一般生徒Tの葛藤
お待たせしました。続きでございます。
-side 田島亮-
──何かが、確実に、変わり始めている。
いくら他人の感情に疎いとはいえ、それくらいは俺にも分かっていた。
きっかけはやはり、アリス先輩からの告白だろう。
何気なく過ぎていたように思えた現状は、彼女の一言をきっかけに変わり始めた。
共に過ごすために、無意識のうちに曖昧にしていた気持ちを。ふとした瞬間に、彼女はまっすぐに、伝えてくれたのだ。
以降、俺は悩みに悩む日々が続いた。俺なんかが返事を保留にするなんておこがましいかもしれないが、気持ちをハッキリさせるために、俺は一時的な現状維持を選んだのだ。
ただ、その仮りそめの現状維持も、長くは続かなかった。
迷う暇は無い、と。月日はお前が思っているよりも早く過ぎ座っていくんだぞ、と。まるで神様が、俺を急かしているかのように。
【私はね? 亮のことが大好きなんだよ?】
──幼馴染は、秘めたる想いをぶつけてきたのだ。
「ふぅ……」
放課後。夕暮れの教室。ため息混じりに、窓外を見つめる。
ひとりぼっちで黄昏れる俺とは違い、部活生は青春に励んでいるようだ。いつものように、いっちに、いっちに、と、駅伝部はグラウンドを駆け回っている。
特に目で追ってしまう姿は、やはり仁科唯の姿だった。毎日手を抜かずに頑張っている彼女であるが、今日は特に気合が入っているように見える。
【来週の陸上県予選、亮に見に来てほしいの。そこで、強くなった私を見てもらいたい】
心当たりは、ある。次の大会に向けてハりきっているのだろうという、予測はつく。
だが、今日の唯は、心配になってしまうくらいに全力で走り込んでいた。
無理をしている、と言えばいいのだろうか。とにかく、不安になってしまうくらいに、必死なのだ。
「来週、か」
いずれ迎える、そう遠くない未来を想像する。
特に理由があるわけではないが、そこで何かが変わる気がして。思い描こうとしたって、どうせ分からないくせに。愚かしくも俺は、己の未来を空想するのだ。
ああ。きっとそれは、俺が迷っているからなんだろう。
自分で自分が選ぶべき選択肢を分かっていないから。不透明な未来をクリアにしたくて、必死に未来を想像する。
けれど、そうしたところで何も変わりやしないから。無為に思える堂々巡りの思考を、俺は繰り返すのだ。
自己嫌悪には慣れている。だが今回の自己嫌悪は、特に気持ちが悪かった。変わっていく周囲についていけない自分が、嫌で嫌で仕方が無くて。それでもなお、心のどこかで現状維持を望む自分が、気持ちが悪くてしょうがない。
「……そろそろ、帰るか」
独りで何かを考えれば、何かが変わったり、何かが分かるような気がした。
けれども、そんな都合が良いことなど起きるはずもなく。俺は帰り支度を始める。
その折で、ガラリ、と。突然、教室の戸が開いた。
「た、田島くん!!」
振り返れば、眼前に居たのは岬京香で。
夕日に照らされているのか、その頬はほんのりと朱に染まっていて。
「え、えっと! きょう、一緒に帰ろっ!!」
いくら未来が分からないとはいえ。この展開は少し、予想していなかった。




