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【伝説の武器】、僕にください!  作者: 葦 時一
はじめてのいせかい
15/25

14.ハイゴブリンと武器転売屋/【陽命閃導の儀式剣】<ディメンションゲート>

「ゴブ……もご!?」


 トシキが声を出しそうになったのを、レティが慌てて口を押さえて止めた。その顔に誤魔化し笑いを張り付けている。

 レティはトシキの口をふさいだまま、内緒話をするように顔を近づけた。


「お前な、ゴブリンって口に出すなよ? もう一度あの双子メイドが襲ってくるぜ」

「知っているということは、言ったことがあるんですね?」

「うるせえよ」


 レティは軽くトシキを小突く。


「グランツは〝ハイゴブリン”だ」

「結局ゴブリンですよね」

「お前、意外と容赦ないよな……。まあ、見た目は確かにゴブリンなんだけどな」


「聞こえてるヨ!」


 グランツが大声で叫んだ。怒っているらしい。


「オレっちはゴブリンとは違うネ! 〝ハイゴブリン”だヨ! 普通のゴブリンはスキル使えなイ。〝ハイゴブリン”使える! 偉いネ!」

「……らしいぜ?」

「わかりました……」


 トシキとレティはお互いの顔を見合わせた。


「ソレデ! 結局なんの用ネ! 【夜冥猫(プリオナイラス)の拳】はまだ壊れる時期じゃないでショ!?」


 怒り心頭のグランツに用件を切り出したのはレティだった。


「素材を売りたいんだ。夜樹の雫。純度が高くて珍しい品だぜ」

「オマエさんネ。うちが何かわかってるノカ? うちは武器転売屋なノ。新しい武器は作ってないんだヨ」

「使わねえのか? 夜樹の雫っていったらよく鍛冶屋に売れるんだぜ」


 それを聞いたグランツは呆れた顔をした。


「夜樹の雫は歩く樹人(エント)から採れる素材ダ。溶かした鉱石に混ぜるんだヨ。だからイチから造る鍛冶屋には必要でもナ、オレっちには必要ないノ」

「おかしいな……。売れると思ったんだけどな。おい、お前も何とか……って」


 レティは驚いて言葉が途切れた。

 さっきまで横に居たと思っていたトシキが、いつの間にか工房中を動いてはそこらを物色していたからだ。落ちている剣を拾ってはそっと戻し、弦の切れた弓を嬉しそうに撫でる。


「お前……何やってんだ」


 振り返ったトシキの目は、楽しい物を見つけたとばかりに光り輝いていた。その勢いにレティがしまったという顔になった。

 トシキはグランツにきらきらした表情を向けた。


「武器転売屋って一体どんなお仕事なんですか!」

「工房ガランテリアは、買い替えて使い道のなくなった武器を引き取る店だネ。壊れた武器も対象ヨ」

「すごい……!」


 トシキの目には、この工房内にある武器情報が映っていた。そこかしこに転がっている武器達、それら全てがかつて誰かによって使われていた品だ。撃破数も多く、上質な武器が集まっているのがトシキにはわかる。

 撃破数を見ればどんな風に使われていたのかが見える。偏った倒し方をしているものもあれば、まんべんなく使われている物もある。戦いの歴史は武器にあり。その人の人となりが見えてくるようだ。


 トシキの賞賛に、グランツもまんざらでもない様子。上機嫌で言う。


「新しい武器の斡旋もしてル。一度利用してくれたお客のことはよくわかるからネ。その人に合ったセッティングや改造をしているのサ」


 そこまで言ってから、グランツは不思議そうな顔になった。大きな緑色の手を組むと、鋭い視線をトシキに向ける。


「お客サン、タダモノじゃないネ。オレっちはわかるヨ」

「こいつは転生者だ」

「転生者……。なるほどネ」


 レティの説明にグランツは頷いた。しばらく何かを考えていたようだが、やがてその大きな手をあげた。


「いいでショ。『夜樹の雫』買い取ってやル」

「ホントか!?」

「いいんですか?」

「必要としている鍛冶屋に高値で流すヨ。ほれ……見せてみロ」


 トシキは『夜樹の雫』を取り出すと、グランツに手渡す。しばらくグランツは『夜樹の雫』の状態を吟味していたが、納得いくものだったのか笑顔になった。


「確かにモノはいいナ」


 グランツの提示した金額は、かなりのものだった。レティもトシキも了承すると、工房の奥からユニコがお盆に乗せた金貨袋を運んでくる。差し出された金貨袋を、トシキが受け取った。


「ありがとう、ユニコさん」

「……私がユニコだとわかるのですか?」

「違いましたか?」


 トシキは顔で見分けているわけではない。【陽命閃導の儀式剣】を装備しているから、ユニコだとわかっただけなのだ。

 ユニコは微妙な顔をしていたが、何も言わず下がった。


 トシキの手の中で金貨袋はずっしりとした重みを感じさせていた。どうやら多めに入っているらしい。

 詳しく数えてみないとわからないが、もしかすると必要金額に達したかもしれない。

 トシキは心の中でガッツポーズを取った。レティに目くばせすると、わかってくれたらしい、親指をグッと立てて祝福してくれた。


「買い替えの武器が必要になったりナ、壊れたりしたらナ、また来るとイイ」


 そう言ってグランツは再び素材の山へと潜っていった。

 アコとユニコに見送られながら、トシキとレティは工房ガランテリアを後にしたのだった。




 ◆


 トシキとレティが去ったあと、店内には静寂が戻っていた。

 考え込むグランツ。その顔には深い知性がうかがえる。その両側にアコとユニコの二人が控えていた。

 グランツはしばらく考え込んでいたが、やがて意を決したように工房の奥へ向かった。


 工房の奥、炉のある作業エリアのさらに奥、隠し通路の先にその扉はあった。古臭く年代を感じさせる堅牢な扉。これは通常の方法では開けることのできない扉だ。


 アコとユニコが前に出る。〝門鬼”と言う特殊な種族である二人は、双子であることに価値がある。

 双子がそろってスキルを使うことで、異相空間への扉が開くのだ。


「――――<ディメンションゲート>」


 アコとユニコが同時に力ある詞(スペル)を放つ。

 双子武器である【月命閃刃の短剣(デルフィラン)】と【陽命閃導の儀式剣(ソルヴィロウ)】を鍵に、扉が徐々に開いていった。


 透明な異相空間の中には、大量の武具が収められていた。博物館もかくやという美しい展示品達。そのどれもが歴史ある武器であり、いくつかは【伝説の武器】と呼ばれるものすらも存在している。


 その中央に、台座に突き刺さった豪奢な剣が存在していた。その存在感は他の武器をも凌駕する。


 その剣が、グランツに語りかけた。


「グランツか。珍しいな、お前がこの空間に来るのは」

「ガランテリア様。見つけましてございまス」

「ほう……。まことか」


 意思持つ剣であるガランテリアの嬉しそうな声に、グランツは恭しく頭を下げた。


 工房ガランテリアはグランツの工房ではない。正確には、魔剣ガランテリアの持ち物だ。

 魔剣では工房を持つことができないため、代理でグランツが契約を行っている。武器の修繕、改造はグランツが行うが、その指示はすべて魔剣ガランテリアが出しているのだ。武器のことは武器が一番くわしいというわけである。


「転生者でス。アコとユニコの二人のスキルもすぐに見破られましタ」

「イイ。なかなかイイぞ」

「マスターの宿願、叶うといいですナ」


 異相空間の中、魔剣とハイゴブリンの声が静かに広がっていった。

【次回予告】

 転生支援ブレスレットを返納するために相談所を訪れるトシキとレティ。しかしそこでソウヘイとサーシャに再会するのだった。


ソウヘイ「君がボクと同じ転生者のトシキ君かい?」


次話「15.奴隷の首輪ともう一人の転生者/【燐角弓】<バーティカルエア>」

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