表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ゆりたちの交換日記  作者: 日々一陽
第3章 優しさの伝え方
27/35

第6話

 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆


 2時限目は体育館で、本日のお題はバレーボールだった。

 準備の柔軟運動が終わると、適当にチームを組んで練習試合が始まる。


「はいっ」


  バシッ

  ダアン!


「凄いっ、絵里花さん!」


 絵里花さんはフィギュアスケートをやってるだけあってジャンプが凄い。そしてバレー部並みのアタックを叩き込む。金髪美人の必殺アタックって、惚れ惚れするほどかっこいい。ってか、あんなの取れない。逃げちゃう。ホントに味方でよかったって千鶴は思う。


「いえいえ、結希さんのトスがよかったからよ」


 結希さんも運動得意。陸上部では幅跳びの選手だったって言うし。

 相手陣営からは、「あのチーム反則」って声も聞こえてくる。


「行ったわよ千鶴さんっ!」


 って、今は試合中。

 私だって頑張れば――


「あっごめん」

「大丈夫、はいっ!」


 千鶴の中途半端なレシーブを絵里花さんが綺麗に上げると、今度は結希さんが高く飛んだ。


  バシイッ!


 決まった。

 ボールが可哀想になるくらいのアタック。


「さっすが陸上部!」

「過去形だって」


 結希さんは「大した記録持ってないし、私の役割はムードメーカだったの」と謙遜するけど、軽々と相手のブロックの上からアタックを叩き込む。


「次、千鶴さんのサーブ。よろしく」

「はいっ」


 バレーは得意じゃないけれど苦手でもない。ここは負けじと思いっきりボールを引っぱたく――


「あっ!」

「取っちゃだめっ!」

「ごめんっ!」


 大き過ぎたサーブに、相手の選手が手を出してくれた。


「見送ればアウトだったのにっ!」


 まあ、運も実力の内、と思っておこう。


「パン パパン」


 で、お決まりのハイタッチ。


「じゃ、もう一本行ってみよ~っ」


  …………

  …………


 ってな感じで。

 全力の一試合を終えると、軽く汗をかいていた。


「はあ~っ…… 絵里花さんって何でも出来るのね」

「ふう~っ…… 結希さんこそ、さすが陸上部ですわ」

「元、だけどね」


 体育館の隅、次の試合を見学しながら3人並んで体育座り。


「そう言えば結希さん、新聞部にお入りになったんですって?」

「地獄耳ね」

「結希さんのノワールは「あの」紗和さまでしたものね」

「紗和さまって、新聞部のスッポン――」


 口を挟んだ千鶴の問いに、結希さんは肯いた。


「ごめんね。隠すつもりはなかったんだけど、実はそうなの。スッポン――、いや紗和さま、根はいい人なんだよ。真っ直ぐで熱くて。時々イノシシみたいに突っ走って、スッポンみたいに喰らいついたりしちゃうけど。だから今日のことはごめん」

「どうして結希さんが謝るの?」

「だって紗和さまは、私のノワールだったんだもの」

「ねえ、今日のことって何? 私にも教えてくださる?」


 長い金髪を束ね直しながら絵里花さん。


「話してもいいかな?」

「千鶴さんさえよければ」


 体を動かすと気分も大きくなる。千鶴は一部始終を喋った。途中、結希さんの解説が付いた。

 話を聞いた絵里花さん、ふたりの顔を交互に見ると、最後に千鶴を直視した。


「千鶴さんに知っておいて欲しいことがあるの。万里子ちゃんのこと」

「万里子さんの?」

「私と万里子ちゃんをクルールに、って思ってる方が多いみたいですけど、その可能性はゼロですわ。だから千鶴さん、どうかうわさに振り回されないでね」

「えっと…… 可能性がゼロってどういう……」


 意味を掴みかねる千鶴に向かって絵里花さん。


「万里子ちゃんは律儀ですから。春休みに「他の人に申し込みます」って、わざわざ了解を取りに来たの。それが千鶴さんだと知ったのは昨日ですけど」

「そうなの……」


 目の前に転がってきたボールを拾い、千鶴は投げて返した。


「教えてくれてありがとう」

「いえ、どういたしまして――」


 しかし、千鶴は思う。

 だったら、今朝はどうして浮かぬ顔をしていたのだろう。


「万里子ちゃんはいい子よ」

「はい、知ってます」

「きっとおふたりは、お似合いのクルールになるわ」

「私なんか、全然……」

「そう言えば」


 ぽん、と手を打ち、結希さんは話に割り込んだ。


「絵里花さんの信奉者、いたよね。えっと……」

穂垂ほたるちゃんかしら?」

「そうそう、穂垂ちゃん。あの子からは申し込みあったの?」

「さすがは新聞部、ストレートに来ますわね。でもノーコメントよ」

「信奉者って?」


 千鶴の問いに、絵里花さんは少し遠い目をした。


「私をとても慕ってくれた後輩です。でももう昔のことで、今はどうだか―― それよりも結希さん、朝のお申し込みはどなたから?」

「反撃してきたわね。じゃあ私もノーコメント」

「千鶴さんはご存じですの?」

「私にも教えてくれないんですよ、極秘だって」

「もしかして、お断りになるつもり?」

「だからノーコメントだって!」


 ちょっと語気を荒げた結希さんは、しかしすぐに我に返る。


「あ、ごめん。あの、さ。クルールって相手のことも考えないとでしょ? だから――」


 結希さんには珍しく声が尻つぼみに消えた。


「結希さん、元気出そうよ」


 千鶴は結希の背中を叩いた。


「そうね」

「そうよ。私には「ノワールは受けの一本道だ」って散々に勧めておいて。でもさ、結希さんを選ぶなんて、お目が高いね」

「ええ、そうですわ。結希さんって後輩に人気がおありでしたし」

「だったらいいけど」

「湿っぽいですわね。そうですわ。週末にどこかへ出かけませんか? ショッピングとか」

「この3人で?」

「ええ、お近づきの印に」

「賛成!」

「私もっ」


  パン

  パン

  パアン


 そうして座ったまま3人は、ハイタッチを交わし合った。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ご意見、ご感想、つっこみ、お待ちしています!
【小説家になろう 勝手にランキング】←投票ボタン
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ