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プレリュード

 一度目は、まだ黒髪黒目の日本人だったから──。


 ある日突然、地面が消えた。気がつけば荒野に立っていた。


 100人くらいの集落で拾われ、元の日本ではあの頃、漫画アニメやゲームにサバイバルモノが溢れていたから、にわか知識を披露して、成功したり大失敗したりしながら馴染んだ。


 赤や青や黄色、緑に紫……カラフルな髪色の人が多くて驚いたっけ。

 あっちは私の真っ黒な髪と瞳に興味津々だったけど。見たこと聞いたことのない髪と目だったんだって。


 大地も海も自然は世界中で厳しい環境の、そのど真ん中にあった集落。

 それでも、ひとつひとつ改善して、一人二人と協力者を得て少しずつ生きやすい世界に変えた。


 とある天然の氷室で出会った【彼】も「きみに託そう」と言い、私も集落の人々と頷きあって「任せて」と約束することが出来た。





 6年目、荒れ地の土も復活して、泉もいくつも見つけて、人も生き物も何故かあっという間に増えた。


 お世話になっていた家の女の子が隣家の幼馴染と結婚したりして、あちこちハッピームード一色。

 もうすぐ子供が生まれちゃう、しかもなんかお腹大きくない? 多胎? ──なんて、集落は幸せいっぱいだった。




「ああ……こんなところにいた」


 巨大な錫杖を持った女が、背中に翼のある真っ白な従者? を何人も連れて現れた。


「わたしは女神クレアレイス」


 村一番の収穫祭の真っ只中、そいつは私をまっすぐ指差した。


「おまえ、おまえだ。わたしの破滅の象徴。この世界の魔王」


 みんなの視線が集まったことを忘れない。

 異世界転移あるあるで、この地では初見ないろんな知識と発明でみんなに信望されるようになっていた私。


「──死んでおくれ、わたしのために」


 次の瞬間、世界は白い稲光に包まれ、みんな死んだ。


 ごめん……私のせいだ。





 2回目があって、あの時はホッとしつつ絶望した。

 裕福とは言えない農家に生まれ、やっぱり異世界転移、いや転生あるあるのあれこれで少しずつ周囲は豊かになる。

 黒髪黒目ではなかったけど、日本人の頃には無かった魔力が自分の中にあることに気づく。


 最初に来たのはアイリオル。

「あなたをお守りするために……」

 そう言って眼前で膝を折る。


 日々膨れ上がる魔力の制御にアイリオルとともに苦心しているとまたやってきた。

「クインシーだよ……来たるべき日に備えよう……」

 魔術魔力に精通したクインシーは私達二人を未踏の山へ誘う。ここなら力が暴発しても大丈夫だと。


 けれど、ある日、天使がやってくる。

 背中に翼を持つ真っ白な、人とは言えない女神の従者たち。


「やハリ魔王だ。まダ死んでいなかった……女神様にご報告を……」

 天使はそう言って襲いかかってきた。


 戦う術をほとんど持たなかったから一方的になぶられたけれど、もうだめだというところまで追い詰められ──最後にサシャが来た。


「俺が、俺がぜんぶやってやる」

 サシャはそう言って大剣を振り回し、天使を追い払ってしまう。

 天使は「ギ……ギギィ……ま、魔王。次は殲滅する」と言って消滅した。


 

「私は魔王なの?」

 三人に問えば「知りません」「……違うよ」「は?」とアイリオル、クインシー、サシャは答えた。


 それから天使達との小競り合いが続き、私達は抗う術を手に入れていく。

 全属性魔術、武具、様々な戦い方、私ほどひどくはなかったけど女神からの迫害を受け、僻地に暮らすことを余儀なくされた異亜人達と手をとる。


 度重なる天使軍の襲撃に、力の制御が下手な私はあちらこちらを破壊してしまった。不可抗力とはいえ申し訳ないとは思っていたのに。


 10年、15年の逃亡。

 ついに人間の追跡者が加わる。

 女神の信徒だとか言って、私を「魔王」と呼んで──。

 クインシーの作った根城にいたとき、襲撃を受けて逃亡中に集めた仲間たちもろとも「討伐」された。






 3回目に目覚めた時の、全身が沸き立つ怒りを覚えている。


 私達に何の(とが)があったというのか。


 赤子のうちから燃え上がるような魔力──。

 それもすぐに抑え込む。もう、コツは掴んである。


「いいよ、魔王。私が魔王」


 日本人として異世界転移してきた時、集落を一撃で破壊されたことだって忘れていない。

 手を伸ばした先に身重だった友人が居た。助けられなかった。


 約束をしていたのに。託されていたのに。


 2回目は、数え切れない仲間達を失った。

 誰より魔力も多く、魔術も上手く使えてたのに、私が一番強かったのに、一人も護れなかった。


 3回目は女神を討つことを目指した。




 そうして──。

 クインシーの建てた巨大な魔王城ごと叩き潰された。

 女神の加護を全身にあふれるほど受けた勇者と聖女とその仲間たちに、勝てなかった。



 ああ……ああ……何度負けを繰り返すのだろう……。

 私達は覚えていた。

 対策を整えていた。なのに、負け続ける。

 今回はすべてを、全力を()した。

 なのに、人間に打ち砕かれた。



「──ヤダ……もう……疲れたの……」



 目の前が文字通り真っ暗だった。

 また死ぬ。

 アイリもクインもサシャも先に逝った。

 伝承を守って与してくれた異亜人達も痛手を被ったはずだ。


 託されていたのに、約束……したのに。


 誰も死なせたくない……。


 もう戦いたくない……。


 もう……もう…………もう……────。


 もう言葉になんてならない。




「……だから……魔王やめ……たい……」







 そうして、4回目がはじまる。



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