20.伝説の武器と作成要素/【青玲刃】<ラビッツフット>
トシキ達は再び乗合馬車の上にあった。
トシキを挟んで右側にレティ、左側にサーシャが座っている。
目つきが悪く迫力があるダークエルフと、美人で高貴な感じがする色白エルフという対比がトシキを目立たせていた。トシキ自身はまったく気にしていなかったが。
そのトシキはレティが持っていたバゲットサンドを食べている。とりあえず中央都市を出たはいいものの、そこで空腹に気付いたのだ。
レティはあきれ顔をした。
「お前、ここ数日何食ってたんだよ……」
「何を食べていたのでしょうね……? 倒れる直前になるとアコさんやユニコさんから差し入れをしてもらっていたような気がします」
そっと差し入れされていたトレイを思い出す。簡素なパンと塩スープだったがあれで命を長らえさせていた。
「武器転売屋で、そんな風になるまで何をしていたのですか?」
「それはですね、武器の名前から法則性を割り出そうとしていたのです」
「法則性…………?」
サーシャの美しい眉が顰められる。トシキの言っていることの意味がわからなかったのだ。
「まず、僕の目的を理解しておいてください」
トシキは表情を改めた。レティとサーシャがごくりと唾を飲む。
「僕は、伝説と言われる武器が欲しいのです。一撃で天や地を割り、所有者を勝利に導き、極限の力を与える。そんな武装を――――」
「魔法の力を持つ武器や防具、ということですか?」
「いえ、もっと上位のものを考えています」
ガタンと路上の石を噛んで馬車が跳ねた。少しの沈黙が生まれる。
トシキは顔を上げた。昼においてなお暗い夜闇の森が見えていた。
「とりあえず、依頼をこなすことにしましょう」
◆
夜闇の森に入る。どんよりとした暗さと湿気が出迎えてくれた。以前来たときと変わりない。
レティがさわやかな顔をしているのに対して、サーシャは渋い顔をしていた。腰に提げている【青玲刃】を抜き放つ。クリスタルのように輝く青い刀身が姿を見せた。
「闇の魔力が濃いですね……。少し準備をしておきましょう。――――<ラビッツフット>」
ふわりと青白い輝きがサーシャとトシキを包み込む。スキルを表す光文字が揺れて消えた。
トシキは自分の身体をあちこち触ってみるが、変わった様子はない。
「これは何です?」
「簡単な<不運避け>です。背後奇襲を防いだりするんですよ」
「どうして【青玲刃】を抜くのです?」
「この【青玲刃】は私の故郷の森林にある湖の魔力を集めて造られた一振りです」
言いながらサーシャが刃を鞘に納める。
「私達エルフは森林の中でないと魔術が使えないのですが、湖の魔力が封じられた【青玲刃】ならば、森林の代わりとなって魔法を使うことができるのです」
トシキの【武器情報の眼】が更新される。やはりただの武器ではなかったのだ。さすがネームド武器。
「あれ? ここも一応森の中ですよ。エルフの魔法は使えないのですか?」
「闇の魔力が強すぎて、魔法を行使しにくいですね。しかしダークエルフはこういった環境の方が力を発揮します。見てください」
サーシャはレティを指し示す。よくよく目を凝らして見ると、ぼんやりとレティから紫色のオーラが出ている気がする。
「な、なんだよ!?」
「本人は意識していないでしょうが、<不運避け>、<簡易行動加速>、<攻撃力増加>、そういった強化が掛かっています」
「へぇえ」
トシキの目にはぼんやりとした光しか見えないが、サーシャには見えているのだろう。
「おぉーい。もう行くぞぉ?」
待ちきれないといったふうにレティが声を出した。その手にはすでに【夜冥猫の拳】を装着している。猫の尾が意思持つようにふわりとゆれる。
あのナックルについてもそのうち話をしてもらわないといけない。
◆
狩りは順調に進んだ。何匹ものエントを倒し、使えそうな素材を回収していく。
まだ目的の〝夜樹の雫”は確保できていないが、このペースならすぐだろう。
攻撃するのは主にレティとサーシャで、武器が何もないトシキが回収役だ。
【燐角弓】を失ったサーシャは代わりの弓を持ってきていた。
かなり大き目の弓である【エルフの弓】だ。
一本の木材から削りだされた曲線は見事なもので、グリップからリムにかけては銀の装飾がなされていた。彫られた模様も精緻なものだ。
かなりのモンスターを倒した戦歴が見て取れる。かなり使い込まれた弓だ。
「以前使っていたお古を持ってきました。これだと矢が必要になるのですけどね」
サーシャはそう言うと背負った矢筒を示す。矢が必要になるということは、矢がなくなると弓が使えないということだ。使った矢は回収していた。それでも折れたり見失ったりした矢も出て来る。矢の残弾数は減っていくのだ。
レティが前衛として殴りにいく。トシキとサーシャが後衛としてそれを補助する。
大型で矢が効きにくいエントや影狼はレティが殴り飛ばす。
全身が真っ黒で闇に紛れるクロコウモリといった空を飛ぶ小型のモンスターや、毒を持つ大型蛙のポイズントードのような手で触れたくないモンスターはサーシャが遠距離攻撃で倒す。
順調ではあるが、なかなか目的の夜樹の雫は出ない。
「なかなか出ないもんだな」
「出ませんね」
「休憩しますか?」
「……だな」
レティが少し疲れたような声を出した。休憩することにして、手ごろな朽ちた木に座る。
トシキは作業をすることにした。先ほど手に入れたエント素材で武器を造ろうと試みているのだ。先の尖ったエントの枝に、革紐を巻き付けて持ち手を造る。これだけでは武器にならないらしい。
「貸してみな」
「レティさん……。どうぞ」
レティはナイフを取り出すと、受け取ったエント枝の先端を削っていく。要らない枝は削ぎ落し、より尖るように。
作業をしながら、目線を上げずレティは言う。
「それで、馬車で話してた〝法則”ってのは何なんだ?」
「あ、それですね。僕は前の世界で色んな伝説や神話を読んできました。それと、工房ガランテリアの武器をたくさん鑑定させてもらったことを組み合わせると見えてくるものがあるのです」
サーシャが矢の数を数えていた手を止め、トシキに視線を戻す。
「伝説の武器となるには、三つの要素が重要になってきます。『製作者』、『素材』、『逸話』の三つです」
トシキは指を三本立て、レティとサーシャに説明を始める。
「まずは『製作者』です。高名な鍛冶師などが造った武器や神様の創りだした武器などは伝説になりやすいと思います」
トシキは一本指を折り曲げる。
「次に『素材』です。希少な鉱石、幼獣や神獣といったモンスターの素材から武器を造ることができれば、おそらくそれも伝説級の能力を持つかと思います」
「コレみたいにか?」
レティが腰に提げた【夜冥猫の拳】を軽く叩く。トシキは頷いた。
「ええ、レティさんの【夜冥猫の拳】は伝説とまでいかないようですけどね」
トシキはさらにもう一本指を折り曲げた。
「最後は『逸話』ですね。何を倒したか、どんな風に倒したか、そういったことで伝説となる武器というのも存在します」
『なんとかと言う神が持っていた』などというどうしようもない逸話もあるが、それは考えないことにする。ドラゴンを倒した、聖人の死を確認した、そういう逸話で伝説になった武装をトシキは思い描いた。
「なので、そのあたりから自分でも武器を造ろうと思うのです」
「んじゃ、とにかく金だな。工房借りるにしても、素材集めるにしても、金がいるだろ?」
「まあ、そうですね。依頼ギルドを活用するのがいいでしょうか」
「そうだな……。ほらよ」
レティが砥ぎ終わったエント枝を放り投げてトシキに渡した。【エント枝の槍】。しっかりと武器になっていた。
レティとサーシャの活躍もあり、その後しばらく狩ると目的の夜樹の雫を手に入れることができた。
夜闇の森を抜けだすと、まだ陽も落ちていない時間帯だ。
持てるだけのエント枝を担ぐと、トシキ達は中央都市へ戻る道を歩き出した。
【次回予告】
依頼クリアはいいものの、再びレティとトシキに問題が襲い掛かる。
依頼ライセンス……持ってない!
取得には試験が必要だと言う。果たして合格できるのか。
トシキ「それじゃあ、試験、受けます!」
狐嬢「――――承りました」
次話:21.依頼免許と戦闘試験/【エント枝の槍】<レッグホールドプラント>




