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【伝説の武器】、僕にください!  作者: 葦 時一
はじめてのいせかい
11/25

10.夜闇の森とエント/【草原虎の牙ツルハシ】<サモンタイガー>

 依頼(クエスト)ギルドから、依頼を受けたトシキとレティは馬車で〝夜闇の森”に向かうことにした。

 中央都市(セントラル)から各街に向かう馬車、その途中に夜闇の森沿いを通るルートがあるので、その馬車を途中下車する予定だ。


 馬車はごとごとと揺れる。天井の幌がないタイプのオープンカーだ。乗り合いバスのようなもので、ほかにも数名の同乗者がいるが、寝ていたり本を読んでいたり好きにすごしている。

 レティはトシキに【一角兎の角槍】で召喚させた一角兎を撫でまわして遊び倒していた。

 両の前脚をつままれてばんざいさせられた一角兎がぷるぷる震えながら助けを求めてトシキを見ていたが、嬉しそうなレティを邪魔することはできない。


(レティさん、実は小動物好きですよね。たぶんレティさんは認めないでしょうけど)


 たぶん言ったら全力で否定された上に殴られる未来がありありと予想できる。まだ先は長いこともあり、もうしばらく一角兎には犠牲になってもらうことにした。


 そう言うトシキも、例にもれず好き勝手なことをしている一人だった。膝の上に厚手の布を拡げると、その上にファルタイガーの素材を乗せている。


「どうしたものでしょうか……」


 トシキは悩んでいた。

 手に入れたファルタイガーの素材の使い道だ。


 爪は意外と小さく、柄を取り付けたとしても短槍にもなりそうにない。

 サーベルタイガーのような大きな犬歯は、一角兎の角より大きくて太い。しかし、すこし歪曲しているため槍の穂先にすると、曲がった槍になるのだ。なんとも使えそうになかった。


 材料を目の前にうんうん悩んでいると、太く短い手がぬっと突き出された。

 驚いて顔を上げると、そこには豊かな髭をたたえたドワーフが立っていた。緑がかった髪や髭が特徴的だ。


「これじゃあ、不格好だな」

「あ……、はい、僕もそう思います」

「おめさん、武器職人を目指してるのけ?」


 ――――武器職人。

 ドワーフが言った何気ない一言は、トシキの胸の奥の方に、コツンとぶつかった。その思いが何かの形になろうとしたが、うまくいかなかった。もやっとしたまま霧散する。


「こいつぁ、いけねえ。岩モグラの鼻も叩けねえなぁ」


 ドワーフは言いながら槍を手早く分解した。慣れた手つきで牙を結び直す。まっすぐ取り付けるのではなくて、柄に対して九十度直角に括り付けた。


「これでどうよ」

「あ、ありがとうございます」

「ええってことよ。しかし、ちゃんと職人のもとで弟子入りしたほうがええ」


 ドワーフにお礼を言い、トシキは出来上がった物体を目の高さに持ち上げて見た。【草原虎の牙ツルハシ】という名前が浮かび上がってくる。たしかに言われてみればツルハシに似た形状になっていた。ツルハシって武器だったっけ、と思ったが名前が浮かび上がってくるのだから武器なのだろう。

 犬歯は全部で三本あったので全て【草原虎の牙ツルハシ】にしておく。これで【武器力解放】のストックができた。一本を除き、できた分は全て布で包み、紐でくくってまとめておく。


(【武器力解放】で消えてしまうので今は大丈夫ですが、たくさん持つとなると重くなりますね……)


 なんとか解決する方法はないだろうか。トシキはレティに尋ねようとした。


「あっ……」


 レティからとても儚い声が聞こえた。どうやら一角兎が光になって消えてしまったらしい。その残滓が空間に溶けていく。


(なるほど、召喚したモンスターは時間が経つと消えてしまうんですね)


 そういえば初めて呼び出した一角兎もいつのまにか消えていたことを思い出す。


 レティは若干寂しそうな表情をしていたが、トシキが見ていることに気が付くと、ことさら何でもないような表情でわざとらしく外を眺めはじめた。

 トシキは思わず笑みがこぼれてしまう。レティがそこに拳骨を叩きつけた。


「いたたたた……」

「何笑ってんだよ! くそ! 降りるぞ! ここだ!」


 レティは叫ぶとひらりと身軽に馬車の荷台から飛び降りた。トシキは運転手に馬車を止めてもらってから、慌てて降りた。


 トシキの目の前には、どんよりと湿った空気を纏う、暗い雰囲気の森が広がっていた。

 上には太陽が出ているにかかわらず、森の中は陽光が届いてないかのように暗い。〝夜闇の森”というネーミングされるほどだ、これがいつもの光景なのだろう。

 明るい昼下がりの街道からの急激なホラーへ、見た目の変化にトシキはびっくりした。

 運転手の振るう鞭のピシィ、という音がやけに響く。振り返ると馬車が去っていくところだった。トシキは少し心細くなってレティを見た。


「なんだか、いきなり雰囲気が変わっています」

「闇の魔力が濃いからな。行くぞ」

「あ、待ってください!」


 レティは意に介さずどんどんと夜闇の森の奥へと進んでいく。置いて行かれれないようにトシキは慌てて追いかけた。


 夜闇の森の中は、外から見るよりさらに暗く感じられた。足元は朽ちた葉だか苔だかで埋め尽くされており、足音すら鳴らない。

 ずるっと足を滑らせる。何か腐った肉のようなものを踏んだらしい。小さな骨が見えていた。

 ちょっと涙がでそうになった。気持ちを切り替えるためにトシキはレティに話しかけることにする。

 

「レティさん、さっき魔力って言いましたよね。レティさんも魔法を使えるんですか?」

「あ……、魔法なあ。あたしは殴る以外の魔法が苦手なんだよ……」


 レティの拳に紫色の光が宿る。どうやらこれが魔法らしく、攻撃力を上げると言う。レティの鍛えられてはいるが細い腕からどうして凶悪な打撃が出るのかと思っていたが、ようやく理由がわかった。


「魔法というのは、もっと、呪文があったり、炎が飛んだりすると思っていました」

「いや、そういうのもあるぜ? あたしは魔法に詳しくないんだよなぁ……。サーシャなら頭でっかちだからたくさんそういうことを詰め込んでるんだけどさ」

「レティさんは、サーシャさんとお友達なのですか?」


 レティの言葉を聞き、トシキは前々から疑問に思っていたことを聞くことにした。

 言った直後、レティの顔が苦虫を飲み込んだような顔になる。どうやら違うらしい。


「ない。それはない」

「そのわりには親しそうに見えます」

「なんていうか、腐れ縁なんだよ。生まれた家が近所でさ。何かあるごとに突っかかってきやがるから、つい名前が出ちまうんだよなぁ」


 昔の思い出を頭の中で再生しているのか、苦いものを噛みしめながらレティが言う。


「そうそう、この支援パートナーの話だって、サーシャがもってきたんだぜ? おいしい話があるって言うから。絶対こうなるとわかってて話をもちかけやがったに違いない!」


(仲がいいようにしか思えませんが……)


 なにやら怒りの炎を燃やすレティ。その周辺には、蛍のように紫色の光が漂いはじめていた。

 幻想的な雰囲気だが、レティの魔法というわけではないらしい。レティの表情が引き締まったものになる。


「これが漂いはじめたってことは、闇系の魔力が濃いってことだ。そろそろモンスターが出るぞ」

「どんなモンスターなんです?」

「夜闇の森に出るのは、影狼とか獣系モンスターとか、あとは……」


 風も吹いていないのに、いきなりざわざわと枝葉が揺れる音がした。

 驚いた鳥たちがギャアギャア鳴きながら飛び立つ。


 トシキは自分の目を疑った。樹が動いているのだ。電柱ほどの太さの樹に、腕のような枝。二股に分かれた、足のような根。

 地上を歩く、生きた植物系モンスター。


歩き樹人(エント)だな」


 エントの胴体部分がバキバキと裂け、樹の幹が大きな顔を形作った。巨大な顔に手足が生えたようなデザインになる。紫の光を双眸に宿し、裂けた巨大な口からボオオオオという木管楽器のような重低音の雄叫びが響かせた。


 トシキは流れる冷や汗を感じながら、手元のツルハシを握りしめた。この武器で接近戦を挑むなんて考えられない。

 レティはすでに【夜冥猫の拳】を装着していた。準備万端だ。トシキは巻き込まないように、レティに見えるよう【草原虎の牙ツルハシ】を掲げた。


「先に撃ちます! 【解放(リリース)】ッ!!」


 虎の咆え声が聞こえた気がした。

 トシキの力ある詞(スペル)に従い、【草原虎の牙ツルハシ】が光となって飛び散った。


 ――――<サモンタイガー>。


 光の文字を読むか読まないかのうちに、予想以上に光が膨れ上がる。次の瞬間には、目の前に体長三メートルほどのファルタイガーが召喚されていた。トシキが戦ったのと比べ、ちょっと小さめなのは、武器の出来が悪いからだろうか。

 ファルタイガーはおとなしくトシキの命令を待っている。


「じゃ、じゃあ攻撃です! 行ってください!」

『ゴオアッ!』


 ファルタイガーが一声吠え、エントに跳びかかった。肉厚な前脚を振り上げ、エントに叩きつける。

 エントもすぐにファルタイガーを敵と認識したようだ、モンスターどうしが激しく争いはじめた。戦闘力的には拮抗しているらしい。


 そこにレティが飛び込んだ。ファルタイガーを狙って前腕枝を振り下ろした隙を逃さず、ストレート一閃。幹にへこみができる。レティはすぐに離脱。

 ファルタイガーとの連携で、戦闘はすぐに終了した。バラバラになった樹の残骸が後には残されていた。


「レティさん」

「何だよ」

「今回、採取系依頼(クエスト)ですよね」

「そうだぜ? 『夜樹の雫』はエントから獲れる素材だからな。……うーん、コイツは持ってねえな」


 ガサガサとエントの残骸を吟味するレティは、うきうきとしていた。溌剌とした表情が、夜闇の森の雰囲気と正反対だ。


(だ、騙されました……ッ!)


 がっくりとうなだれるトシキに、召喚したファルタイガーが慰めるように寄り添った。


【次回予告】


 遠距離魔法主体で動かず待ち受ける敵。樹人の魔法使い相手に、トシキとレティは苦戦する。


トシキ「レティさん! 誰か捕まっています! 助けないと……!」

レティ「ちょ、お前……ッ! バカっ!」


次話「11.夜樹の雫とエルダーエント/【草食みの大鎌】<ブラストサイス>」

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