「そうだな……!」

「殴ることしか能がありませんものね」

「サーシャぁ!?」

「まあこわい顔」


 レティのほっぺたをサーシャがつつく。レティがぴくぴくと引きつった顔で【夜冥猫の拳】に手をかけると、サーシャが素早くトシキの後ろに隠れた。

 さすがにトシキごと殴るわけにいかず、レティが拳を収めた。サーシャのことは無視することにしたらしい。


「あの試験官、一筋縄じゃいかねぇからな。気を付けろよ」


 元気づけるようにトシキの肩を二、三回バシバシと叩く。


「もういいかニャ? 試験会場まで案内するニャ」


 ずっと待っていたらしい猫耳さんが、どんよりした顔で手招きをしていた。

 レティが猫耳さんにつられれて依頼(クエスト)ギルドを出て行く。それを見送ったトシキは、残る技能試験のための扉を見つめた。

 扉の前には、技能試験の案内役なのか狐嬢が笑顔で立っている。


「準備はお済みでしょうか?」

「僕にできることは、ひとつしかありませんので」

「それでは、中の試験官と面談になります。頑張ってくださいね」

「……はい!」


 見送ってくれるサーシャさんに手を振ると、トシキは狐嬢に示された扉をノックした。この奥に試験官がいるはずだ。

 トシキは一息吸い込むと、扉を開けた。


 そこは円形の書斎だった。


 円形の壁に沿って設置された天井に届かんばかりの本棚。ぎっしりと詰め込まれた書籍は何冊あるのだろうか。床にも本が積み上げられ、山となっている。かろうじて窓はふさがっていない。そこから入り込む光が、室内を明るく照らしていた。


 中央には濃い茶色の円卓が存在していた。その円卓上にも大量の本が積み重なっていた。


「――――おや、時間かね?」


 思わず見とれていたトシキに、上の方から声がかかった。

 声の位置から探すと、本棚にかけられた梯子にウサギが座っていた。ベストとネクタイ、スラックスをきっちりと着込んだ人型のウサギだ。

 よく見ると、円卓の奥に本に埋もれた椅子があり、その背もたれにジャケットが掛かっているのが見えた。


「ワタシは技能試験官のラフラスだ。よろしくお願いするよ」

「芳目 トシキです。よろしくお願いします」


 トシキの返事に、技能試験官ラフラスがうんうんと頷いた。


「よい返事だ。きちんと名乗り合うことは、知能ある存在の証明だとは思わないかね?」

「ええと、さっきの戦闘試験官さんは教えていただけませんでしたけど」

「……あのトロールはマドンと言う。少々知能が足りないのだよ」


 ラフラスがウサギのヒゲを上下させながらもぐもぐと言う。人間の身体なのに、顔だけ完全にウサギ。そのギャップにトシキはいささか戸惑っていた。

 トシキの視線にラフラスは気付いたようだった。つぶらな瞳をトシキに向ける。


「どうしたのかね?」

「あ、いいえ。どうして階段に座ってるのかなと思ったんです」

「本が多いせいでね。ここしか座るところがないのだよ」


 思った以上にどうしようもない答えだった。

 トシキが困った顔をしている間に、ラフラスは階段から下りてくる。机の上と椅子の上の本をどけると、まるで限界に挑戦するかのように本の山に追加していく。バランスぎりぎりで加えられる本は、いまにも崩れそうになっていた。

 空いた椅子に、ラフラスが座った。すらりと伸びた長い足を組む。


「……あ」


 組んだ拍子に円卓にぶつかり、どさどさどさと本の山は崩れ落ちた。しばしの沈黙。なんだかいたたまれない。

 トシキが片付けようと手を伸ばすが、その動きをラフラスが手で制した。

 ベストの胸ポケットから金の懐中時計を取り出すと、ぱかりと開く。


「―――<タイムリバース>」


 光文字が消える。引き起こされたその現象はまさに魔法だった。

 崩れた本の山は、時間が逆転するかのごとく元に戻っていく。崩れる前と寸分変わらぬ状態で、本の山は再生された。

 ラフラスがぱたりと金の懐中時計を閉じる。


「それでは、技能試験を始めるとしよう」


 その言葉にトシキの意識は引き戻された。ラフラスのペースに、気持ちが乱されていたことに気付く。


(集中、集中です!)


 トシキは頭の中で、強く自分の得意分野を思い描く。

 ラフラスが一瞬笑った気がした。トシキの集中、その間隙を突くように、するりと質問をすべり込ませる。


「それで、君が望む試験内容は何かな?」

「【伝説の武器】の鑑定です!」


 トシキは勢いを込めて叫んだ。

 依頼(クエスト)ギルドはこの中央都市(セントラル)においてかなりの力を持っているとトシキは考えている。

 街の様々な依頼を受けて管理するシステムはセントラル議会と深く繋がっていなければできないことだ。資金源はセントラル議会から出ている可能性もある。試験のために闘技場と提携しているくらいなのだ。商業区や工房区など、それぞれの地区への繋がりも深いことだろう。


(だから、ここにはあるかもしれません。【伝説の武器】……!)


 トシキはぐっと拳を握りしめた。たとえ自らの持ち物にならなくとも、その姿を見ることができるなら満足できると考えていた。

 【伝説の武器】というものは、ものによっては認められた所有者以外が持つと呪われる物も存在する。


(そう、見るだけでもかまわないのです。でも、できれば実物を見せていただいて、その力を振るっているところを見れれば十分ですね! できれば触ったりできると最高です!)


「……ふむ」


 ラフラスは腕組みすると、ふさふさの白毛が生えている手で自分の顎を撫でた。しばらくの間考え込む。

 やがて本棚の中から一冊の古びた本を取り出した。


「それでは、試験を始めるとしようか。問題は全部で三つ。この世界に存在すると言われる【伝説の武器】の名前を答えていただくとしよう」


 ――――空気が一変した。

 試験が始まるのだ。


 ラフラスの姿勢は先ほどから変わらない。ただ、そこから放たれる(プレッシャー)のようなものをトシキは感じていた。

 同時に、トシキは自分の失策に気付いた。


「切れ味が落ちることは無いと言われ、刃こぼれしてもひとりでに修復する剣。刃の色は定まらず、七色に揺れるとされる【伝説の武器】は?」

「……わ、わかりません」

「ふむ……」


 ラフラスがページをめくる。


「自ら考え喋る魔剣にして、魔剣の蒐集を習性とする。形状は剣だが、切れ味が皆無なことから、棍棒ではないかとも言われている【伝説の武器】は?」

「わかり……ません……」

「ふむ……。君は、【伝説の武器】に造詣が深いのではないのかね?」


 トシキは奥歯を噛みしめた。味覚ではないところで、苦い味が広がっていく。


(目の前に実物があれば、名前を読み取ってみせるのですが……っ!)


 トシキの心中など気付かぬというように、ラフラスは知らん顔で試験を進める。


「それでは最後の一題を出すとしよう。セントラル議会の頂点が一つ、エルフの王〝シュドナイ”が持つ弓にして、一度放てば十四に分かれそれぞれ敵を射抜くとされている【伝説の武器】は?」

「…………」


 トシキは押し黙った。【武器情報の眼】では、情報から名称を見出すことはできない。

 手詰まりだ。

 ラフラスがついっと本から目線を上げると、トシキの眼を指し示す。そこにかかった片眼鏡(モノクル)を。


「君の【眼】、武器の真名を視るのだろう?」

「知っているのですか……!?」

「だからこそ、この試験だよ。何か実物が出て来ると思ったかね?」

「……!」


 図星だ。


「君の(それ)は〝鑑定”ではないよ。見た目や触感、素材や形状からその性質や歴史などを読み取る。物の真贋を見極め〝鑑定”と呼ばれるには、たゆまぬ知識の獲得も必要だね」


 ラフラスは本を閉じた。

 閉じる音がトシキには大きく感じられる。


「やる気があるなら、努力したまえ。試験はこれにて終了だ」


 トシキの背後で、無慈悲に扉が閉められた。

 一問も答えることができないまま、トシキの技能試験は終了したのだ。


 へこたれている暇はない。そんな時間はもったいない。

 ラフラスの持つあの本はおそらく【伝説の武器】に関する情報が載っているのだろう。


(あの本、装丁と題名は覚えましたよ……!)


 自分に必要なものを噛みしめつつ、どうすればトレーニングできるかをトシキは考えていた。

 やはり工房ガランテリアで、もっと専門的に訓練してもらうのがいいだろう。


 すでに依頼(クエスト)ギルドには、レティが戻ってきていた。サーシャの隣に、どっかと座り込んでいる。


「おう! そっちも終わったか?」

「あ……、はい」

「何だよ、浮かない顔だな、おい」

「確かにそうですね……。トシキ様、大丈夫でしたか?」

「うん……。ちょっと、うまくいきませんでした」


 そんなことを話す三人の傍に、猫耳さんがとてとてと寄ってきた。


「カウンターまで来てくれニャ。試験結果を発表するニャ」

【次回予告】

 とうとう手に入れたクエストライセンス。

 それは魂を形にしたもの。複製不可能な意匠を持つメダリオンだった。


狐嬢「この特殊な鉱石でクエストライセンスを創ります。トシキ様とレティ様の魂の在りようを形にしますので、複製は不可能です。ご安心ください」


次話:23.クエストライセンスとメダリオン/【火継の鉄扇】<クリエイトアイテム・メダリオン>

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